干し柿
桃、ぶどう、梨などフルーツ産地として知られる山梨の1年を締めくくるのは柿。この時季になると、地元の道の駅には渋柿の箱が山積みされ、わが家でも干し柿作りに励みます。
柿には甘柿と渋柿がありますが、寒いところでは渋柿しか育たないというのは、富士山麓に移り住んで初めて知ったことでした。甘柿の栽培には北限があり、栃木県小山市あたりがそのラインとされているのだとか。私の住む村は緯度的にはそれよりずっと南に位置するのですが、標高の高さゆえでしょう。道の駅で地元産として売られている柿は、ほとんど渋柿です。
わが家はその道の駅よりもさらに200メートル高い、標高約1200メートル。本当は自分の庭になった柿で干し柿を作りたいのですが、柿の苗木を買おうとしても、住所を言うと「あ、あそこじゃダメだ。実がならない」と植木屋さんに相手にしてもらえません。
渋柿にもいろいろありますが、私が買うのは、主に甲州百匁柿(ひゃくめがき)という品種。1匁(もんめ)は3.75グラムですから、その名の通り、百匁(375g)はあろうかという大きな柿です。今年買ったのは、16個入りで1800円のものを6箱。こちらはほとんどプレゼント用で、家族が日常的に食べる分としては、もう少し後に出回る小ぶりの渋柿(50個で1200円程度)を2箱くらい買い足します。
大きさもさることながら、甲州百匁柿で作る干し柿は、ねっとりして、ともかく甘いのが特長。自然の甘みですから、いくら食べても飽きることはありません。
干し柿作りの作業は、いたって簡単。ただ皮をむき、紐で結びつなげて吊るして干すだけです。あとはお天道様と風に任せて、ひたすら待つのみ。これで年末か年明け頃には食べ頃になります。干し柿は、まさに「時間」が醸し出す甘さです。
干し柿を作り始めて10年近くになりますが、最初の2~3年、野鳥たちは柿が吊るされていても見向きもしませんでした。「さすが、野生!渋いことを知っているんだ」と感心したものですが、渋が抜けて甘くなっても近寄ってきません。どうやら、干し柿が甘くなるものだということを知らなかったようです。
ところが、4年目くらいのある日、1羽のコガラが柿にとまり、甘くなった実をついばんでいるのを目撃しました(写真に収めていないので、お見せできないのが残念)。しかも、いちばん大きくてやわらかく熟したものを選んで。その柿は野鳥にプレゼントするつもりで、そのまま吊るしておいたのに、今度は別の柿をついばんでくれました。「ちょっとお行儀が悪いんじゃない?」と言ってみても、もちろん鳥には通じません。それでも、最初の年は3~4個の被害で済みました。
被害(?)個数は、毎年少しずつ増えているような気がします。最初に干し柿をついばんだ1羽が、「おいしかったよ~」とつい口を滑らせてしまったのか、それとも仲間に自慢したのか・・・。野鳥の寿命が何年くらいあるのか知りませんが、毎年同じ鳥が来ているとも思えません。親から子へと口承されているとしたら、これはすごいこと!私たち人間が知らないだけで、動物の世界にもいろいろな情報網があり、それらが受け継がれているのかもしれません。
東京に江戸時代から続く農家の友人がいます。敷地内に柿の木も多いので何度か干し柿に挑戦したと言いますが、黴が生えて成功しなかったとか。気温や湿度、風など、いろいろな条件が関与するのでしょう。
その意味では、寒い時には氷点下18度にまでなるこの森は、干し柿作りに絶好の場所。そう思えば、肌を刺すような寒さも、我慢できるというものです。雪景色の中に柿色のすだれが垂れる冬景色を眺めつつ、時間が熟成してくれる甘みを待つことにしましょう。
前号のブログ「草もみじ」には、たくさんの情報をお寄せいただき、ありがとうございました。教えていただいたことをもとに、随時、草花の名前を追加・修正していきますので、どうぞご覧ください。