日常使いの「SIWA | 紙和」
紙は、読み書きするためのツール。
一般的に、普段触れている紙から想起するのは、
そんなことではないでしょうか。
しかし、それまで抱いていた紙の概念を覆されるようなモノに、
山梨県で出会いました。
「SIWA | 紙和」
驚くほどの軽さなのも、それが和紙で作られているから。
さらに、
10kgほどの重い荷物も入れられるほど丈夫です。
しかも、
濡れた傘などを入れても、破れることはありません。
軽くて、丈夫で、水に強くて、スタイリッシュ。
和紙でまさかこんな日用品が生み出せるとは
。
作り手は、山梨県市川大門の老舗和紙メーカー「大直(おおなお)」。
笛吹川・富士川の清流に恵まれたこの地では、1000年前から和紙漉きが盛ん。
障子紙の全国シェア40%を誇るほどの産地となっています。
「この障子紙を漉く技術が、今の『SIWA | 紙和』の開発につながったんです」
大直の営業開発・プロデューサーの一瀬愛さんが、
「SIWA | 紙和」シリーズの開発の背景について教えてくれました。
一口に和紙といっても、大直で開発してきた和紙は多種多様です。
かつて江戸幕府に献上されていた、肌のようにすべすべとした「肌吉紙」から、
カラフルなもの、透かしのあるもの、丈夫なもの
、
原料も楮(こうぞ)にとどまらず、バナナの葉やペットボトルのリサイクル繊維まで。
ただ共通していることは、
和紙づくりの技術を用いて、繊維を漉いていること。
伝統技術を生かしながら、時代に必要とされる素材を開発し続けてきました。
「『SIWA | 紙和』シリーズは、弊社の開発した紙の中でも非常に強度のある紙の一つです」
そう一瀬さんが話す紙は、「ソフトナオロン」と呼ばれる、
木材パルプとポリオレフィン繊維を原料に自社開発したもの。
一度シワがつくと取れにくい性質を、逆に利用したのです。
「マイナスポイントと思っていた性質をデザインに生かせたのは、
デザイナーの深澤直人さんのアイデアでした」
この「SIWA | 紙和」を語るうえで欠かせない人が、
同じ山梨県出身の工業デザイナー、深澤直人さんです。
2007年、深澤直人さんが山梨県デザインセンターで講演をしたのをきっかけに、
大直との和紙を使った新商品開発プロジェクトが始まりました。
「生活様式の変化から、障子のない家も増えています。
また、和紙の製品は和風のイメージが強いことから、
お客様も年齢層の高い方が多かったのです。深澤さんには
"幅広い年齢層向けに、生活に密着しているモノを作りたい"と相談しました」
そして、経済産業省の推進する第1回の地域資源活用認定にも選定され、
翌年には晴れて「SIWA | 紙和」シリーズが誕生するのです。
いとも簡単にこうしたプロダクトが誕生したように感じますが、
その裏側には、日本の繊細な技術が隠されていました。
「紙は、布や革みたいに伸びないからね。
繊維も詰まっていて、間違えて針を刺したらやり直しもきかない。
寸分違わぬ裁断と縫製する技術が求められるんですよ」
「SIWA | 紙和」製品の縫製を手掛ける方はそう語ります。
製造の過程で生じるシワが、商品にそのまま反映され、
そして、使い込んでいくごとに、そのシワは刻まれ深みを増していくのです。
和紙で作られた、シワを育てていく日用品。
日本にも既にファンが定着しつつある「SIWA | 紙和」ですが、
驚いたことに、その反響は海外からの方が強いそう。
パリの「メゾン・エ・オブジェ」に出展したことをきっかけに、
今や世界各国、欧米、北欧、台湾を中心に展開中で、
製品の出荷量は国内販売を上回る月もあるそうです。
その広がりは、一瀬さんがパリへ出張で訪れた際に、
地下鉄の構内で、目の前の人が持っていたのを目撃したことで実感したといいます。
何もかも順調に進んでいるかのように見えますが、
一瀬さんは、まだまだと語ります。
「紙の可能性はもっとあるはず。
モノがあふれている時代、本当に世の中に必要とされるものを、
優れた知恵、技術を持った色々な方々と力を合わせて
垣根を越えて作っていきたいです」
日常から離れた工芸品を仕立てるのではなく、
伝統技術を生かし、現代のくらしへ発信し続ける大直は、
「SIWA | 紙和」を通じて、和紙の可能性を限りなく追求していました。