各国・各地で「千葉・鴨川 ─里山という「いのちの彫刻」─」
棚田の村へ入ると、まるで時計の針を戻していくように過去へとタイムトラベルしていきます。しかし、ここでの暮らしから見えるのは、過去を突き抜けた「未来の風景」です。

美しい暮らし ~デンマークへの旅~

2017年10月25日

この夏、8月14日から21日まで幸福度世界NO1の国デンマークへ旅してきました。
この旅は、僕とデンマークのイケてる人を紹介するインタビューメディアEPOCH MAKERS代表の別府大河くんが主催で、北欧への旅をつくるエコ・コンシャス・ジャパンの戸沼如恵さんとH.I.Sスタディツアーデスクの川本幸子さんが企画・実施で、「共生する未来を創る旅 ~デンマーク スタディ&アクションツアー×日本の里山・鴨川へ~」と題し、デンマークと鴨川の里山を旅して、それぞれの良い所を融合させ、日本らしい共生社会を創ることを目指しています。
テーマは農業、オーガニック、再生可能エネルギー、ゴミ処理、森のようちえん、教育、パーマカルチャー、持続可能な地域づくり、建築、デザイン、シェアオフィス、都会と田舎、民主主義、成熟社会等々、多岐に渡り21世紀のテーマが凝縮しています。
参加者は10代から60代までと幅広く、日本各地から多様な26名が集まりました。
そして僕にとっては、1997年20代のアジア・ヨーロッパ放浪の旅以来、丁度20年ぶりの海外への旅となりました。

もう一つの選択

コペンハーゲン空港に着くと、僕らはすぐに自然エネルギー100%のロラン島へ向かいました。
ロラン島では、今回の旅の通訳&コーディネーターであるジャーナリストのニールセン北村朋子さんがむかえてくれました。
デンマークは1973年、オイルショックを契機に浮上した原発建設問題を国民的な議論で拒否し、原発ではなく再生可能エネルギーを選びました。当時エネルギー自給率は数パーセントでしたが1997年には100%を達成し、2050年までに石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料の使用をやめ、すべて再生可能エネルギーにする国家ビジョンを持っています。
ロラン島のかつての原発予定地へ行くと、そこには風力発電機がズラリと並んでおり、その光景は僕に"世界はもう一つの選択が可能なのだ"と、語りかけてくるようでした。
デンマークの中学校の社会科の教科書の第1章は「マスコミは権力に取り込まれ国民をだますことがあるから、鵜呑みにせず自分で真実をしっかり見る目を持つことが大切」という内容で、"自分で考えて行動する"ことを子供の頃から養っていると聞きました。

都市と地方の対等な関係

ビーツ畑が広がるのどかな農地の真ん中に、コペンハーゲン市が建てた大型のクヌセンボー風力発電機が3基建っていました。
コペンハーゲン市は2025年までにCO2ニュートラルな首都を目指す目標を持っており、それを実現するためコペンハーゲン市はロラン島に巨大な風力発電機を建設しています。
風力発電の土地のレンタル料や発電の配当など、建設されると経済的に地域は潤いますが、風力発電は大型なので景観に良いとはされないため、地域では建設を歓迎していないそうです。

そんな状況の中で、建設のための条件として、現場を知ってもらうための環境ツアーを企画し、さらにコペンハーゲン市は優先的にロラン市の農産物を購入し、経済的に買い支えることを条件としたサスティナブル協定を結んだそうです。
デンマークでは、地方が都市の犠牲になるのではなく、都市と地方は対等な関係を築いていました。

ゴミは資源

ロラン島とファルスタ島共同のゴミ処理施設REFA(レイファ)は、驚いたことになんとNGO(非営利企業)が運営し、国や自治体からの補助金を受けず、売電・売熱・登録料の3つの収入で自立して経営しています。
住民は必ずREFAに登録し、収集を希望する廃棄物コンテナの大きさと回数によって、登録料を支払う仕組みになっています。収集された廃棄物は燃焼による売電と、その熱を利用した地域熱供給システムに使われています。ゴミはエネルギーになるので資源となり、ロラン市では冬に燃やすゴミが足りなくなるので、ドイツやイギリスから引き取っているそうです。他国からのゴミは無料で引き取り、運搬費は搬出国に持ってもらい、それをエネルギーとして売るので利益が出ます。ゴミは高熱で燃やし、排出される煙は100回以上繰り返して濾すことで、有害物質を取り除き、ダイオキシンはデンマーク国内29箇所合わせて年間1g未満です。

コジェネ施設に併設されているリサイクルセンターでは、住民がゴミをそれぞれ車で運び、ドライブスルー形式で32種類に分類し、置いて行く仕組みになっており、デンマーク全体では廃棄物の約80%がリサイクルされています。

できるだけ燃やさず、それでも最終的に燃やすゴミは、電気と熱としてエネルギー化する事で無駄なく徹底的に活用し、そんな世界最先端のゴミ処理にもかかわらず、これからはアッシュフリー社会という灰すら出さない仕組みにするそうです。

農家はカッコイイ!

デンマーク最大のオーガニック農場であるクヌセンルン農場のオーナーの4代目のスザンヌさんは、小さな子供を持つ若いお母さんです。

スザンヌさんは2006年に父から農場を引き継いだ時、すべてをオーガニックへ転換することを決断し、そのためにまず土作りから始めたそうです。そして、現在は有機農業からより基準が厳しいバイオダイナミック農法へと移行しています。

「近代農業により全世界の健康な土の30%が消滅し、この10年間でデンマークの昆虫は27%絶滅し、急速に生物多様性が失われて言います。このままだと将来、世界中の土がダメになり、食糧危機が起こるでしょう。」

「現代は食べ物が商品としての"モノ"になってしまいましたが、本来、"食は作り手の表現"なのです。そして、オーガニックとは良い自然環境と食べ物によって人々の健康を守り、その結果として医療費が削減され、少し高くても都市住民が買い支えることで良い経済をつくり、トータルに社会全体が良くなります。それと同時に、一人ひとりの人生の質も高めてくれるのです。だから、私は世界一のオーガニック農場を目指しています。なぜなら世界一になれば、世界に影響を与えることが出来るからです。そして、あえて世界一という高いビジョンを持つことで、自分自身の仕事に手を抜けず、常にベストを尽くすことができるのです。」

「豚の餌は95%、牛とヤギは100%餌の自給をし、畜産も大量生産ではなく、放牧でノビノビ育て、また絶滅危機にあるデンマーク原種の豚を育てています。地域の植生を調査し、国立シードバンクや大学と連携しながら在来種の雑草やハーブを育成し、この地域の生態系を復活させる試みもしています。」

「約1500ヘクタールの農場で在来種の小麦を育て自家製粉し、デンマークのオーガニック小麦の10%を生産しています。また、昔ながらの木の樽を使った伝統的なチーズづくりを復活させ、ヨーロッパや世界のチーズ大会で数々の賞を受賞し、高い評価を得ることが出来ました。そして、カフェと直売所を運営し、今では世界中から年間5万人が訪れるデンマーク最大のオーガニック農場になりました。」

「農場のスタッフ30名の男女比は同じ15名ずつで、若者だけでなく高齢者、研修生、移民、障害者を雇い、職場は社会の反映と考えて多様性を重視しています。自然環境も、職場も多様であることは、リスクへの拡散であり、よりリノベーティブでもあるのです。」

スザンヌさんが語る一言一句に感動しながら、僕らは農場を案内してもらいました。
農場を一周りすると、農場のオシャレなカフェでランチを頂きました。
僕らはデンマーク語で乾杯という意味の「スコール」と言って地ビールで乾杯し、世界一おいしいチーズを堪能しました。
デンマークの農家は、地球規模の視野を持つ経営者であり、知的で、稼げて、オシャレで、クリエイティブで、社会企業家でカッコイイのです!

楽園は心の中に

ロラン島の隣のファイウ島でエネとミックが営むパーマカルチャー農園には、世界中から若者がWOOF(ウーフ)として集まっていました。

海の見える丘の上でサンドイッチを食べて、草の上に円になってジョン・レノンのイマジンを歌い、マインドフルネスをし、僕らはみんなで語り合いました。
僕がここは楽園ですねと話すと、エネはこう言いました。

「本当はすべての場所が楽園なの。ニューヨークにいても、マンハッタンにても。その人の"心の中にある美しさ"が、目の前の世界に美を感じることができるの。」
楽園は一人ひとりの心の中にあるのだと、エネは教えてくれました。

心の原点は森に

デンマークは、森のようちえん発祥の国です。
ロラン島の森のようちえん「青いアネモネ」を訪問すると、森のなかで楽しそうに遊ぶ子供たちの姿があまりにも眩しくて、僕は涙があふれそうになりました。

人間の本質とは、自由で創造的で美しい存在なのだと、子どもたちの笑顔が伝えてくれます。
ここには、何々教育というメソッドはなく、カリキュラムもなく、テレビもなく、勉強を教えることもせず、発表会などもありません。

園舎がないので、雨の日も風の日も、子供たちはとにかく森で、自分のやりたいことを、自分で選んで、ただひたすら自由に遊びまくる3年間を過ごします。

こんな素敵な森のようちえんがデンマーク全土に、くまなくあるそうです。
成熟社会を創り出したデンマーク人の心の原点は、森にありました。

デザインは問題を解決する

ロラン島から首都コペンハーゲンへ移動すると、世界で活躍する建築家であり家具デザイナーのトーマス・シグスゴーさんのオフィスへ訪問しました。

彼のデザインしたイスは、ニューヨークの国連総本部ビルの会議場「フィン・ユールホール」に選ばれ、デンマーク王立芸術アカデミーの「世界で最も重要なデザインのイス」コレクションにも保管され、デンマークデザイン・ミュージアムにも所蔵されています。

トーマスは自分がデザインした国連の椅子「カウンシルチェア」や「GUEST CHAIR」を見せてくれながら、デザインのプロセスを説明してくれました。
「先人たちの創ったモノをリスペクトしてそれを活かし、世界が何を求めているかインスピレーションを受け、"良い問題を見つける"ことが大切です。」

「そして、"問題はデザインで解決することができる"のです。美しい椅子を創ることも、美しい社会を創ることも、デザインする手法は同じなのです。」
今回、一緒に旅をしている17才の息子はトーマスの仕事に感動し、「ここで働きたい」と申し出ると、インターンとして受け入れてもらえることになりました。
旅は人生を変える力があります。

デンマークを代表する芸術学校の「デンマーク王立芸術アカデミー」でデザインを教えているトニーに校内を案内してもらいました。
トニーに「世界で最も重要な椅子」がコレクションされている秘蔵の部屋へ案内してもらうと、部屋の中には歴史的な名作の「座る芸術」が、ズラリと並んでいました。

どうして、デンマークは時代を超え世界中で売れ続ける素晴らしい椅子を数多く生み出したデザイン大国になったのですか? という僕の問いにトニーはこう答えてくれました。
「デンマークの資源である森の木、職人の技術、美しいデザイン、民主主義、教育、産業、それらが結ばれ、ひとつになって、戦後のデンマーク社会はデザインで復興したのだと思います。」
日本が成長から成熟へ移行している中、トニーの言葉には多くのヒントがありました。

多様性と自由は創造性を育む

築300年5階建ての古い建物を丸ごとリノベーションし、約70社120人が入居するシェアオフィス「5te STED(フェムテ ステッド)」は、オフィスとは思えないほど、どこもかしこもオシャレで、ルールがないのに創造的なコミュニティとなっていました。

デンマークを代表する建築事務所3XNは、元海軍の古いボートハウスをリノベーションした素敵なオフィスで、約100人のスタッフは世界数十カ国から集まっており、多様性に満ち、仕事のクライアントは約80%が海外で、ここでは国や民族の境界線が消えて創造性を発揮していました。

コペンハーゲンの中心部にあるクリスチャニアは、人口1000人の自然豊かなヒッピー自治区です。ここにも余計な常識やルールがなく、自由とアートにあふれ、リーダーはいない直接民主主義で、毎週月曜日の午前中に、多数決ではなく全員が納得するまで話し合うミーティングを行い、住民一人ひとりが自主的にコミュニティを管理・運営しています。

クリスチャニアを訪れたこの日、LGBT(性的少数派)のコペンハーゲン・プライドのパレードがありました。街中がレインボーで飾られ、社会全体で人権の多様性を祝福していました。
クリスチャニアから街へ戻ると、すでにパレードは終わっていましたが、パレードを見た友人たちは感動して涙が流れたそうです。

できるだけルールを作らず、多様性を認め、自由を尊重し、境界線をなくすことは、人間の創造性を高め、社会をより豊かに成熟させていきます。

性善説の国

デンマークで驚いたことのひとつに、家にカーテンがないことでした。たまにあっても、ほとんど閉じていませんでした。
田舎でも都会でも、通りに面した1階だろうとカーテンはなく部屋の中が丸見えなのです。そして、美しいインテリアのキッチンやリビングはキレイに片付けられて、窓辺には花やオブジェが飾られ、どの部屋も素敵なのです。まるで、"美しさのおすそ分け"をしているようです。子どもいる家庭は、さすがにおもちゃが散らかっていたり、そんなに片付いてない部屋も中にはありましたが。
それは、家の中だけでなく街全体がそうでした。
街には電柱がなく、看板や自動販売機もなく、古い家が大切に残され、どこへ行っても美しい景観が保たれ、さらに駅に改札はなく自己申告制でした。
デンマーク社会は、他人を信頼している性善説で成り立っていました。

デンマーク国民は税金の高負担を合意し、教育・医療・出産・福祉が無料の高福祉を実現し、多様性を認め合う寛容で格差のない社会をつくり、森のようちえんなど自然育児が盛んで、投票率は平均90%、汚職の少なさ世界1位で政治の高い透明性、報道の自由が保たれ、労働時間は短く週37時間で仕事は夕方4時に終わり、基本残業なし、金曜は半ドンで自分の時間がタップリあり、それにもかかわらず個人のGDPは日本人より高く、デザイン大国の美しいインテリアにあふれ、さらに再生可能エネルギー先進国であり、国民の幸福度世界NO.1に何度も輝いています。
どうしてこんなことが可能なのだろうかと、僕はデンマーク滞在中に考えていました。
でもデンマークも、はじめからこの様な国ではありませんでした。
国民みんなで時間をかけて創ってきたのです。
日本も今から出来ることがあります。

暮らしからはじめる

デンマーク最終日の夜、みんなでレストランへ行った時の会話が心に残っています。
「最終的に『一人ひとりの美しい暮らし』が、持続可能な共生社会を創っていくんだと思うのです。」
目の前の世界をどこかの誰かのせいにするのではなく、自分の暮らしが鏡のように社会に写り、それが結果的に政治・経済・文化に反映されていきます。
だから、僕ら一人ひとりが日々の暮らしをていねいに美しく務めることこそ、より良い社会をつくることにつながるのではないだろうか。
社会とは、僕ら一人ひとりの意識のあらわれなのだから。

「美しいものは、いつの世でも
お金やヒマとは関係がない
みがかれた感性と、
まいにちの暮らしへの、
しっかりとした眼と、
そして絶えず努力する手だけが、
一番うつくしいものを、
いつも作り上げる」

(花森安治/MUJI BOOKS/「自分で作れるアクセサリ」1948年)

Photo by Yoshiki Hayashi

イベント情報

天水棚田でつくる「自然酒の会」(NPOうず主催・無印良品協力)第5回イベント「収穫祭」

11月18日(土)は、「鴨川里山トラスト・自然酒の会」の収穫祭を行います。おかげさまで、今年も約1200年前から作られてきたと伝えられている天水棚田を保全することが出来ました。本当に、ありがとうございます。収穫祭では寺田本家さんに仕込んでいただいた自然酒「天水棚田」をお渡ししますので、ぜひお越しください

開催日:2017年11月18日(土)
開催時間:11:00~15:30(予定)
開催場所:千葉県鴨川市
詳しくはこちら

2017年度「鴨川里山トラスト」スケジュール
有機米の会

2017年5月13日(土)第1回「田植え」
2017年6月10日(土)第2回「田の草取り」
2017年7月8日(土)第3回「田の草取りとすがい縄づくり」
2017年9月9日(土)第4回「稲刈り」
2017年10月14日(土)第5回「収穫祭」
2017年12月23日(土)第6回「注連縄づくりとみかん狩り」

手づくり味噌・醤油の会

(年会費:3,000円:できあがった味噌1kg、麦醤油500ml、米醤油500mlをお渡し)

2017年7月22日(土)第1回「大豆種まき」
2017年12月16日(土)第2回「大豆収穫」
2018年1月20日(土)第3回「大豆脱穀・選別」
2018年2月17日(土)第4回「味噌仕込み」
2018年3月17日(土)第5回「醤油しぼり」

自然酒の会

(年会費:10.000円:できあがった自然酒720mlX4本をお渡し)

2017年5月20日(土)第1回「田植え」
2017年6月17日(土)第2回「田の草取りとすがい縄づくり」
2017年7月15日(土)第3回「田の草取り・陶芸体験」
2017年9月16日(土)第4回「稲刈り」
2017年11月18日(土)第5回「収穫祭」
2018年2月4日(日)第6回「寺田本家蔵見学」

※天候不良などによる予備日はすべてありません。

  • プロフィール 林良樹
    千葉・鴨川の里山に暮らし、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っています。
    NPO法人うず 理事長

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