お金をデザインする
6月25日土曜日、里山デザインファクトリー(以下SDF)にて、あわマネーまつりが開催されました。
あわマネーまつりとは、年に一度の地域通貨あわマネー100%のマーケットで、その日僕らはマーケットでの買い物を「円」を使わずに楽しみます。
それは、僕らのつくる、僕らのための、年に一度のお金(円)が消える日。
それは、夢のように楽しく、魔法のように豊かで、家族のようにやさしく、不思議な日。
それは、人を信頼し、つながりが深まり、貨幣経済から解放される日。
それは、自分の持てるものを惜しみなく分け与え、コミュニティのみんながパッピーになる日。
貨幣経済が存在しなかった人間社会のコミュニティとは、こんな雰囲気だったのかもしれません。
もちろん現代社会において地域通貨だけで生活することは出来ませんが、お金がないと生きていけないと思い込んでいる現代人にとって、地域通貨は人が生きる上で本当に大切な「人と人とのつながり」を確認させてくれます。
お金は自分たちでデザインし、自由に創って良いのです。
利子もなく、マネーゲームでもなく、信頼に基づいた自分たちの望む姿のお金を。
そして、お金をデザインすることは、コミュニティをデザインすることにつながっていました。
お金、食べもの、エネルギーを少しでも地域コミュニティで循環させることで、見えてくる未来があります。
それは、自然を破壊せず、どこからも奪わず、誰も傷つけず、みんなが与え合い、ハッピーになる社会が可能なのだと。
あわマネーまつり
当日は朝から、あわマネー運営委員のみんなでワイワイとおにぎりを握り、豚汁を仕込み、会場の準備を進めていました。おにぎりのお米は有機農家のあわマネー会員さんから全awaで買わせていただいた無農薬の有機米です。僕もあわマネー会員さん数名に、釜沼北集落で育てた無農薬の小麦粉を全awaで売りましたので、今日のマーケットで地粉の美味しいパンやお菓子が食べられるのを楽しみにしていました。
11時をまわると待っていましたとばかりに、お客さんがぞくぞく来場してきました。
「awanova」のベジタリアンスイーツやスープ、「いねむりしっぽ*」のアクセサリーや素敵なポストカード、「かまどの火」の天然酵母パン、「かもカン」のカンパーニュやコーヒー、「くんぺい舎」の木のおもちゃ、「農処shiki」の手編みや裂き編みの雑貨、「ひまつぶしがらん堂」の知的でセンスの良い古本、「まちの縁側」のびわの葉茶、「もみじの手」のトマトの米粉ベジヌードルやスイーツ、「やぎ日和」の手作り野草茶やチャイ、「藁珈琲洞」の自家焙煎コーヒーとおやつ、「遊学の森コミュニティトレード」の国産有機食品、「地域通貨あわマネー」のオーガニックおにぎりと豚汁等々、大賑わいのマーケットが始まりました。
地域通貨あわマネーの通帳を片手に、あちこちから楽しそうなおしゃべりや笑い声が聞こえてきます。
あわマネーまつりは誰でも自由に参加できるので、あわマネー会員以外の方は「円」でマーケットでの買い物を楽しんでいます。
まつりには噂を聞きつけて安房地域のみならず県外からのお客さんも来てくださり、マーケット会場は熱気でムンムンとなり、途中友人のクリスが大型扇風機を4台も導入してくれました。
11:30からは、鴨川で「安房コミュニティサーカス」を主催するクリスティンによるサーカススキルワークショップで、SDFの2階で子どもたちとの楽しいワークショップを行いました。クリスティンは去年東京から移住してきて、サーカスを通して地域を元気にするソーシャルサーカスの活動やヨガのワークショップを行い、里山暮らしを楽しんでいるアメリカ人です。
13:00からは、ゴーシュ音楽院の大友裕子先生、野本哲雄先生による、チェロとピアノのミニコンサート。クラシックから映画音楽まで、さまざまなジャンルの曲を奏でてくださり、その優雅な響きにうっとり聴き惚れました。
あっという間に3時間のマーケットが終わると、Tink&安房コミュニティサーカスのパフォーマンスが始まりました。フラフープあり、歌あり、アクロバティックあり、観客参加型の愉快なサーカスショーでした。
地域がつながる
そして最後は、神奈川県相模原市の旧藤野町の地域通貨「よろず屋」から池辺潤一さん、小山宮佳江さん、神奈川県葉山町の地域通貨「なみなみ」から大宮夏樹さん、安房の地域通貨「あわマネー」からは僕が出て、地域通貨トークの時間です。
実は5年前に、池辺さんと大宮さんをお呼びして鴨川で地域通貨カンファレンスを行う予定でしたが、311が起きて中止になってしまったので、今回は念願の地域通貨トークなのです。
しかも、「あわマネー」も「よろず屋」も「なみなみ」も兄弟のような地域通貨です。
全国で消えていく地域通貨の中で、あわマネーは2002年に発足して以来、特に大きなトラブルもなく継続し、素晴らしいコミュニティを育んでいるという噂を聞いたトランジッションタウン運動に関わる藤野や葉山の人達が興味を持ってくれました。
トランジッションタウン運動とはイギリスで生まれた市民運動で、自分たちの暮らす地域を持続可能で、みんなが笑顔でいられるような社会を創るために、身の丈にあった暮らし、つながりの感じられる生き方を実践しながら、食、エネルギー、お金や仕事を地域で循環させて、地域自給を目指す新しい形の市民運動で、世界のみならず日本中の各地域でも広がっています。
そして2009年頃、僕は藤野や葉山の人たちに呼ばれて地域通貨あわマネーのお話しをさせていただき、それをキッカケにそれぞれの地域で地域通貨が誕生しました。
現代は、みんなにとってより良い情報・技術・知恵は、オープン・フリー・シェアする時代なので、「あわマネー」の仕組みを丸ごとパクってくださいと僕はあわマネーの仕組みをすべて藤野や葉山の人たちへお伝えしました。だから「よろず屋」も「なみなみ」も仕組みは、「あわマネー」とほとんど同じなのです。なぜなら、僕らもかつて東京を中心に全国へ広がっていた地域通貨「レインボーリング」の仕組みをパクらせてもらい、あわマネーバージョンにアレンジしていったのですから。
価値を共有する
どうして地域通貨を始めたの? どうやって運営しているの? どんなメンバーがいるの?こんな時はどうしてるの? などなど みんなでひとつの大きな輪になって座りながら、ざっくばらんに語り合いました。
それは地域に根ざして、地域で生きていくためのツールであることや、人と人が繋がるコミュニケーションツールになっていること、みんなの親切がネット上で可視化される安心感のあること、生活を支え合うネットワークであり、地域に必要なプロジェクトを産みだす創造のネットワークになっていること、事務局も使う人も無理をしないこと、既存の経済のあり方に対する疑問とそれを自らの足元から変えていこうとする意識など、それぞれの地域通貨は、地域性やちがいはあるけれど、多くの共通点が有りました。そして、トーク後の質問タイムも大いに盛り上がりました。
コミュニティが吸引力となる
人は1人で孤立して生きていくことは出来ず、家族や友人、コミュニティなど助け合える関係性が必要です。
「世界価値観調査」(2001年の調査)によると、日本は「社会的孤立度」が先進諸国の中で最も高く、家族を超えたつながりやコミュニティの連帯などの意識がとても希薄になっているそうです。
産業革命以降、現代社会は都市化が進み、日本は戦後田舎から都会へ、また最近はローカル志向が高まり都会から田舎へと人口が流動し、都会も田舎も既存の伝統的なコミュニティが崩れ、新しいコミュニティを再創造する時期を迎えています。
そのコミュニティの再創造に役立つ一つのが、この通帳型地域通貨なのです。今年は、さらに千葉県のいすみ地域や茨城県の八郷地域でも新しい地域通貨が誕生します。
再創造されていく現代の新しいコミュニティは、かつての村落共同体とは異なります。インターネットや車のある環境は村という距離を超えますが、顔の見える関係性がなくなるほどは広がりません。
また、かつてのような閉鎖的で縦社会の縛りはなく、オープンで個人の自由とコミュニティの協調がバランス良く、そして新しいコミュニティはボスが居るピラミッド型でなく、一人ひとりが主役のフラットで水平型の円を形成し、ゆるやかに有機的につながっています。
鴨川や南房総、藤野、葉山など移住者が多い地域は、そんな魅力的なコミュニティが吸引力となって、自然と人が集まってくるのだと思います。
Photo by Yoshiki Hayashi