連載ブログ 富士山麓通信

キクという名のイモ

2012年10月03日

キクイモという花をご存知ですか? ゴッホの描くヒマワリのような、鮮やかな黄色い花です。「菊」というにはちょっとバタ臭いし、野草という楚々とした感じはないし…と思って調べてみたら、「北米原産、キク科ヒマワリ属の多年草」と出ていました。別名はアメリカイモ、またはエルサレムアーティチョーク。ついでに言えば、ブタイモというちょっと可哀想な別名もあるようです。

私は富士山麓に移り住んで、初めてこの花を知りました。当地では、誰が植えたというのでもなく、道端や野原のどこにでも「普通に」咲いています。あたりまえすぎて、ふり返る人はほとんどありません。
時々、道端や野原に咲いている一部をいただきます。家に持ち帰って壺に投げ入れると、そこだけがパッと明るくなり、なんだかペンキを塗り替えた時のような気分。ちょっと落ち込んだ時の特効薬なのです。

私にとってキクイモはもっぱら観賞用の花だったのですが、その一方でずっと「イモ」という名前が気になっていました。そして去年の秋、地元の道の駅で、長年の疑問が氷解。塊茎を食べる「野菜」として、野菜コーナーで売られていたのです。手描きPOPには、レシピも書いてあります。

ゴツゴツして、芋というより生姜のような面構え。「可愛い花が咲きます」と書き添えてあるところをみると、「球根」として植えてもいいということなのでしょう。花も野菜もという「お得感」もあって、早速、買い求めました。

お台所に持ち込む前に、まず二等分。その半分を球根として、庭の片隅に植えました。この庭にあの鮮やかな黄色を添えられると思うと、わくわくします。

残りの半分は、天麩羅にしてみました。レシピの中でもっとも簡単そうというのもありますが、味つけしない料理法で、芋そのものの味を確認したいと思ったからです。

あの外見にしてこのやさしい味は、ちょっと意外でした。芋という名前で期待する「もっちり感」はありませんが、蓮根のキンピラのようなシャキシャキした食感。ほんのり上品な甘みがあって、天つゆより、お塩と柑橘の絞り汁のほうが合うようです。あっという間に食べ尽くして、庭に植えてしまった半分を掘り起こしたいくらいでした。

スライスした外見は、まさに生姜です。

庭に植えた球根の、「その後」の話をします。長い冬を経て、植えたことすら忘れかけていたのですが、5月の初め、遠慮がちに芽を出しました。

5月末時点のキクイモ。ひょろひょろして頼りない感じです。

そして、季節が進むに連れて背丈だけはグングンと、添え木が必要なほどに伸びていきました。が、夏になっても、なかなかツボミをつけてくれません。わが家だけでなく、この夏は里の道端や野原でも、キクイモの開花が遅い感じ。例年なら夏休みに入る頃には咲き始めるはずなのに…梅雨明け宣言した後、しばらく梅雨の戻りのような肌寒い日が続いたせいかもしれません。

里の野原がキクイモの鮮やかな黄色で染まりはじめたのは、8月も終わりになってから。わが家の庭に植えたキクイモがやっと花開いたのは、9月も半ばになってからでした。
しかし、キクイモを事典で引くと「9月から10月に花をつけ…」とあります。ということは、ここ10年、私が見てきた開花時期のほうがおかしかったということでしょうか?私の頭の中には、「キクイモが咲く=夏」というイメージが出来上がっていたのですが、8月に咲いていたことのほうが、「温暖化」のあらわれだったのかもしれません。

8月になってもなかなかキクイモが咲かなかったせいで、この夏は、なんとなく落ち着かない気分で過ごしました。一時は、「何かの異変でキクイモが全滅したのか?」と思ったほどです。富士山の噴火と結びつけたりもして、妄想はふくらむばかり。
車を走らせていても、目はキクイモの花を探していたそんなとき、「きくいも」という大きな文字が目に飛び込んできました。国道沿いの八百屋さんの、「きくいもせんべい」の看板です。

飛び込んでそのときに買い求めたのが、下の写真の「きくいもせんべい」。さくさくとした軽い食感と上品な甘みを生かした、後を引くおせんべいです。

いくらでも食べられそうで、それがちょっと怖い。

嬉しいことに、菊芋のお漬物までありました。

季節はめぐって、またキクイモの球根を植える時季になりました。来年は、いつ頃、この鮮やかな花を咲かせてくれるのでしょうか。
植物たちは、人間の作ったカレンダーなどにはお構いなく、自分の身体で感じた通りに成長します。それだけに、温暖化や汚染など、地球の抱えるいろいろな問題が植物の姿を通して透けて見えるようです。

  • プロフィール くらしの良品研究所所員
    M.Tさん

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