塩麹(しおこうじ)
塩麹がブームです。テレビでもたびたび取り上げられ、近所のスーパーの棚にも普通に並んでいます。
糠味噌はもちろん、たくわんも、味噌も、東京で暮らしていたころはキムチまで手作りしていた私ですが、恥ずかしながら、ブームになるまで塩麹というものを知りませんでした。発酵大好き人間としては、遅れをとった感じ。早速、塩麹づくりにチャレンジしました。
塩麹の作り方を調べてみると、材料は塩と麹と水だけ。「こんなことなら朝飯前」と、買い置きしたまま冷蔵庫の中で眠っていた玄米麹を出して、すぐに取りかかりました。レシピ通りにやれば、生の麹300gに対して塩100g、水300~350cc。でも買い置きの玄米麹は1袋500gです。中途半端に残しても
と思い、一度に使うことにしました。塩と水はレシピの比率に合わせて増やします。
まずボウルに麹を入れて手でほぐし、塩を入れて、全体を手でよくすりもんで混ぜる。次に水を入れて混ぜ、保存容器に移し、毎日1回かき混ぜて空気を入れる。常温で1週間から10日置いて、麹がほどよく溶けて、塩角がとれてまろやかになったら完成。と、こうなるはずでした。
ところが、1週間たっても10日たっても変化なし。それでも最初のうちは、「麹が玄米だから」「ウチは寒冷地だから」と、「余裕」で待てました。2週間を過ぎたころから「おかしいな」と思いはじめ、そのうち「もしかして 」という不安が。家族からは「失敗じゃないの?」「もう捨てたほうがいいよ」と横槍が入ります。諦めきれず、3週間以上かき混ぜ続けましたが、やっぱり変化なし。麹の袋を見直してみると、とっくに賞味期限が切れています。忙しさにかまけて冷蔵庫に入れっ放しにしている間に、麹の命を無駄にしてしまった 後味の悪い結末になりました。
500gもの酵母を無駄死にさせたままで終わるわけにはいきません。償いの意味も込めて、再度、塩麹づくりに挑戦です。今度は、麹が届いたらすぐに仕込みができるよう、仕事のスケジュール調整もした上で、米麹を注文しました。
そして出来たのが、こちら。玄米麹を普通の米麹に替えただけで、作り方はまったく同じ。要は、「麹の元気」にかかっていたのです。
(右) 完成品は瓶詰めにして、冷蔵庫へ。
塩麹という新しい調味料を手に入れたことで、わが家の料理の味はぐんとアップしました。といって、特別に手をかけるわけではありません。いつもの焼き魚に塩麹を塗るとか、浅漬けの塩が塩麹に替わるとか、そんな簡単なことばかり。塩味と旨みをあわせ持ち、素材の持ち味を生かしてくれるので、逆に手間は省ける気がします。そんな塩麹1年生の料理例を、いくつかご紹介しましょう。
(右)きゅうりの塩麹漬け:塩の代わりに塩麹をまぶすだけ。
塩麹の元になる麹菌(こうじきん)は、日本でしか増やせない特別な菌だといいます。その麹菌の種は、秋の田んぼの稲穂につく「稲麹(いなこうじ)」。かつて稲麹は豊作のしるしとして、ありがたいものとされていたようですが、現在はモミを黒くさせると嫌われ、病気とみなされるのだとか。稲麹は生きものですから、もちろん、農薬を使う田んぼにはつきません。
今年の初め、微生物のチカラを生かして酒造りをしている酒蔵(千葉の寺田本家)を訪ね、ご当主のお話を聞く機会がありました。その酒蔵では、自家田で米を作り、その田んぼの稲穂につく稲麹を採集し、酒造りのための麹菌を自家培養しているそうです。下の写真は、そのときに見せていただいた「稲麹」。いまでは滅多に見ることのできない「お宝画像」です。
麹を含む微生物たちは、目にはみえないけれどたしかに生きていて、その生きやすさも生きにくさも、私たち人間の暮らしと深く関わっているんですね。発酵食品という大きなプレゼントをいただいている私たち。微生物たちにもっと感謝する必要があるような気もします。(500gもの麹菌を殺してしまった自分への反省を込めて )