きのこを楽しむ
強い雨や風の翌朝、特に台風一過の翌朝には、森の周辺に車を停めて森の中に入って行く人の姿をよく見かけます。嵐の直後に酔狂な、と思っていたら、「きのこ狩り」に行く人たちでした。強い風雨の後は、きのこが顔を出して、見つけやすいのだそうです。私も地元の人に教えてもらって何度か出かけましたが、今年は仕事でタイミングが合わず断念。それでもやっぱり秋を味わいたいので、「きのこ買い」に出かけました。
この時季、国道沿いには「きのこ」のノボリがはためき、たくさんの「きのこ屋さん」が登場します。自分で採ってきたものや、きのこ採取の独自のルートを持つ人たちが出す、季節限定ショップです。
もちろん、いつも通っている道の駅にもきのこはたくさん並ぶのですが、観光客でごった返しているので、食べ方などをゆっくり訊ねる余裕はありません。そこへ行くと、沿道のきのこ屋さんは豊富な知識を披瀝して、きのこの奥儀(?)を伝授してくれます。
まだ早い時間帯に行ったので陳列の途中でしたが、店のご主人にいろいろ教えてもらいました。「ショウゲンジ(写真下段左端)は、ショウゲン寺という寺のお坊さんが、このきのこが食用になることを伝えたことから付いた名前」「アカモミタケ(写真下段右端)はフランス料理店では素揚げにして肉料理の付け合わせにする」「チャナメムツタケ(写真上段中と下段右から2つめ)は地元を代表するきのこで、山梨名物の"ほうとう"に入れる。子どもの頃は、こればかり食べさせられた 」と、話は尽きません。
陳列台に並んでいるものだけでなく、リクエストに応じて詰め合わせてくれます。まずは、「きのこご飯」用に選んでもらいました。「ご飯用にはヌメリのない方がいい」ということで、天然しめじ、アカモミタケ、ショウゲンジの3種。ちなみに、ヌメリのあるものは汁物に向くそうです。
実は9月から通い始めた「やさい塾」の料理教室で、きのこの料理を教わったばかり。そのおさらいも兼ねて、「きのこご飯」を作りたかったのです。「本なめこ」も手に入ったので、ついでに「なめこの佃煮風」も作ることにしました。
薬用のきのこも売っていました。カバノアナタケ(ロシア名:チャーガ)というきのこは、サルノコシカケの仲間。白樺など、カンバ類の樹皮の下(穴)に薄く広がって育つきのこです。この店のものは標高2000メートル( 富士山でいえば約4合目辺り )の高地に生える白樺の、樹上10~15メートルで採取したもの。樺太では、このカバノアナタケを煎じてお茶にするといい、ロシアの文学者ソルジェニーツィンがノーベル文学賞を受賞した「ガン病棟」の中にも「チャーガと呼ばれるキノコが腫瘍の成長を抑えガンを予防する」と出ているそうです。
そして、「一番人気はこれ」と教えてもらったのが、「タマゴタケ」。東京のスーパーではお目にかかったことのないきのこです。お吸い物、雑炊、うどんの汁、ほうとう、バター焼き、きのこご飯、天麩羅、パスタ、ピラフ、味噌汁 と驚くほどの汎用性。多くのきのこの料理名に山梨名物の「ほうとう」が出てくるところは、さすが地元です。
私のアンテナに引っかかったのは、「牛乳にタマゴタケをちょっと入れるだけで、クリーム色になる。クリームシチューにいいですよ」という言葉。聞いた途端、胃袋にスイッチが入ってしまいました。無性にクリームシチューが食べたくなって、即、衝動買い。
家に帰ってよくよく考えたら、きのこご飯となめこの佃煮とクリームシチューの取り合わせは
???ですよね。とはいえ、いずれも捨て難い。テーブルに同時に並んだ風景を想像するとちょっと腰が引けますが、ともかく3品全部作ることにしました。
さて、タマゴタケを使ったクリームシチューのご報告です。
肉嫌いの家族がいるため、わが家ではカレーもシチューも、もっぱら肉ヌキ。今回も、エビ、イカ、ホタテのシーフードで作りました。ホワイトソースのルーも使いません。牛乳とバターのみで、「とろみ」は米粉で出すのがわが家流です。いつもと違うところは、タマゴタケとハナビラタケの「きのこ2種」が加わったこと。きのこ屋さんの言葉を信じて、タマゴタケの「パワー」に期待します。そして、出来上がったのが下のクリームシチューです。味の方は
大成功! これまで何十回とクリームシチューを作ってきましたが、最高の旨みのあるものになりました。肉ヌキで旨みを出すのはなかなかむずかしくて、普段は鶏ガラスープの素を加えたりするのですが、今回はそうしたものは一切なし。きのこのパワーを実感させられました。大豆が「畑の肉」なら、きのこは「山の肉」と言えるかもしれません。
この時季には毎年きのこを楽しんでいますが、今年は新しい味に出会えて、またひとつおいしい世界が広がりました。日常の楽しみは、人とつながることによって広がっていくんですね。