発酵ワンダーランド
"明治12年創業の歴史ある蔵"と聞いて、皆さんはどんな場所を想像するでしょうか?
東京ドーム1個分の広さを持ち、レンガ造りの蔵が建ち並ぶその場所はきっとみなさんの想像を超えるでしょう。
今回は全国的に見ても数少ない味噌・醤油・日本酒の3品を醸造している蔵、「小玉醸造」を訪れました。
良質なお米と雪国ならではのきれいな水が揃った秋田には、古くから多くの蔵が存在し、秋田杉の桶樽とともに「秋田味噌」を造り続けています。
「秋田味噌は他と比べて米麹の割合が多い、贅沢な味噌なんです」。そう、得意げに語る菊地仁さん。
秋田県民の暮らしに根付くふるさとの味「ヤマキウ味噌」は、どのように伝統を受け継いでいるのか、その魅力をご紹介します。
蔵に住み着く菌と秋田の自然が醸し出す
「伝統の味を保ち続けるのは難しい。お客さんから、『味が変わったな』と言われないかドキドキだ」と菊地さんは言います。
ヤマキウ味噌の特徴は、創業当初から受け継がれる伝統の「天然醸造」という方法で味噌を造っているからこそ、同じ味を作り続けることは難しいのです。
止めどなく降り積もる雪を足で踏みしめると、"キュッキュッ"と音が鳴る秋田の冬。平均気温がマイナス2~3度くらいの厳寒期に味噌の仕込みは始まります。
米麹や乳酸菌、多くの微生物と原料成分が複雑に作用し合って発酵が少しずつ始まります。そして春を越え、30度を超える灼熱の夏になると発酵はピークを迎えます。
「一般的な味噌造りはここで終わりですが、うちはここからさらに一冬越します」
温度をコントロールして行う適温醸造では半年で菌たちの仕事は終わりですが、天然醸造を行う小玉醸造では、1年6ヶ月の間菌たちがじっくりゆっくり働き続けます。
つくり手と菌と自然が織りなす作品がそこに生まれるのです。
気候を活かし、菌を操る蔵人の力
冬は寒く夏は暑い、変化に富んだ秋田の気候風土を活かし、たくさんの微生物たちに最高の働きをさせる上で、蔵人の知恵や工夫がそこにはありました。
蔵は昔ながらの土蔵造りという手法の分厚い壁で造られています。当時は暖冷房設備というのは今のように発達しておらず、壁を厚くすることで外の寒暖の差を少なくし、製品の品質を維持していたのだそうです。
温度管理が徹底されひんやりとした薄暗い蔵の中で、菌たちはのびのびと活動しているのです。
伝統と革新のヤマキウ味噌
135年前から親しまれ続けているヤマキウという名前と、大豆10に対して、麹歩合が8~10という、ずっと変わらぬ配合。そうして生まれたヤマキウの味噌は、県内シェア40%。つまり秋田県民のほぼ半分の人がヤマキウ味噌で育っているのです。
また、とても大事なのが、麹に負けないくらいの大豆の力。
「色がきれいで粒が大きく、へそが薄い方が味噌にはいいんだよ」。そう、笑顔で教えてくれる菊地さん。
日本の大豆自給率は約5%ほどと低く、ほとんどが輸入品となっている昨今。小玉醸造では、リュウホウと言う名の秋田県産の契約栽培大豆を使っています。
さらにこの大豆の魅力を引き出すために、"半分煮て半分蒸す"という手法を使います。
「煮ると良い色が出せるんだけども、栄養も失われてしまう。だからこそ、最初に煮て栄養がなくなる前にお湯を抜き、圧力をかけて蒸すんだよ」。蔵の外を歩いていた時に見かけた、立ちこめる白い蒸気はこれだったのかと腑に落ちました。菌や酵母と向き合い続けて23年の菊地さんは、一件無口そうに見えますが、一度味噌について語り始めるとその熱さが伝わって来る、まさしく秋田の男前です。
あきたこまちの米麹、135年生き続ける菌たち、こだわりの大豆、低温長期発酵で造られるヤマキウ味噌は、穏やかな香りを放ち、大豆の旨味と麹の甘味の調和がとれた味わいです。
「もっと多くの人たちに、手軽に味噌を食べてもらいたい」
そんな想いから、新しい動きも始まっています。それはフリーズドライのお味噌汁。
具材も、わかめや豆腐刻みネギから選ぶことができ、鰹と昆布出汁の旨味が詰まった味噌汁をお湯をかけるだけで楽しむことができるのです。
小玉醸造はいつでも蔵を見学することができます。伝統と革新の生まれる発酵ワンダーランドに、ぜひ足を運んでみてください。きっと菊地さんが味噌の魅力をキラキラ語ってくれるはず。
お知らせ
Found MUJI Marketにて今回ご紹介した「秋田味噌」を6月に販売の予定です。