みんなが喜ぶこと ~自然酒の会2016収穫祭~
「うわ〜、美味しい!」
「あれ・・・? 去年より美味しくない?」
「すごいフルーティー! お米のワインみたい!」
「鴨川里山トラスト 自然酒の会」の収穫祭に集まったみなさんと、できたてホヤホヤの自然酒「天水棚田」で乾杯すると、そのあまりの美味しさに歓声があがりました。
見渡すと、みなさん満面の笑みです。
立て続けに「うわ~、きれい~!」と、友人の料理家「もみじの手」さんがつくってくれた料理にも歓声が上がります。
土間のテーブルにずらりと並んだ大皿料理の美しさに、食べる前にスマホを持って大撮影大会となりました。
蔵元寺田本家さんに仕込んで頂いた自然酒「天水棚田 」2016は、釜沼北集落の天水棚田を保全するため、お米づくりに参加&賛同した人しか飲むことのできない超貴重なお酒です。
「自然酒の会」の年間会員みなさん、寺田本家のみなさん、無印良品のみなさん、コミュニティマーケット・ベアーズのみなさん、そしていつも大勢の人を受け入れてくれる長老たちや釜沼北集落のみなさんなどなど、僕は関わる人々の顔を思い浮かべ、感謝の気持ちで一杯になりました。
多くの人の「思い」と「協力」と「支援」によって、そして太陽と大地と空気と水と、微生物をはじめあらゆる「生命の響きあい」によって、今年も素晴らしいお酒が醸されました。
だからこそ、1年間を共に汗を流してきた会員のみなさんとの乾杯は格別です。
時間をクリエイトする
昼間からおいしいお酒と食事をいただきながら、会員の皆さん一人ひとりに自己紹介をして頂くと、みなさんここに来ているそれぞれの「思い」を話してくれました。
「わたしは、ここに自分をリセットしに来ています」
「ここには人が暮らす本物のことがあり、わたしはそれを体験しに来ています」
「都会のバーチャルな世界では得られない充実感を感じるために来ています」
「普段することのない自然とのつながりを求めて来ています」
「この会に参加する素敵な人たちに会うのが楽しみで来ています」
「お米づくりを自分の手でしてみたかったので」
「いつか田舎への移住を考えているので、その足がかりに来ています」
「こういう農村の内側へ入って長老たちやみなさんとの交流は都会では中々できない体験なので」
「寺田本家のお酒が好きだから、そのお酒造りに関わってみたかったから」
「ここでの体験は将来自分の仕事のためになり、さらに日本のためになると思うから」
「おもしろそうだなって軽い気持ちで参加してみたら、人と田んぼにハマりました」
「去年参加して、思い切って鴨川へ引っ越してきました」
「去年参加してすっかり気に入り、東京と鴨川を往復するためこの近所に小さな家を借りました」
「去年参加しましたが、最近この近所に古民家を買ったので、2地域居住を始めるための準備をしています」
「自然酒の会以外の会にもここでの色々な活動に参加しているので、ほとんど毎週のように通っています」
「ここの活動を応援したいから」等々、みなさんそれぞれの「思い」と「人生の物語」を話してくれました。
こうしてお話しを伺ってみると、みなさんここに来る理由は様々ですが共通点があります。
それは、「人と人とのつながり」、「自然とともにある暮らし」、「充実感」、「学び」、「出会い」、「生きるリアリティ」、「2地域居住や移住へのステップ」、「社会貢献」、「自己成長」というキーワードが浮かびます。
平日の仕事の疲れを取るために休日は家でゆっくりしたり、買い物やレジャー、スポーツを楽しんでリフレッシュしたいところですが、会員のみなさんは都会からわざわざ2時間かけて山の中の棚田へ来る方がエネルギーを得られると言ってくれました。
会員のみなさんが休日にここへ来る目的は、自分の「時間を消費する」のではなく、自分の「時間をクリエイトする」ためだったのです。
新しい家族像
八ヶ岳から友人のシンガーソングライターの里花さんに来て頂き、お祝いの唄を歌ってもらいました。
里花さんの心から湧き出る透明な歌声が古民家に響き、そのバイブレーションが僕らの心と体を震えさせます。
恒例の「宴の唄」では、みんなで手をつなぎ輪になって「さあ、いっぱい飲もうじゃないか~、さあ、いっぱい笑おうじゃないか~」と大合唱で、「流れ星」、「花」、「本当のこと」、「ハレルヤ」と名曲を披露してくれ、僕らは歌と料理とお酒に酔いしれました。
長老も里花さんの歌に聞き惚れ、特にこんぴらさんは、素晴らしい!素晴らしい!とてんやわんやの大絶賛でした。
そして、こんぴらさんは立ち上がってこう言いました。
「血のつながった家族でも、今どきは個人主義さ。でもね、ここにいるみんなは、俺たちは家族なんだよ。」
お米づくりコミュニティは、新しい家族のかたちなのかもしれません。
冬の里山に笑顔の花が咲く
里花さんのライブのあとは、予定にはなかったのですが、急きょみかん狩りを行うことになりました。
こんぴらさんの山の中にあるみかん畑はハクビシン(ジャコウネコ科の野生動物)に荒らされて、このままではみんなヤラれてしまうから、今日は参加費500円でみんなに全部あげるから、収穫してもらいたいとのことでした。
皆さんはみかん狩りをこころよく引き受けてくれ、ほろ酔い気分で里山を散歩しながら、こんぴらさんのみかん畑へ行き、みかん狩りを楽しみました。
こんぴらさんの困り事も、都会の人にとっては楽しい事になるのです。
こうやって、都会と田舎をつなげることで、都会の人は心の充実感が得られ、田舎の人は農地が守られ、お互いをハッピーにする化学反応が起きるのです。
収穫祭は一日中笑顔の絶えない楽しい日となり、とても幸せな気持ちになりました。
まるで、冬の里山にたくさんの笑顔の花が咲いたようです。
その夜、みんなが帰ったあと僕はフト思いました。
僕が里山で育てていたものは、オーガニックなお米やみかん、お酒などの食べものだけではなく、都会の人も田舎の人も自然界すべての生命も、今ここにいる"みんなが喜ぶこと"だったのかもしれないと思いました。
Photo by Hiroshi Ozaki