わらにまみれ、泥にまみれ
6月12日日曜日、「鴨川里山トラスト 有機米の会」の田の草取りと鍋じきづくりを行いました。
梅雨に入った里山はあじさいが咲き誇り、しっとりと美しい季節になりました。しかしその日は、ありがたいことに雨は降らず曇りのち晴れとなり、過ごしやすい1日となりました。
午前中は、稲わらで鍋じきづくりのワークショップを行いました。
長老のこんぴらさん、じいたさん、かわばたさんも来てくださり、わら綯いの基本を伝授して頂きました。
長老たちが子供だったころは、自分で編んだわらじを履いて小学校へ通っていたので、わらを綯う作業は当たり前だったそうです。
日本人は、里山の資源で多くの生活道具をつくってきました。材料は稲わらのみならず、竹は籠や農業資材となり、茅は屋根、雑木は炭、落ち葉は堆肥、枝は薪、針葉樹は建材等々、里山の資源はすべて利用して暮らしていました。
そのため、里山には毎日のように人が入り、木を切り、山菜やきのこを採り、落ち葉や薪を集め、光の入る明るい森となり、必然的に動物たちは奥山に暮らし、里へは降りてきませんでした。
しかし、戦後のエネルギー革命が起こり、人々の暮らしに電気・石油・ガスが使われるようになると、人は里山へ入らなくなり、そのため手入れをされない暗い森となり、動物たちは奥山から里山へ降り、農作物を荒らし、耕作放棄地の増加に拍車がかかってしまいました。そして同時に、伝統的な里山の暮らしの知恵と文化は、失われていきました。
僕らは、何百年も継承されてきた里山文化が消えてしまうのはあまりにもったいないと思い、長老たちから手仕事を学び、それを記録し、1冊の小冊子「里山の教科書」を鴨川市の助成金を受けてつくりました。
モノと時間といのちの関係
今どき鍋じきは100円ショップでも、どこでも安価で買えますが、小さなものでも自分で使う生活道具を、自分の手でつくる達成感は嬉しいもので、僕はこの手仕事の喜びを多くの人に体験してもらいたいと思っています。
自分の手でつくれば形が少々いびつでも愛すべき大切な道具となり、簡単には捨てられない家族の一員のような存在になります。
そして、自分の手を動かした時間がモノに染み込むと、モノにいのちが吹き込まれ、それは大量生産にはない個性となって輝き、日々の暮らしに彩りを添えてくれます。
魔法の草
お米を収穫した後の稲わらは、人々の暮らしに役立ち、縄になり、背負子になり、鍋じきになり、草履になり、ムシロとなり、菌で納豆を作ったり、籠になり、美しい飾りになったり、しめ縄となって神様と繋いでくれたり、そして最後は土に還っていきます。
稲とは、日本人にとって魔法の草です。
なので、僕は密かにすべての日本人が少しでも良いのでお米づくりに関わり、国民皆農となる社会を夢見ています。そして、すべての日本人がスマホやPCを使いこなすと同時に、わら綯いもできるようになったら、素敵なことだと思っています。それは、工業と農業が両立した社会として、世界中から注目される国となるのではないかと思っています。
20世紀のエネルギーは石油・石炭・天然ガス・ウランなど地下資源を利用してきましたが、21世紀は太陽光・風力・水力・バイオマスなど地上資源を利用する時代へとシフトしています。
そのため稲わらとは、日本にとって地上資源のシンボル的存在と言えるでしょう。
昼食は、あわ里山ごはん「るんた」の料理家の米山美穂さんがつくってくれました。
メニューは、新ジャガのタカキビソースがけ、大根カツ、ズッキーニの味噌マリネ、夏みかんサラダ、ごぼうの自家製醤油漬け 柚子風味、新玉ねぎの梅和え、もちキビ入のコーンごはん、キヌアのミネストローネです。
鴨川に来ると、毎回美味しい料理が食べられるねって、みんな喜んでくれます。
地元でとれた旬の食材を、地元で調理して食べることは田舎でしか味わえない最高の贅沢だと思います。
今回も、米山美穂さんが料理してくれた里山の恵をおいしく頂きました。
里山スモールハウスの可能性
午後からは、いよいよ田の草取りです。
田の草取りはとても地味で大変な農作業ですが、無農薬有機栽培のお米づくりには欠かせない大切な作業です。
かつて、除草剤がなかった頃は、子供からお年寄りまで村人総出で、稲刈りまで3回も行っていたそうです。しかし現在、高齢化の進む農村で田畑を維持しているのは、70代から80代ですので、田の草取りを行うのは不可能です。高齢者が田畑を維持するために、僕は適度な機械化と農薬は否定出来ないと思っています。釜沼北集落の長老たちのように90才近くなっても、農地を維持してくれているだけで、ありがたい感謝すべきことだと思います。
この里山トラストや自給用の小さな田んぼなら、無農薬有機栽培の田の草取りも可能ですので、そこだけ生物多様性の聖域として守っていければ良いのではないかと思っています。
だから、「小さな農」が広がることは、大きな意味があります。
中山間地域の棚田など面積の小さな生産性の低い農地のある里山には、里山スモールハウスを建て都市住民が気軽に食べものを育てられるように小さな農地を貸し出し、それによって都市住民は心安らぐ「憩いの場」と「小さな自給」を得て、無農薬なら「食の安全」が保証され、「生物多様性」も守られます。
さらに、「地域活性化」や「移住促進」にもなり、中山間地域の「農地の保全」と「耕作放棄地の解消」につながるでしょう。農業特区など農地法の改正や、地域の理解も必要になりますが、地元住民、NPO、自治体、企業、大学などと連携すれば、僕は可能だと思っています。釜沼北集落で、そんなモデルが出来ないか模索しています。
週末に訪れた沢山の人達と、わらにまみれ、泥にまみれ、そんな未来を思い描きました。
Photo by Hirono Masuda