古い世界が終わり、新しい世界の始まり
地域通貨あわマネーがスタートして、15年目になりました。
1999年に鴨川へ移住した僕は、2002年に有志10名と地域通貨あわマネーを始め、15年経った今では300名近くの会員が参加する素晴らしいネットワークとなっています。
先日、あわマネー会員のたけちゃんの稲刈りを手伝っている時のことです。
僕と同じ頃に家族とともに鴨川へ移住したたけちゃんは、半農半X(植木屋&サーファー&ジャンベドラマー)のライフスタイルを送り、自給用のお米を不耕起栽培で育てています。
最初は5人くらいだったのですが、口コミでわらわらと手伝いが現れ、いつの間にか15人くらいが集まり、半日で稲刈りが終わりました。
これには、たけちゃん自身も驚いていました。
「あれ?僕は数人の人にお手伝いを依頼したのに、こんなに沢山来てくれるなんて!」
今年の稲刈りは長雨と台風の影響で、とても苦労していることをみんな知っているので、頼んでないのに自発的に手伝いに集まったのです。
鎌を持って次々と集まる人たちの姿を見て、なんだかシェーカーやアーミッシュの村みたいだなって思い、僕はとても感動しました。
手伝いに来てくれた人の顔を見ると、ほとんど全員があわマネーの会員でした。
その時、僕はあわマネーが誕生し15年が経ち、こんな素敵なコミュニティが育まれたのだと思い、それは感慨深い光景でした。
自然体の相互扶助
稲刈りが終わると自然と拍手が起こり、みんなで「たけちゃん、おめでとう~!」「良かったね、終わって!」と言って、たけちゃんのお米づくりの労をねぎらいました。
そして、お疲れ様〜!と言って、みんな笑顔でサラリと解散しました。
その時に、地域通貨のやり取りは特にしませんでした。
みんな自然体で助けあっていたのです。
僕はそれでいいと思います。
それこそ、地域通貨を始めた理由でもあります。
移住者もまだそんなに多くはいなかった17年前、誰も知り合いがいない山の中で子育てを始めた僕らは「助け合うコミュニティ」を創りたいと切に願いました。それが地域通貨を発足させた理由の一つです。
法定通貨の「円」を使わず、"お互いに助けあって暮らしていこうよ"という関係性づくりのキッカケとして地域通貨という道具を田舎暮らしに導入したのです。
あわマネーという道具は"お金のように"モノとサービスを交換するサバイバルツールとしても利用できますし、インターネットを通じて情報を共有するコミュニケーションツールとしても利用できます。
そして、あわマネー会員がつながっていくことで、結果的に「豊かさの価値」を共有する「ネットワーク型コミュニティ」を形成していきました。
経済のグローバル化は地域の多様性・自然環境・コミュニティ・暮らしを脅かし、気候変動により自然災害は多発し、農作物に影響を与え、日本は6人に1人は貧困の格差社会となり、4人に1人が本気で自殺したいと考えたことがあり(日本財団による2016年9月の調査)、GDP世界3位ですが国民の幸福度は世界53位なのです。
映画のラストシーンのように
だからこそローカルで、小さな農を営み、小さな通貨を持ち、コミュニティで助けあって暮らしていれば、文明社会の闇に飲み込まれることなく、人間らしく豊かで幸せに生きることができると思うのです。
ハーバード大学の研究者が1938年から75年間、政治家、事業家、学生、労働者、スラムの住人からアル中まで、724人の様々な男性を追跡し、健康などを記録し、休むことなく、仕事や家庭生活、ありとあらゆる手法を使って、いろんな側面から研究を続けてきた何万ページにも及ぶ情報から気づいたことは、人を健康で幸せにすることは富と名声ではなく、「良い人間関係」を持つことに尽きるそうです。
時代は、「成長から成熟へ」と向かっています。
房総半島の末端の小さな地域での、小さな取り組みが、日本の幸福度を大きく高めていくのだと、里山に暮らしていると実感しています。
それは、たけちゃんの稲刈りで見た「光景」が証明しています。
たけちゃんの稲刈りは、まるで映画のラストシーンように、僕の脳裏に焼き付いています。
その空想上の映画のタイトルは、「古い世界が終わり、新しい世界の始まり」と希望を込めて題したいと思います。
Photo by Yoshiki Hayashi