各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

夢見る力

2017年03月01日

2月最初の週末、僕はいすみ・大多喜ツアーへ行ってきました。
いすみ方面は鴨川から1時間ちょいと北上した距離で、同じ方向を見つめている友人・知人が多く、個人的にイベントなどでは時々顔を合わせるのですが、お互いそれぞれのフィールドでの活動が忙しく、実は膝を交えてゆっくり交流する機会はありませんでした。
なので、農閑期の今なら動けるので、今回は思い切って鴨川の友人たちと泊まりがけで出かけることにしました。

初日の午前中は、大多喜の古民家ゲストハウス「わとや」へ行きました。
友人のカズさんは里山のてっぺんにある古民家を遊び心満載にリノベーションしてゲストハウスを営んでいます。
古民家へ入ると大胆にも茅葺屋根をぶち抜いた天窓から明るい光が差し込み、天井にはツリーハウスのような屋根裏部屋、素晴らしい眺めの絶景テラス、1枚板のバーカウンター、薪でごはんを炊くかまど等々、ワクワクする素敵な空間が広がっていました。
そして、古民家のすぐ下には富士山を望む空中ブランコがあり、まるで空へ飛んでいきそうなこのブランコに乗ると、あまりの楽しさに思わずみんな笑い出しました。

その後、養老川の最上流の清流を渡って、耕作放棄地を再生した秘境の田んぼへ案内してもらうと、そこはホタルが舞う生物多様性の宝庫として蘇っていました。
カズさんは隣の老夫婦と親しくお付き合いし、この地域を「食べられる公園」として、訪れる都会の人たちと一緒に守っていこうとしていました。少年のような目で情熱的に夢を語るカズさんに、僕らは胸をガツンと打たれて感動しました。

つらくない快適な田舎暮らし

それからいすみへ移動し、友人のおんちゃんとあきこさんが経営する畑付きエコアパート&オーガニックカフェ「green+」(グリーンプラス)へ行きました。

太陽の光がタップリ入るオシャレなカフェは開放的な空間で、僕らは料理人のおんちゃんが作るおいしい玄米菜食ランチをいただきました。
内装に自然素材を使ったエコアパートはパッシブソーラーで設計されているため冬はポカポカで夏は涼しく、全室に薪ストーブが設置され、その熱は2階へ伝わる工夫がされており、さらに家庭菜園ができる庭もあり、"つらくない快適な田舎暮らし"を提供しています。

いすみは東京へギリギリ通勤圏なので2地域居住や移住がしやすいエリアで、駅から徒歩10分の「green+」はすでに全室小さな子どもを持つ家族が入居し、みんな長屋のように和気あいあいと暮らしているそうです。ここに入居した人たちは「もう他には住めない」というほど心地よく、寒い古民家に暮らす僕ら鴨川の友人たちは、みんな遠い目で「はぁ~」とため息が出てしまいました。

参加型リノベーション

昼食後は、ウェブマガジンgreenz.jpを運営する鈴木菜央くんとTUP(東京アーバン・パーマカルチャー)を主宰する共生革命家のソーヤー海くんが始めた「パーマカルチャーと平和道場」へ行きました。

これから2600坪の敷地と大きな古民家を参加型でリノベーションし、「生きる知恵」と「心の平和をつくる知恵」と「社会を創造する知恵」の3つの知恵を学ぶ場を創ります。
古民家をリノベーションするために行ったクラウドファンディングでは、なんと希望額の200万円を超える650万円が集まりました。僕も応援メッセージを書いたので、本当に嬉しいです。

「実は何も決めていないし、何の組織もないんです。アメーバのように形はなく、自由に、世界中の誰もが参加でき、参加費もドネーションで、ここに集まった人がそれぞれの知恵と力を合わせて、みんなで創っていこうと思っています。だから、これからぼくもどうなるかわからないんです、ははは~。」と、案内してくれた鈴木菜央くんは笑いながら話してくれました。
これから、ここには多くの人が集まり、学び、楽しみ、育っていくでしょう。

オーガニックビレッジ

その後は、今回のツアーのキッカケを作ってくれた僕の大好きな料理家の中島デコさんの「ブラウンズフィールド」へ訪問しました。毎年、デコさんは僕のフィールドへ研修生を連れて訪れてくれ、その度デコさんは林さんも是非いすみにも来てねって誘ってくれていたのです。

「ブラウンズフィールド」には、オーガニックカフェ「Rice Terrace Cafe」、敷地内にはツリーハウス、ティピ、パオがあり、となりにはナチュラルストア「ASANA」、古民家をリノベーションしたオープンスペース「サクラダコミンカ」、さらに少し離れた場所に古民家をリノベーションした旅館「慈慈の家」があります。

そして、スタッフ6名も住み込みで暮らし、センスの良いデザインが散りばめられたそのフィールドは、まるでオーガニックビレッジです。
その夜、「サクラダコミンカ」でのポットラックパーティーには、いすみ近隣の方が大勢遊びに来てくれ、楽しい大交流会となりました。

シェア&オープン&フリー

二日目の午前中は、以前一緒に都市農村交流をしたことのある石川良樹くんと三星千絵さんの古民家シェアハウスと小さな図書館「星空の家」へ訪問しました。納屋を素敵に改築した小さな図書館は、子供から大人まで色んな人が集まれるコミュニティスペースとなっていました。

また、地元の名家であった立派な古民家はシェアハウスとして移住への足がかりとなっており、すでに16名がここから移り住んでいったそうです。そして、少し離れた場所にある古民家シェアオフィスとカフェ「星空スペース」へも案内してもらいました。
ここは、働く場であり、交流の場であり、ワークショップの場であり、多目的に利用できるオープンな場で、2人はいすみ地域と人をつなげる接着剤のような場を創っていました。

再び「サクラダコミンカ」へ戻り、去年から始まったいすみの地域通貨「米(マイ)」のマーケットへ参加しました。
マーケットでは法定通貨の「円」を使わず地域通貨「米」を使って、多くの人々がマーケットを楽しみ、会場は笑顔と熱気であふれていました。これをキッカケに、いすみのコミュニティはより一層つながりを深めていくだろうって確信しました。

後ろ髪引かれながらマーケットをあとにして、僕らは納屋をオシャレにリノベーションした「Rice Terrace Cafe」で美味しいベジタリアン料理のランチをいただきました。ブラウンズフィールドで感じるのは、スタッフみんなが輝いていることです。ブラウンズフィールドからは多くの研修生が世に巣立っており、デコさんは料理の才能のみならず、人を育てる才能と事業家としての才能もあり、僕はとても尊敬しています。

美しく暮らすこと

ブラウンズフィールドを後にすると、さらに北上し一宮・長南方面へ向かいました。
僕は建築家の中村好文さんが設計した「小屋」が大好きで、以前から中村さんが建てた「上総の家」と美術館「as it is」を見たいと思っていました。
なので、今回はグラフィックデザイナーであり折形デザイン研究所の山口信博さん・美登利さん夫妻とグラフィックデザイナーであり繕工の佐久間年春さんに案内していただき、念願かなってファイナルは中村建築ツアーとなりました。
「上総の家」は山口夫妻と佐久間年春さんと中村好文さんでシェアしている別荘なので、オープンな場ではないのですが、今回は山口さんにお願いして特別に見学させてもらいました。

「上総の家」は中村好文さんの美意識が細部にいたるまでデザインされた、人が美しく暮らす空間でした。シェーカーやアーミッシュのような無駄を削ぎ落としたミニマルな美を静かにたたえたその家は、まるで"暮らす人を優しく包み込む無色透明な器"のようでした。
最後は、沖縄パナリ焼の壺が展示されている長南町の美術館「as it is」へ訪問しました。
里山の雑木林に囲まれた土壁の美術館は、プリミティブな雰囲気と洗練されたデザインが融合した温かい造形で、館内に入るとまるで大地の子宮の中にいるような不思議な宇宙観に包まれました。

二日間、とても内容の濃い充実したツアーでした。
今回のツアーのテーマのひとつに「家」があったのですが、「家」は人生を写す鏡となり、結局「家」を通じて僕らはそこに暮らす一人ひとりの人生を見せてもらったような気がします。
そして、それぞれ共通していることは、みんな人生をかけて真剣に夢を生き、1ミリでも世界を良くしようとしていました。
僕らは今回出会った一人ひとりの人生に感動し、大いに刺激を受けました。
夢見る大人は素敵です。
そして、「夢見る力」が世界を変えてきました。
やはり、旅は良いものです。

Photo by Yoshiki Hayashi

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長

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