各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

「鴨川里山トラスト」有機米の会 100人の田植え

2016年05月25日

集落の長老と一緒に農作業をしながら、僕らは良く色んな話をします。
昔の暮らしについて、現代社会について、コミュニティについて、働くことについて、家族について、死について、幸せについて、集落の未来について・・・。
そして長老から聞く昔の暮らしを心の中でイメージすると、不思議と僕はまるで自分がその場にいるような感覚を覚えるのです。
それは、旅先で見てきたアジアの農村風景と重なるからかもしれません。
先日、88才になる長老のこんぴらさんの田んぼに、米ぬかを撒くお手伝いをしていた時に聞いた話です。
こんぴらさんが子供だった頃の田植えは、機械がなかったので学校も仕事も休みとなり、子供からお年寄りまで家族全員はもちろんのこと、隣近所で助けあって村中総出で手植えを行っていたそうです。その光景は、きっと宮﨑駿監督の映画「となりのトトロ」のワンシーンのようだったでしょう。今なら1人でも機械を使えば1日で終わってしまうほどスピーディになった田植えは、その当時こんぴらさんの家では隣近所の4軒総出で、何十人もの人たちと10日間以上もかかったそうです。
そして田植えを終えると、その4軒の家族全員が集まり、ご馳走とお酒を用意して「さなぶり」と呼ばれるお祝いが盛大に行われました。
その頃の普段の食事はご飯と味噌汁と漬物や旬の野菜料理が基本で、肉や魚はほとんど食べなかったそうですが、この時ばかりはサバの煮物が食べられたそうです。里山集落で年に一度、魚が食べられる「ハレの日」は、お正月ではなく田植えのお祝い「さなぶり」だったのです。
「あの時の煮魚は、ありゃ~ぁ、うまかったよ~」と、目を細めて長老は話してくれました。
今のように毎日、肉や魚が食べられる時代ではなく、田植えにしか食べられなかった煮魚の味は、想像を絶する美味しさだったと思われます。

働くことは楽しいこと

「あの頃は機械がなかったから、とにかく何でも手間がかかって、そりゃ~大変だったけど、みんなで働いて、みんなでお祝いして、そりゃ~賑やかだったよ。そして、みんな本当によく働いたよ。だからね、俺は働くことが好きになったんだ。でもね、今ではみんな一人だ。機械があるからね。それに、みんな外へ稼ぎに行っているからね。農村も個人主義になっちゃったよ。そう考えると機械のなかった昔のほうが、働くことは楽しかったよ。」
僕はその言葉にハッとさせられました。
機械は人を助けるために発明され、そしてこんなに便利になったのに、果たして現代人は働くことを心から楽しんでいるのだろうか?と思いました。
長老の言葉は、チャップリンの映画「モダン・タイムス」のメッセージと重なります。
かつてマザー・テレサが先進国の大都市へ訪れた時、ここにはカルカッタとは異なる「孤独」という貧困がありますと言ったそうです。
「はたらく」とは、はた(傍=そばにいる人)をらく(楽)にさせることだと、友人から聞いたことがあります。
ここ里山に暮らしていると、働くことの本質的な意味を考えさせられることがあります。

「感じ良いくらし」から「感じ良い社会」へ

5月7日土曜日に、「鴨川里山トラスト・有機米の会」の田植えを行いました。
当日は参加者の皆さん、良品計画会長の金井さんはじめスタッフの皆さん、鴨川市長谷川市長、企画政策課平川課長、釜沼北集落の長老こんぴらさん、じいたさん、かわばたさん、そしてスタッフ含め総勢約100名もの人が来てくださいました。

前日の天気予報ではくもり時々雨でしたが、当日は見事にくもり時々晴れに変わり、午後からは五月晴れとなった最高の田植え日和となりました。
はじめのオリエンテーションでは、この「鴨川里山トラスト」の意義を僕はみなさんにお話しさせていただきました。

特に有名な観光地でもなく、棚田百選に選ばれた棚田でもなく、無名の小さな村の小さな棚田に、こうして主旨に賛同し、都会から多くの方が農作業に来て、この棚田を含む里山全体を保全していただけることは僕にとって一つの夢でした。
増える耕作放棄地をどんどん引き継ぎ、もう僕1人では無理だとなった時に、ありがたいことに無印良品さんが助け舟を出してくれ、こうして「鴨川里山トラスト」が始まったのです。捨てる神あれば、拾う神ありですね。

良品計画の担当役員の鈴木さんからも、ご挨拶をしていただきました。無印良品は「感じ良いくらし」の実現を目指してスタートしましたが、これからは都会と田舎をつなぎ、「感じ良い社会」を目指したいと思っていますと、この活動に関わる企業理念をお話していただきました。

長谷川市長からは、鴨川の自然と美味しい食べ物と、そして棚田での農作業体験を楽しんでくださいと、都会からの参加者を歓迎してくれました。元学校の先生だった長谷川市長は、特に子どもたちの参加を大変歓迎してくれました。

集落の長老たちも都会から皆さんが来ることで、私たちも元気を頂いているのですと、心良く受け入れてくださいました。
その後、僕は釜沼北集落の里山や棚田を案内しました。
丁度、里山の新緑はまぶしく輝き、咲き始めたばかりのみかんの花の甘い香りが辺りに充満し、円形劇場のような棚田にウグイスの鳴き声が気持よく響き、春の美しさをたたえています。
ここは、僕にとってどんな宝石よりも美しい「いのちの彫刻」です。

フィールドを案内したあと、おみやげに棚田の真ん中にある甘夏のみかん狩りをみなさんにしてもらいました。この甘夏は長老も絶賛する美味しい木なのです。

古民家ゆうぎつかへ戻ると里山料理人の木村夫妻が、昼食を用意してくれていました。
メニューは、たけのこの炊き込みご飯、新玉ねぎのスープ、そら豆と新ジャガイモのコロッケ、たけのこの天ぷら、新人参の玉子焼き~よもぎジェノベーゼのせ~、自家製鶏ハムと鴨川漁港直送ワラサのツナサラダ、グリーンピースの飛龍頭(がんもどき)、野蕗の含ませ煮です。
今回も鴨川の旬の素材をつかった素晴らしい料理でした。

田植え祭!

午後からは、いよいよ田植えです。
約100人の田植えは、もうお祭りのような賑わいで、それはそれは壮観です。

この地域特有の重粘土質の田んぼに足を入れると、むにゅ~っと泥の中に足が吸い込まれ、その独特な感触に驚き、歓声が上がります。
地球のエネルギーを足の裏からたっぷりと受信してもらうため、「みなさ~ん、地球にアースしてくださーい!」と僕は呼びかけました。

子どもたちは、生物多様性の宝庫である無農薬有機栽培の棚田に生息しているカエルやオタマジャクシ、アメンボ、タニシ、ゲンゴロウその他たくさんの生き物に大喜びです。時には、貴重な千葉県RED A最重要保護生物のアカハライモリにも出会え、もう大騒ぎです。

いつも僕は1人で農作業をしているのですが、週末に都会から多くの人がやってきて、一緒に作業していると、「みんなで働くことは楽しい」という長老の言葉を思い出します。
里山集落は人口が減少していくばかりですが、こうして都会と田舎の距離を超え、地縁血縁を超え、「鴨川里山トラスト」に集う人たちと一緒に楽しく働いて、これから里山で「感じ良い社会」を創っていきたいと思っています。

来月6月12日日曜日は、田の草取りとすがい縄・なべ敷づくり体験です。
みなさまのお越しを、心よりお待ちしております。

Photo by Satomi Simogo

イベント情報

「鴨川里山トラスト・有機米の会」イベント
第2回 田の草取りとすがいなわ・なべ敷づくり体験

「鴨川里山トラスト・自然酒の会」イベント
田の草取り体験

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長

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