連載ブログ 富士山麓通信

たくわん漬け

2011年12月21日

この時季になると、道の駅や地元のスーパーに沢庵漬け用の干し大根が並びます。農家が多く干し場所もたっぷりあるこの土地で、なぜわざわざ「干した」大根を売るのだろう・・・? 最初のうちは不思議な気がしたものです。
東京で暮らしていたころに自分で育てた練馬大根をベランダで干して沢庵漬けしていた私としては、森へ移住してからも当然、「自分で」大根を干しました。森の中で白いカーテンのように連なる干し大根は、とても素敵な風景。と、ひとり悦に入っていたら・・・なんと、干した大根の芯が凍って鬆(す)が立っているではありませんか。
そうでした、ここは寒冷地。どんなに広い土地があっても、この時季に大根を外干しできない理由があったのです。郷に入っては、郷に従え。それからは、干し大根をありがたく買って、沢庵漬けをすることにしています。

店頭に鎮座する干し大根と煎り糠の山。冬が来たな、と感じる風景です。

「への字」に曲がるまで水分が抜けた干し大根。漬かってすぐ食べるなら、このくらいの干し方で。春まで食べようと思ったら、大根の葉先とシッポがくっついて輪になるくらいまで干し上げて使います。

沢庵漬けの材料は、大根と米糠(こめぬか)と粗塩(あらしお)が基本。わが家ではさらに、ざらめ糖(手前の鉢の中)と昆布、赤唐辛子、干したニンニクと柿の皮(白いお皿の上)を加えます。

柿の皮は、干し柿を作ったときの副産物。ニンニクは、スライスして干します。

今回は、約8kgの干し大根を使いました。それに対して、米糠が800g、粗塩が400g、ざらめ糖が300g。昆布1/2本、赤唐辛子2本、干した柿の皮とニンニクスライス少々も加えました。柿の皮の代わりに、干したみかんの皮も使えます。
仕込んで、約1ヵ月で漬け上がり。その後、3月の初め頃まで食べられます。食べて味が薄いようだったら、追加の塩をふって追い漬けするなど、好みに合わせて調整できるところも手作りならではのよさでしょう。

  •  

米糠と塩・砂糖を混ぜ合わせて糠床を作り①、容器の底に少量を敷きます②。その上に大根を並べ③、昆布・赤唐辛子・柿の皮を散らし④、糠床をふります⑤。さらに大根を並べ⑥、糠床・大根と交互に積み重ねていき⑦⑧、最後に押しふたと重石をのせ⑨、ふたをして冷暗所に保存します⑩。数日後に漬け汁が上がってきたら⑪重石を5kg程度まで減らします。

沢庵漬けを教わったのは、東京で暮らしていたころに通っていた農業塾でした。わずか8坪の畑から家族3人で食べきれないほどの野菜が収穫できて、有り余る野菜をどうするか、という必要に迫られて教わったもの。まさに保存食としての漬けものです。
教わるまでは「沢庵漬けなんて、むずかしそう」と思っていたのですが、実際にやってみると拍子抜けするほど簡単。仕込む段階での糠はさらさらに乾いていて手が汚れることもありませんし、途中でかき回す必要もないので、糠漬けよりよほど楽ちんです。仕込むだけ仕込んだら、あとは目に見えないミクロの世界で行われている発酵の期間を「待つ」だけ。時間との共同作業と言えるかもしれません。
そして、糠と塩を基本にしたシンプルで混じり気のない味わいは、市販の沢庵では得られないおいしさ。自分で入れたもの以外は入っていない安心感も、今の時代では貴重なものでしょう。干した大根を買えば都会でも簡単にできますので、どうぞお試しください。

  • プロフィール くらしの良品研究所所員
    M.Tさん

最新の記事一覧