笑う犬
稲刈りも一段落し、夏の暑さも和らいだ里山は過ごしやすい季節になりました。
里山での暮らしは1年中美しいのですが、特に僕は秋が好きです。
猛暑の季節を過ぎた落ち着いた雰囲気が良いのです。
落ち着くといえば、僕は毎朝、瞑想をしています。
瞑想と言っても難しくはなく、いたってシンプルで超簡単な短いものですが、ほんの数分だけでも行うと気持よく一日がスタートできるのです。
朝起きると、まず僕はベッドの上か縁側に座ります。
そして数分間、背筋を伸ばし、ゆっくりと呼吸し、「今ここ」に集中します。
ただ、それだけなんです。
でも、その効果は驚くほど絶大で、まるで心の部屋を掃除して、お風呂に入ったようにすっきりして、とても落ち着きます。
マインドフルネス
1960年代以降、瞑想はビートルズやヒッピーカルチャーの影響で、個人として広がりましたがまだまだ少数派でした。しかし、2000年代以降はマインドフルネス瞑想と言って宗教色のない瞑想は多くの企業、学校、行政機関、病院、刑務所等々、幅広く広がっています。
今では瞑想は、アップル、グーグル、ナイキ、IBM、スターバックスといった世界的な大企業の研修に取り入れられ、ハーバード大学ビジネススクール、オックスフォード大学、コロンビア大学等のカリキュラムにも採用されています。また、アップルのスティーブ・ジョブズやマイクロソフトのビル・ゲイツ、京セラの稲盛和夫などの経営者、テニス世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチ、野球のイチロー、バスケットボールのマイケル・ジョーダン、サーフィンのジェリー・ロペスなど多くのトップアスリートたちも習慣にしていることは有名です。
僕も良品計画の新入社員研修で、農作業とセットで瞑想を取り入れています。
古今東西、多くの宗教家や芸術家たちなど一部の人達が瞑想を実践してきましたが、近年脳科学や心理学などの分野で科学的にもその効果が認められ、一般の人にも広がってきたのです。
瞑想することで集中力と気づく力と創造性が高まり、直感力が研ぎ澄まされ、イライラすることが減り、ストレスが解消され、一体感を感じ、自己肯定感が増すことでありのままの自分を受け入れることができ、そしてなによりも心が安定します。
もう良いコトだらけで、しかも全くお金もかからないし、いつでもどこでも出来るし、やらない理由はないと思っています。
朝の散歩
瞑想を終えると、僕は犬のルナを連れて朝の散歩に出かけます。
ルナは東京の友人に頼まれて預かっている犬ですが、ずーっと預かっているので、いつの間にか家族の一員ように暮らしています。
ルナはつながれておらず、自由に庭や家を出入りして、里山でのびのびと暮らしています。
我が家には猫もいるので、預かった当初は室内には入れずに玄関で寝てもらっていましたが、古民家は夜になるとネズミが屋根裏から降りてきて、寝室に保管しているお米を狙いに来るので、番犬として家の中で一緒に暮らすようになり、今では夜になると僕の寝室のベッドの下で寝ています。
なので、朝になるとルナのおしっこのために、僕は散歩に連れて行くのです。
竹林を通りぬけ、山桜が並ぶ道へ出て、おとなりの小平田さんの奥さんが手入れをしている花壇を横切り、棚田へと歩いて行きます。
朝陽がまぶしくあふれる里山は、花も草木もあたり一面が輝いています。
綺麗に手入れをされた農村は、美しいエコミュージアムです。
鳥のさえずりを聞きながら、朝の清涼な空気を胸いっぱいに吸って、ゆっくり散歩することは「歩く瞑想」にもなります。
東京で暮らしてきたルナにとって、里山の暮らしは心地よいのでしょう。
ルナは僕について来て、全身で喜びをあらわしながら、笑いながら走り回っています。
犬も笑うのですね。
心と体のチューニング
瞑想と朝の散歩は、心と体を宇宙のリズムにチューニングさせる作用があります。
情報化社会と言われる現代社会で人々は、日々忙しく暮らしています。
ニュースではスピーディに変化する政治や経済の動向がレポートされ、世界では毎日のように事件が起こり、インターネットからはあらゆる情報が洪水のようにあふれ出ています。
都会では街を歩いていても、ショッピングに行っても、どこを歩いていても音楽や様々なノイズが鼓膜を振動させ、電車に乗っても車内テレビや中吊り広告が新しいものを紹介し、常に情報や人工的な刺激が全身に嵐のように降り注いでいます。
そのために人は自分を守るため無意識のうちにバリアをつくり、情報の嵐から自分を防御しています。瞑想や散歩は、そのバリアを解きほぐす作用があり、自分の内なる自然のリズムと宇宙のリズムを同調させ、波長を合わせます。
その時、人はバリアの鎧をはずし、笑う犬のように「自然体の自分」に戻るのです。
常に「自然体の自分」、「素の自分」、「ありのままの自分」で「いる」ならば、人はどんな場所で、どんな状況にいようともストレスフリーで暮らすことができ、より豊かな毎日を送れるでしょう。
ルナを見ていたら、そんなことを思いました。
Photo by Yoshiki Hayashi