各国・各地で「北秋田 ─白き良き、秋田─」
四季の変化を色濃く映し、冬は白一色の世界となる北秋田。雪国の自然に育まれた、魅力的で独特な農耕や狩猟の文化をお伝えします。

年貢を納めて自分の村をもつ、新しい田舎暮らし

2015年05月13日

秋田県五城目町に新しい村ができました。
その名も、「SHARE VILLAGE 町村」。村といえば、家々が立ち並び多くの村民がその場所に住み、暮らしているものです。そんな一般的な村のイメージと対照的なシェアビレッジには、たった一軒の家があるだけ。家といっても単なる一軒家ではありません。そこには土間があって、囲炉裏があって、昔ながらの日本人の暮らしを感じることのできる築133年の茅葺の古民家です。

シェアビレッジはクラウドファンディングサイト「Makuake」上で古民家の改修資金を集めました。その額は570万円を超え、862人もの支援者が集まっています。その資金を元に古民家を改修し、2015年5月2日と3日にオープニングセレモニーの開村祭が行われ、県内外から多くの村民が集まりました。今回はそんな開村祭の様子やシェアビレッジについて、これからの地方の可能性についてのお話です。

秋田の辺境から村の概念をひっくり返す

秋田県五城目町は秋田市内から車で約40分ほどの距離にある日本の原風景が残るイナカ町です。520年の歴史を誇る朝市を中心に、職人や造り酒屋が集積し、農林業をベースとした暮らしが営まれています。その一方で、高齢化率は40%を超え、今集落や風景の消滅も課題となっています。

シェアビレッジ町村として生まれ変わった築133年の茅葺古民家も、消滅の危機にありました。理由は2つ、維持費がかかってしまうことと住む人がいなくなっているということ。それだけの理由で数百年続いてきた日本の文化でもある古民家は消滅してしまいます。

今までは1人の人が1つの家に住み、維持費を払っていましたがそれでは維持できません。「多くの人たちで少しづつお金を出し合い、1つの家を支える仕組みを作ろう」、「村があるから村民がいるのではなく、村民がいるから村ができる」という考えのもと、一軒の古民家を村に見立てて、再生していく。それがシェアビレッジです。

さぁ、あなたも年貢の納め時

シェアビレッジの村民になる方法はいたってシンプル。「年貢(NENGU)」と呼ばれる年会費3000円を払えば、誰でも村民になることができます。村民になるといつでも自分の村にいって田舎暮らしを体験したり、村民同士で楽しんだり、宿泊したり、のどかな環境で仕事をしたりと楽しみ方は村民の自由です。

田舎に行くだけがシェアビレッジの魅力ではありません。「せっかく村民になっても忙しくて村にいけない」という村民のために、都市部では村民を集めた定期飲み会の「寄合(YORIAI)」も開催されます。会社でもなく、同級生でもなく、出身地も関係ない村民同士が気軽に酒を交わしながら、村について語り合います。単なる古民家保全活動とは違い、都市や他の地域に住む人々が村民になることで新しいコミュニティが生まれ、村民たち自身が地域に参加し、コミットしていける新しい田舎づくりです。そんな新しいコミュニティの誕生を早速、開村祭で見ることができました。

生まれ変わった家に人々が集う

秋田が桜を満開に咲かせるゴールデンウィーク。開村祭が行われた5月2日は夏のように日差しが強く、汗ばむくらいの陽気の中、約100名ほどの村民が県内外から集まりました。最も離れた場所だと兵庫県からこの日のために駆けつけてくれた村民もいました。

シェアビレッジの運営メンバーである、村長(武田昌大)、家主(丑田俊輔)、家守(柳澤龍)、大名(松橋拓郎)の4人によるテープカットを行い、いよいよ古民家の中へと進みます。

中では地元の食材をつかった揚げたてのコロッケやオードブル、おむすびや地元の日本酒が用意され、村民は各々に好きなものを皿にのせて畳に座ります。開始早々、部屋中に村民たちの楽しそうな会話が広がります。「秋田県に行ったことがなかったし、古民家に興味があってやってきました」という声や、「地元だけどなんだか面白そうできてみました」など地域を超えた人々が集ってお互いに交流を深めます。

イベントは元家主の伊藤健さんによる古民家や五城目町の紹介をするトークイベントからスタート。伊藤さんのこの家にかける思いやストーリーに参加者が涙する場面もありました。

続いて、大名の松橋さんと一緒に畑を耕す開墾イベント。古民家のすぐそばにある土地を一から開墾して、今後はここで野菜や木苺を育てます。「みなさん、今の風景を覚えておいてください」と松橋さん。ただの荒れ地から夏には畑へと生まれ変わり、たくさんの野菜や果物が収穫できるようになります。きっと次回訪れた村民たちはその変わりように驚くはず。

イベント初日最後は村長による第1回寄合の開催です。シェアビレッジがどうして誕生したのか、シェアビレッジの村民たちがどこにどれくらいいるのか、今後シェアビレッジはどうなっていくのかなど、村のこれからについて語り合いました。

イベント2日目は、朝市散策からスタート。
「しどけの味噌汁無料だよ~」という地元の方の声に、村民たちもお味噌汁を食べるため行列を作ります。「美味しい! 美味しい!」という村民たちの声に地元のおじいちゃんおばあちゃんの笑顔も溢れます。

山菜や地元の食材が並ぶ朝市を散策した後は、五城目町にある酒蔵「福禄寿」の蔵見学に行き、酒造りの歴史や行程を学びました。できあがった日本酒が積まれた冷蔵庫の扉を開けた時には「おー!」という村民たちの歓声が蔵に響きました。

町を見て回った後は車に乗り込み、農業体験をするため大名の松橋さんの畑へ移動しました。大きなハウスの中ではアスパラが元気いっぱいに育てられていました。
「アスパラってこうやって生えているんだ~!」という驚きの声がたくさん。普段、何気なく食べている野菜がどうやって育っているか見れるのも農業体験の醍醐味です。

「アスパラは収穫してすぐ生で食べるのが一番美味しいんです」という農家ならではのアスパラの楽しみ方の話から、アスパラづくりへのこだわりを聞いた後は、実際に苗を植える体験も行いました。

一人ひとりが自分の場所に大切に苗を植えます。「こんな感じでいいのかなー」と少し不安がりながらも村民たちは土に触れ、大満足の様子でした。

村を通して、たくさんの人々がつながった開村祭は、村民の笑顔溢れる充実した2日間でした。人口減少で消滅の危機にある町に人が集い、潰されかけていた家はその輝きを取り戻しました。「また遊びに来ます!」「移住したいなぁ」という嬉しい声もたくさん聞くことができました。この村民たち一人ひとりで作り上げていく村、シェアビレッジの大きな可能性を感じました。

シェアビレッジのこれからと田舎の未来

全国39都道府県から862人の村民を集めたシェアビレッジ。
今後も様々なイベントを用意しています。茅葺屋根の茅を葺き替えるワークショップでは実際に茅葺職人さんから葺替え方をレクチャーしてもいます。「一揆(IKKI)」という名のフェスでは「村歌(SONG)」を村民で歌おうと企画しています。秋には屋根の材料になる茅を村民総出で刈り取るイベントも企てています。秋田だけではなく、東京でも毎月寄合を開催していく予定です。「まだ村民じゃないよ」という方もご安心ください。実際に現地に行って年貢を納めて村民になることもできますし、WEB上からも登録することが可能です。
村民証を手に入れて、村体験を楽しみましょう。

シェアビレッジは日本だけでなく世界中に村民を増やし、「100万人の村」を目指しています。村民が増えれば増えるほど、全国に散らばる古民家を村へと変えていくことができます。日本全体を大きな村とし、古民家をつないでネットワーク型の村を作っていきます。一度村民になったら、どの村にでも泊まりに行くことができます。今までの田舎から都市へと流れる人口を「都市から田舎へ」、そして、「田舎から田舎へ」と人々が動く新しい田舎を作っていくことがシェアビレッジの大きな目標となっています。都市に住む人々、田舎を持たない人々がもう一度田舎に目を向け、田舎を訪れる、そんなきっかけを目指しています。

[関連サイト] SHARE VILLAGE

一年間にわたって、秋田の暮らしや文化をみつめてきた『各国・各地で「北秋田 ─白き良き、秋田─」』も今回のコラムで最後となりました。今までご覧頂いてきたみなさま誠に有難うございました。四季折々の風景の変化や、雪国ならではの食文化、普段都会で生活していてはわからなかったマニアックな地域の一面をたくさんお伝えできたのではないかと思います。田舎には都会のような便利さや刺激的なものはないかもしれません。しかし、そこには日々、暮らしを楽しむ若者や、物をつくり続ける人々、都会とつながって新しいことを始める人々など可能性は無限大です。ぜひ一度秋田に来てみてください。コラムにはまだ載っていないあなただけが感じる秋田の魅力、田舎の未来を見つけることができるかもしれません。

  • プロフィール 武田昌大
    新しいもの・面白いものが好きで大学卒業後、デジタルコンテンツクリエイティブ業界に携わる。25歳の頃からふるさとである秋田県北秋田市をベースに農業活性や古民家活性に取り組む。
    新しい田舎を作り世界にワクワクを発信していきます。

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