各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

鴨川棚田トラストが始まりました

2014年06月04日

今年から、無印良品くらしの良品研究所と共同で鴨川棚田トラストを行います。
トラストとは、イギリスのナショナルトラスト運動から始まった自然環境や歴史的建造物を保護し、次世代へ伝えていくために維持管理・保全していく市民活動です。

棚田と共に失われる歴史と文化

日本には僕の暮らす釜沼北集落のような中山間地域が、実はたくさんあります。中山間地域とは、国土の73%、農地の40%、農家の44%、集落の52%を占め、下流域の都市住民や多くの人々の水と空気と食糧を守るとても重要な地域です。
しかし、山間部の地形は斜面が多く小さな農地であるため農産物の生産量も少なく、農業だけで生計を建てるのが難しく、戦後は都市部へと人口が流失してしまいました。その農村からの人口が、急速に工業化する日本の労働力となり、戦後の復興を成し遂げ経済大国となりましたが、それと引き換えに真っ先に過疎となった地域でもあります。
そして現在、農家は国民の3%にも満たない260万人となり、農家の平均年齢は66才(釜沼集落で60代は若手と呼ばれます)、食糧自給率39%、耕作放棄地は埼玉県と同じ面積の38万6千ヘクタール、限界集落は7878集落となり、日本人の食を支える命の土台が足元から揺らいでしまいました。
これから10年20年30年後、人口が減少する社会で、消滅していく集落も出てくることでしょう。それは命の土台が崩れるばかりでなく、日本の歴史と文化を丸ごと失うことも意味しています。

日本文化がギューッと詰まったお米づくり

稲作の起源は諸説ありますが、ユーラシア大陸の端に位置する島国で数千年かけて育まれてきた独自のお米づくりは、食文化、建築、衣服、手仕事、里山管理、芸術、祭り、共同体、信仰等々、日本文化がギューッと詰まっています。
農作物をつくって売るだけの農業としての観点から見ると中山間地域は現在とてもきびしい状況ですが、観点を変えるとその持続可能な生活文化と自然環境は、地球規模の環境破壊を招いて行き詰まった現代文明にとって、日本の誇りであり、世界の宝と言えるのではないでしょうか。
だからこそ「エコロジーの時代」である21世紀、この鴨川棚田トラストは、高齢化に伴い維持管理が困難となった美しい棚田を日本の財産とし、豊かな自然環境のみならずこの生活文化をも都会に暮らす人々と共に守り、持続可能な未来へつないでいきたいと思っています。

棚田は、美しく、楽しく、気持ちいい

五月晴れの5月24日土曜日、鴨川棚田トラストの田植えに老若男女40名もの人々が釜沼北集落へ集まってくれました。
まずは参加者のみなさんと一緒に里山を歩き、これからトラストする棚田をご案内しました。
集落の一番奥にあるこの里山に囲まれた棚田は、日本の原風景が残る美しい景観です。丁度この時期は、うぐいすの鳴き声が棚田に響き、みかんの花の甘い香りが辺り一面に充満しています。棚田を歩いたあと、里山の南斜面の高台に建つ築200年の古民家「ゆうぎつか」の板の間で、お昼ごはんを食べました。

食事は地元の料理家である米山美穂さんと佐久間康栄さんが、旬の食材をつかって、滋養に満ちた美味しい里山雑穀自然食をつくってくれました。
メニューは、大根とスナップえんどうのサブジ、そら豆と新玉ねぎのもちキビ和え、ハチク(破竹)の高きび味噌ソース添え、カブの梅ネギ和え、ゴボウの柚子醤油漬け、もちキビグリーンピースご飯、もちアワと押し麦のミネストローネ風スープです。

料理写真提供 nahoko hayashi

そして昼食後は、いよいよ田植えです。
参加者のみなさんは初めての田植え体験の方も多く、重粘土質の田んぼに足を踏み入れると、吸い付くようにやわらかいドロの感触に思わず笑みがこぼれ、歓声が上がりました。
田んぼの中では、おたまじゃくし、ニホンアカガエル、ゲンゴロウ、アカハライモリ、トウキョウサンショウウオなど、千葉県の最重要保護生物にたくさん出会えます。

ひと苗、ひと苗を手で植える慣れない作業ですが、日本人のDNAには農民の記憶が残っているのでしょうか、みなさんすぐ上手になりました。
青い空の下で、新緑まぶしい里山に抱かれ、田植えをしていると気持ちのよい春の風がヒュウっと吹き抜けます。 「うわー、気持ちいい!」「あ~、きれいだ!」「う~ん、楽しい!」あちこちから、喜びの声が聞こえてきます。 ここは、生物多様性の博物館であり、天然の美術館でもあります。そして、なにより楽しく、気持ちいいのです。 この豊かな時間と空間をみなさんとシェアしながら、美しい棚田を守っていきたいと思います。

これから、稲の成長が楽しみです。
次回6月14日土曜日は、田の草取りを行います。
まだ稲は小さいので、手をかけなければスクスクと育ちません。子どもと一緒ですね。また、この田の草とりを行うことは、有機米に対しての視点が変わる貴重な体験ですので、ぜひご参加ください。

年間スケジュールは以下となっております。尚、スケジュールは自然相手なので天候などにより、急遽変更する場合がありますので、ご了承ください。

イベントの今後の予定

6月14日(土)田の草とり(予備日 6月28日(土))
7月5日(土)田の草とり(予備日 7月26日(土))
9月23日(火・春分の日)稲刈り
10月4日(土)収穫祭
※日程は天候などにより変更になる場合がございます

photo by hako hosokawa

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長

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