各国・各地で「北秋田 ─白き良き、秋田─」

つるつるぷりぷり、食べるエメラルド

2014年06月18日

「世の中は無限か有限か。じゅんさいは他の誰も持っていない武器、だからそれで勝負したいんです」。その温和な見た目とは裏腹に熱く語るのは、「じゅんさい太郎」と親しみを込めて呼ばれている安藤賢相さん。「じゅんさい次郎」こと近藤大樹さんとともに、『NO JUNSAI NO LIFE』と掲げ、じゅんさいのPRに力を入れている。 日本古来から残る神秘の野菜、「じゅんさい」とは、一体どんなものなのか。受け継がれてきた沼を守り続ける「安藤食品」、その魅力をご紹介します。

写真右:じゅんさい太郎/安藤賢相さん、写真左:じゅんさい次郎/近藤大樹さん

沼に生きる神秘の食材

そもそもじゅんさいとは、沼に自生するスイレン科の水草の若葉のこと。昔から全国的に生息していて、関西では料亭の前菜に出される高級食材でした。
その歴史は意外と古く、「古事記」や「万葉集」にも沼縄(ぬなは)という名で記されています。「中国の故事にもジュンコウロカイって言葉があるんですよ。漢字は難しくてわからないけど」。と笑顔で語る近藤さん。じゅんさいの味を思い出して食べたくなった偉い人が、仕事を辞めて帰郷したことから、「ふるさとに帰る」という意味で使用された言葉だそうで、日本だけではなく広く食べられていた食材だということがわかります。

雪国秋田の長い冬が終わり、その雪解け水が沼へと流れ込み、夏に向かって気温が上がり始める5月頃からじゅんさいは顔を出し始めます。
「まだ本気出してねぇなぁ」。と、じゅんさいを眺めて語る近藤さん。じゅんさいが出始めのこの時期は、まだじゅんさいが痩せている、つまり葉を覆うゼリー状の粘質物が少ないのだそうです。
そういう時は沼の水深を浅くして太陽を沢山浴びさせ、じゅんさいを育ててあげるのだと言います。そうしてあげることで、収穫最盛期の6月、7月には大きく育ったぷるぷるのじゅんさいが収穫できます。
農薬などに弱く、水のきれいなところでしか育たないデリケートなじゅんさいが住む沼には、魚や他の生物、植物がたくさん生息しています。「良いじゅんさいを育てるということは、雑草との戦いなんです」。と安藤さん。
じゅんさいを沢山とろうとして沼に堆肥を入れすぎると、余計な雑草も生えてくる。
雑草が増えすぎると沼の底にいるじゅんさいまで光が届かなかったり、収穫する際に雑草をかき分けてじゅんさいを見つけなければならないため、非常に効率が悪くなってしまう。

「次のじゅんさいが出てこないと狂ってくる」。と、雑草との戦いが如何に大変なことなのか語ってくれました。取り子と呼ばれるじゅんさい摘み取りをしているおばあちゃんたちにも、「草とれ、せばいいのがおがる(雑草をとりなさい、そうしたらいいじゅんさいが育つ)」とこっそり言われるのだそう。灼熱の夏は沢山の沼を周り、1つひとつ雑草を取り除くのです。

風を読め、沼の声を聞け

今回実際にじゅんさいの摘み取り体験をさせていただきました。取り子は畳一条ほどの方舟にのって、木の棒でこぎながら沼を進みます。ボートのように水面をかくというよりも、棒を地面にさして力で進む感覚です。沼に手を突っ込み、茎の下についているじゅんさいを摘み取ります。
まず感じたのが、水面から見ているだけだとどこにじゅんさいがあるのか見つけるのに一苦労だということ。素人だと、1日500g程度しかとれないそうです。
それがじゅんさい摘み取り暦17年のベテランおばあちゃんになると、1日17kg収穫できるようになるのだと言います。
「ゾーンに入ってるんだよな」と近藤さんは言います。
熟練の取り子さんたちは、葉っぱを見るだけでじゅんさいがあるかどうか瞬時に判断し、目にも留まらぬスピードで次々と収穫していきます。
じゅんさい摘み取りのスキルが身に付くまでだいたい3年はかかるのだそう。取り子さんは、摘み取りやすいように各々に独自のアイテムを持っていました。
「鋼の爪」と呼ばれ、茎からじゅんさいを切り分けるために親指に鉄のネイルのようなもをしているおばあちゃんもいました。
高齢化が進み今では取り子もほとんどいなくなってしまい、生産量自体も毎年10tずつくらい減ってきているそうです。そんな中でも、太陽のもと会話をしながら摘み取りをしているおばあちゃんたちの笑顔は楽しさでいっぱいでした。

他の野菜にはない、唯一無二のつるりとした食感。

秋田県はじゅんさいの生産量日本一。三種町のじゅんさいは、国産の80%〜90%の生産量を誇っています。じゅんさいの特徴と言えばなんといっても、ゼリー状の独特のぬめりが若葉についているところです。「コラーゲンじゃないよ」。と近藤さんは笑う。
そのツルツルプリプリの食感からコラーゲンと思われがちですが、その正体はじゅんさいの表面にある産毛に絡み付いている水分ではないかと言われています。 「結局じゅんさいについては、誰もわからない。仮説だらけなんだよ」。と安藤さん。
これだけ歴史があり、多くの場所で親しまれてきたじゅんさいは未だに謎が多い神秘の食材なのです。
今日採れたてだというじゅんさいを、その場で試食させてもらいました。最も美味しい食べ方は、1分程度さっと茹で、じゅんさいの色が鮮やかな緑色に変わったら冷水で冷やし、ワサビ醤油やポン酢につけて食べるというもの。
秋田では昔から、「かやき」という汁物に入れて食べる方法も馴染みがあります。「小さい頃はイサジャカヤキさ入れてよく食べてた」。と懐かしそうに語る近藤さん。イサジャとは八郎潟でとれるアミを熟成させ魚醤にしたものです。イサジャとクジラ肉、じゅんさいを加えた汁ものを食べていたのだそう。 じゅんさいの本格的な収穫シーズンは、初夏から始まります。7/1はじゅんさいの日。6/31があればJUNEサイとできるが、6/31はないので7/1に決められたそうです。ぜひこの夏は秋田県三種町を訪れて、じゅんさい沼を見に行ってみてください。
安藤食品の若き2人と元気な取り子さんたち、そしてエメラルドに輝くじゅんさい沼を見ることができます。

生産量日本一を誇る秋田県のじゅんさい。
深さ80センチほどの沼に自生する水草の一種で、その若葉にはゼリー質の独特なぬめりがありぷりぷりとした食感が楽しめます。秋田の初夏の風物詩で、さっとゆでた後、冷たく冷やしつるりといただくのが最高の贅沢。お味噌汁など汁物にあわせてもぴったりです。

お知らせ

Found MUJI Marketにて今回ご紹介した「生じゅんさい」を7月に販売の予定です。

  • プロフィール 武田昌大
    新しいもの・面白いものが好きで大学卒業後、デジタルコンテンツクリエイティブ業界に携わる。25歳の頃からふるさとである秋田県北秋田市をベースに農業活性や古民家活性に取り組む。
    新しい田舎を作り世界にワクワクを発信していきます。

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