MUJIキャラバン

印伝

2013年03月28日

山梨県民が一家にひとつは持っているといわれるものがあります。

「印伝(いんでん)」

印伝とは、甲州(山梨県)に400年以上も伝わる鹿革工芸で、
山梨県と国の伝統的工芸品に指定されています。

実際、滞在中にお会いした方の名刺入れやお財布、
携帯ケースなどの身の回りの物に印伝を見かけました。
山梨県内では、お祝い事などの贈り物に使われることも多いそう。

鹿の革に模様を染めるといった皮革加工技術は、
奈良時代には既に日本に伝わっており、
奈良・正倉院宝庫には足袋が、東大寺には文箱が残っているそうです。

鹿の革はとても柔らかく加工しやすいうえ、
軽くて強度や耐久性に優れているという特性があり、
戦国時代には武将たちの武具にも使われていました。

「印伝」の名の由来には諸説あるようですが、
17世紀に東インド会社から輸入した鹿の装飾革に魅了され、
印度伝来を略してそう呼ぶようになったとか。

現代に見られる印伝の代表的な技法のひとつ「漆付け」は、
江戸時代に甲州の地で誕生します。
かつて印伝は全国各地で作られていましたが、四方を山に囲まれた甲州では、
原料である鹿革や漆が手に入りやすく、印伝が発展するには最適の地だったようです。

当時の印伝は、鹿革に塗った漆のひび割れ模様を楽しんでいたといい、
「地割れ印伝」や「松皮印伝」などと呼ばれていました。
その頃には、武家や庶民の間で巾着やたばこ入れなどの
身の回りの物に印伝が用いられ、人々の目を楽しませたといいます。

この「漆付け」の技術を確立したのが、
今回お邪魔した、1582年創業「印傳屋」の遠祖・上原勇七氏でした。

もともとは撥水や防虫目的で使われていた漆ですが、
後に型紙を使った様々なデザインが生み出されるように。
染色した鹿革に模様を切りぬいた型紙を置き、
職人さんがその上からヘラで漆を丁寧に、均等に摺り込んでいきます。

型紙をはがすと、革に美しい模様が浮かび上がります!
漆の語源は"潤う""麗わし"にあるといわれ、時が経つほど光沢を放ちます。

印傳屋には、代々伝わる型紙が100種類以上あるそうですが、
それらの模様は自然や四季に敏感な日本人の美意識が生み出したもの。

青海波、小桜、とんぼなど江戸時代から伝わる「江戸小紋」もあれば、
毎年新しい柄も生み出されています。

また、印伝のルーツとされる最古の皮革加工技法「燻べ(ふすべ)」は、
現在では唯一、印傳屋だけに伝承されている日本独自の技法。
それはなんと、煙で燻(いぶ)して革を染める方法でした!

タイコと呼ばれる木の筒に鹿革を巻き付け、
稲藁を燻した煙だけを用いて着色する技で、熟練の職人だけが駆使できるそう。

職人の神宮寺秀哉さんは、

「『燻べ』は触感、質感、色など鹿革の良さが生きる技法です。
天然のものなのでマニュアル通りいきませんが、
色ムラができないように目を離さず調整していきます」

と、そのコツを話してくださいました。

こちらは量産ができないため、オーダーメイドのみで作られています。

ちなみに江戸後期に数軒あったといわれる印伝細工所のうち、
現代に残るのは印傳屋だけだそうですが、
それは「技」の継承を代々家長にのみ口伝されてきたのが理由だとか。

そして、その技を確実に伝承するために行ってきたことを
お話を伺った総務部長は次のように語ってくださいました。

「伝統の技を途絶えさせることのないよう、細かいことの積み重ねをしてきました。
例えば、毎年行う社員旅行の際には、
万が一に備え、職人は何組かに分けて移動することをしています」

日々の行動に"自分たちが技を守り、後世にそれを伝えていくんだ"
という強い信念を感じましたが、
伝統に加えて、世の中に求められているものを作る柔軟さも
大切にされているといいます。

「作り手がいくら素晴らしいものだと思っていても、
売れなければそれは自己満足に過ぎない。
使う人がほしいと思うものを作るのが我々の役目です」

その言葉は売り場にも表れていました。

レジの後ろにズラリと並んだ引き出しの中には、
売り場に並び切らない、革と模様の色の組み合わせの商品が入っているのです。

さらに、在庫にない色の組み合わせは、
注文に応じてひとつからでもオーダーメイドしてくれるのです!
これも昔から変わらない売り方です。

使えば使うほど艶が出て、味わいが増す印伝。
山梨県民ならずとも、日本独自のこの貴重な鹿革工芸を
使う立場として、守っていければいいなと思いました。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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