資本主義を超えて ~地域通貨カンファレンス~
3月18日土曜日、地域通貨カンファレンスが神奈川県相模原市にある藤野芸術の家で開催されました。実はこの地域通貨カンファレンスは2011年3月12日に鴨川で開催される予定でしたが、前日に起こった東日本大震災により中止となったので、念願叶って6年ぶりに実現したのです。
主催してくれた藤野の地域通貨「よろず」の池辺潤一さんは開催の挨拶で、感無量ですとその胸の内を明かしてくれました。
当日は、神奈川県藤野の「よろず」、同じく藤野の「ゆ~る」、葉山の「なみなみ」、長野県上田の「ま~ゆ」、安曇野の「やまやま」、国分寺の「ぶんじ」、八王子の「てんぐ」、石川県能美の「あんやと券」、埼玉県戸田の「戸田オール」、茨城県八郷の「さとのわ」、栃木県の「じねん」、千葉県いすみの「米」、鴨川および安房地域の「あわマネー」等々、各地域の地域通貨の実践者や大学の研究者が一堂に会しました。
午前中は東京農業大学の栗田健一先生から「地域通貨の最新事情」、僕からは「あわマネー15年の軌跡 ~深化するネットワーク型コミュニティ~」、北陸先端科学技術大学院大学の小林重人先生から「21世紀における日本の地域通貨の変化」と3つの講演でした。そして、午後は各地域の地域通貨の紹介と参加者全員が大きな輪になってのトークセッションでした。
それぞれの地域通貨は、まるで風土に根ざした在来種のように、ユニークで個性的でした。
日本では2002年をピークに約800近くの地域通貨が誕生したそうですが、その多くは自然消滅したと言われています。行政主導のトップダウン型の多くは消え、市民主導のボトムアップ型の草の根の小さな地域通貨は、ゆっくりとその根を伸ばしていました。そして、今ふたたび新しい地域通貨が誕生し始めています。それは、なぜでしょうか?
意識の変容
地域通貨には、通帳型、紙幣型、ウェブ型など様々な種類がありますが、地域通貨と急速に進化するIT技術の融合により、今後全く新しい通貨も生まれる可能性についても議論されました。また、興味深いことに通帳型地域通貨を利用した人の多くは、人と人とのつながりが深くなり、"意識の変容"が起きるという研究者からの発表もありました。
資本主義において、お金は絶対的なパワーを持ち、社会を支配し、それはまるで錬金術のようです。
しかし、良く考えてみれば、お金はただの紙でありコインです。
それらは社会全体が認めたから、お金として存在しているのです。
だから、僕らはひとつの社会実験として、「これも僕らにとってお金だよ」ってコミュニティで認めた「共通の価値」(地域通貨)を創造したのです。
お金は貯めるモノではなく、それのために働くモノでもなく、一人ひとりが、そしてみんなが幸せになるための「道具」であり「手段」なのです。しかし、現代社会ではお金を稼ぐことが「目的」になってしまいました。
お金の本質を忘れてしまった資本主義に生きる僕らに、地域通貨はお金本来の姿を知らしめてくれます。その意味で地域通貨は、現代社会において哲学的な問いを内包しています。
あなたは、何のために働いているの?
あなたは、何のためにお金を稼いでいるの?
あなたは、何ができますか?
あなたは、何をして欲しいですか?
あなたは、何のために生きているの?
信用と信頼
司会進行を勤めてくれた地域通貨「よろず」の高橋靖典さんは、法定通貨と地域通貨の違いをこう説明してくれしました。
「法定通貨は信用しているけど、実は信頼はしていません。でも、地域通貨は信頼しているのです。」
人と人が信頼によって認められた地域通貨は、日本社会の乾いたコミュニティを潤す役割があるのかもしれません。
フランスの経済学者トマ・ピケティ氏が「21世紀の資本論」で指摘したように、世界の富の半数は1%の富裕層が所持し、富を持つものは益々富を得て、貧しい者は益々貧しくなるという資本主義の歪みは結局、地球上の自然環境や99%の人々を苦しめています。
そんな暴走し続ける資本主義にブレーキを掛け、僕たちはコミュニティで異なる方向へハンドルを切り始めています。
向かう先は資本主義を超えて、人も自然もみんながハッピーになる方向へ。
最後に、茨城県八郷に誕生した地域通貨「さとのわ」の通帳に書かれている素敵なメッセージを紹介します。
"里山の恵がぐるぐるめぐり、地域を豊かにします。
「円」では価値のつかないものも宝になります。
「大切なことは何か」を問い続けます。
新しい縁(えにし)が生まれます。
さとのわで、ともにはたらく、ともに創る、ひとりひとりの小さな暮らし"
Photo by Yoshiki Hayashi