各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

アースアート(地球芸術)

2015年08月26日

この100年で僕らの社会は、劇的に変化しました。
僕らは今、人類史でもまれに見る激変する時代の真っ只中を生きています。
かつて人は情報を口から口へ伝え、石や板に刻み、紙に書き写し、その後印刷を発明しましたが、今はスマホやタブレットなど手のひらに図書館にも匹敵する膨大な情報を持ち、瞬時に何百何千もの人々へ送受信が可能になり、世界中の人々と情報交換し、コミュニケーションすることができるようになりました。これは100年前の人からみたら考えられないことで、まるで超能力かテレパシーのようです。
また、ほんの少し前までは特別な使命をもった国の代表者か、ごく限られた一部の人しか国外へ出ることはできませんでしたが、今はパスポートを発行し、時間とお金さえつくれば、一般の人が誰でも飛行機に乗って自由に地球上のほとんどの国へ行けるようになりました。
こんな世の中になるとは思ってもみなかったよ、と携帯電話を首から下げている村の長老たちも驚いています。
長老たちが子どもだった1930~40年代は、村には電気も石油もなく、車もテレビも洗濯機も、当然インターネットもなく、江戸時代から変わらぬ田園風景の中で、わらじを履いて牛や馬と共に自給自足の暮らしをしていたと聞きましたから、その変化といったら眼を見張るものがあります。

しかし、豊かさと利便性を手に入れた反面、同時に環境破壊や貧富の格差、テロや戦争による暴力の連鎖も地球規模で拡大してしまいました。
現在地球では、1日に約100種の生物が絶滅し(「沈みゆく箱舟」N・マイヤース)、1秒間にサッカーグランド1面の森林が消滅し(クラウス・トゥファー国連環境計画事務局長のメッセージ)、1日に550人の子どもが戦争で命を亡くし(国連難民高等弁務官事務所「難民」2001年)、1日に2万4千人もの人が餓死しています。(世界人口白書2003年)

地球意識

ロケットを飛ばし、漆黒の宇宙空間に浮かぶ息を呑むほど美しい青い惑星地球を見ることが可能になった現在、人類は新たな"気づき"を得ました。
その"気づき"がもたらすことは、僕たちは同じひとつの星に生き、人類のみならず水も空気も大地も動植物も、ミクロからマクロまで含めた存在するすべてと共に生きている地球生命共同体の一員だという事実です。
よって人々の意識は、原始共同体から村へ、村から県へ、県から国へ、そして国から地球へと広がってきました。

今、僕ら1人ひとりの呼吸は、全世界の大気とつながっていることを知っています。
今、僕ら1人ひとりの消費行動は、遠く地球の裏側まで影響を及ぼしていることを知っています。
今、僕ら1人ひとりの選択は、社会を動かす力を持っていることを知っています。
今、僕ら1人ひとりの思いと行為は、巡りめぐって全世界を血液のように流れ、地球の血肉となることを知っています。
その認識と皮膚感覚は、人類に地球意識を芽生えさせています。
そして、意識が地球へ広がったからこそ、ローカルの重要性に気づきました。
"Think global Act local 広く世界のコトを考え、地域で行動する"
これが、地球時代のキーワードになりました。

この一枚の紙のなかに雲が浮かんでいる

"もしあなたが詩人なら、この1枚の紙のなかに雲が浮かんでいるのをはっきりと見るでしょう。
雲がなければ雨はないでしょうし、雨がなければ木は育ちません。
そして木がなければ私たちは紙を作ることができません。
紙が存在するためには雲はなくてはならないものなのです。
もし雲がなければこの1枚の紙も存在できません。"

存在するすべてのものがこの1枚の紙のなかにあり、そしてこの紙を見ている「わたしたち自身もこの紙の中にある」のだから、このわたしと関係のないものは何一つないと、ベトナム出身の禅僧であり詩人、平和活動家、そして「エンゲイジド・ブッディズム」(行動する仏教)で知られるティク・ナット・ハン氏は言います。
人は心を開き、知性と想像力を最大限に高めると、1枚の紙に雲を見、目の前にいる1人に人類を見、1粒のお米に宇宙を見、1滴の朝露に芸術を見、1つの小さな村に未来を見、1瞬の時に永遠を見ることが可能になるのではないでしょうか。

(「ビーイング・ピース 1枚の紙に雲を見る」ティク・ナット・ハン著/壮神社)

アース・デモクラシー(地球民主主義)

"なぜ、人間のことを考えるだけではいけないのか? それは人間も生命の織物の一部だからです。生命の織物の一部だから、わたしたちの健康は、織物が健康かどうかにかかっている。これが、アース・デモクラシー(地球民主主義)です。"

なぜなら"自分の健康も幸せもみんな他者に依存している"からです。

(「ヴァンダナ・シヴァのいのちの種を抱きしめてwith辻信一」ナマケモノDVDより)

そう語るのは、アース・デモクラシー(地球民主主義)を提唱するインドの科学者であり環境活動家でもあるヴァンダナ・シヴァ博士です。

アース・デモクラシーは、人間のみならず動植物や地球環境全体のための民主主義を指します。そして、アース・デモクラシーは理念であると同時に、平和と公正、持続可能な未来を求める政治運動です。
彼女は、地域性と多様性を大切にし、暮らしとコミュニティ、そして農業と種を守り、人間中心主義から地球中心主義へ移行することを説きます。
アース・デモクラシーとは、民主主義に人間以外の全生命を加えた"人類の新たなビジョン"です。

存在が絵筆

世界放浪中にイタリアで出会った農夫ダリオは、自分の暮らしをデザインすることで、1ミリでも世界がより平和になることに気づき、それを実践していました。
ダリオの言葉は詩となり、野で働くことはダンスとなり、月明かりの下で語り合う時間は映画となり、自然農法の農園はいのちの彫刻となり、廃材を利用した手づくりの家は宇宙船地球号となり、子供たちの笑い声は音楽となり、樹の下で食べる家族との食事は絵画となり、生きることそのものが総合芸術であり、創造であり、遊びであり、地球への愛でした。
それは、自分自身の存在が絵筆となり、地球というキャンバスに、調和という生命の美を描く時空を超えたアースアート(地球芸術)でした。
地に足をつけながら、いつも宇宙から地球を見つめて暮らすダリオに、僕はもう一つの地球の未来を見た気がしました。

暮らしをデザインする

20代の僕は種が空を舞うように、目的地も予定も決めず、ただ自由に、直感の風に吹かれるまま、僕という種が着地するまで、この星を旅していました。
アメリカ、アジア、ヨーロッパ、日本の農村を経て、やがてその風は僕を鴨川の里山へと運びました。
僕にとってアースアート(地球芸術)を表現するステージは、里山に抱かれた棚田の小さな集落でした。

ギリシャ、エジプト、インダス、メソポタミア・・・かつて、森を消滅させて砂漠にしてしまった地球上の文明は、すべて滅んできました。
環境破壊と戦争を止めることができない現代文明も再び滅亡へと向かい、青い惑星地球を茶色い惑星へと変色させています。
しかし、絶望することはありません。
夜明け前が一番暗いのです。
今、地球意識を持った人々が世界中に増えています。今度こそ、人類はこの危機を乗り越えられると、僕は信じています。
そして、それは足元から、ローカルから始まります。
持続可能な未来へ向かえば向かうほど暮らしと社会は、より小さく、少なく、簡素に、透明に、丁寧に、やさしく、美しく、心地よくなっていくと僕は思っています。

だから、僕はこの里山でそんな心地よい暮らしと社会を、みんなでデザインしていきたいと思っています。
僕らはすべてのいのちと幸せに生きるため、この星にいるのだから。

来月9月12日土曜日は、鴨川棚田トラストの稲刈りです。
みなさんのご参加を、心よりお待ちしております。

Photo by hirono masuda ・ yuka watanabe

「鴨川棚田トラスト」イベント-第4回 稲刈りのお知らせ

開催日時:
2015年9月12日(土)10:30~15:30(予定)
開催場所:
千葉県鴨川市
定員:
40名
主催:
NPO法人うず
共催:
無印良品 くらしの良品研究所
講師:
林良樹(NPO法人うず理事長)
参加費:
中学生以上 3,000円 ※昼食代、お米1キロ(お渡しは10月予定)含む
小学生 1,500円 ※昼食代含む
幼児(未就学児)は無料 ※昼食はつきません
※中学生以下は保護者の同伴が必要 
その他:
・現地までの集合、解散後についてはお客様の自費にてご負担をお願いいたします。
・農作業は自然相手なので天候により、予定を急遽変更する場合がございます。あらかじめご了承ください
・小雨は決行
・大雨や大風など悪天候の場合は中止します。※今回中止の際の予備日はありません。
  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長

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