各国・各地で「北秋田 ─白き良き、秋田─」

金色の山で育む、旨味ぎっしり棚田米

2014年10月15日

「のんびり暮らせるし、野生のクマにも会えるよ」。棚田を見おろしながら北秋田の魅力について語るのは専業農家の3代目としてこの地で農業を営む鈴木豊さん。

北秋田空港から車で1時間ほど離れた山の奥深くに存在する100年続く伝統の棚田。今回は雪深いこの地で暮らし、米づくりをしている鈴木豊さんをご紹介します。

100年続く、知恵と技が織りなす絶景。

標高は東京タワーよりも高く、頂上に立つとその絶景に圧倒される阿仁の棚田。
その歴史は遡ること100年前に先代の農家たちが山を切り開いたことから始まります。

先代たちは森吉山と呼ばれる山からこの田へと雪解け水を流すため、8km手作業で掘り水路を作り上げました。その水路の傍らには山わさびが生えているほど、キレイな水が流れています。

八十八の手間隙をかけ、米は作られる。

1年の半分は雪に閉ざされる北秋田での米づくりは、3月下旬の除雪から始まります。まだ薄暗く霧がかった早朝5時、防寒具を着て機械に乗り込みます。
「朝早く起きねーと、はかいかねーもんな」。と豊さんは笑います。
"はかいかない"とはこの地域の言葉で"捗らない"という意味。
作業に余裕を持つために早起きは欠かせないのだそうです。

田んぼの耕起・代掻きを終えたらいよいよ育苗が始まります。
田植えに向けて1ヶ月前に種をまき、元気な苗を育てます。

田植えを終えると重要な仕事"水管理"が待ち構えています。
常に水で湿らせておくことが苗の分けつには欠かせないので、水が減ったら水路を開き必要な水を入れます。

水温や気温が低い棚田でうまく分けつさせるために水の深さを3cmにし、超浅水状態を保つのがポイントです。

「田んぼ196枚を毎日一枚いちまい見に行って水の調整するのは至難の業だ」。と語る豊さん。

田んぼによって水の減る量に違いがあり、田んぼの面積によっても入れる水量が違うので、水持ちが良い場所・悪い場所を見極めるには長年の経験がものを言います。
スゴく水持ちが悪い田んぼだと雨の日も行って水を入れなければならないらしく、「嘘だべ?」とまだまだ驚かされるそうです。

棚田には法面と呼ばれる傾斜部分があります。秋田でも30度近く暑くなる夏の、毎日のこの部分の草刈りが一番ハード。

「196枚も田んぼがあるから草刈り終えたと思っても、最初刈ったところはもうわっさり生えてて、毎日それの繰り返しだもんな」。という豊さんの表情からは、なんとも大変さが伝わってきます。

つくり手とたべ手が出会う米づくり

稲穂が黄金色に色づき、収穫の時期を迎えた10月。豊さんの棚田でも人を集めて稲刈り体験が行われました。

昔ながらの手作業で稲を刈り、刈った稲を藁で結び、稲架がけという手法で天日干しをしていきます。

羽釜を使い、刈り終えた田んぼの横で新米を炊き、参加者全員でお昼を食べました。
汗を流して稲を刈り、刈ったその場で新米を炊き、棚田の絶景を見ながら食べられるということで美味しさもひとしおでした。

「楽しかった。来年はもっと多くの人たちに参加してもらいたい」。と豊さんは笑顔で意気込んでいました。

もともとは農作業を受託する会社に勤めていた豊さんですが、お父さんからの誘いで家の農業を継ぐことを決意しました。

豊さんは、「いつも弱音をはかない親父が初めて弱音をはいてショックだった」。と当時について振り返ります。

農家の3代目として棚田を守り、お米を作り続けて10年の時が過ぎました。昨年初めて最初から最後まで自分の力だけで米づくりをやり、例年以上に質も量も良く出来たと成果が目に見えてきているようです。

「目指すは親父だな。自分が年取った時にどれだけ親父に近づけたかが勝負だな」。と少し悔しそうな表情の豊さんでしたが、その目はヤル気に満ちあふれていました。

トラクターに乗る男前農家集団、トラ男

秋田県は言わずと知れた米所です。しかし高齢化や少子化の影響で農業は深刻な状況が続いています。

「一般の流通にのせてしまうと他の沢山のお米と混ぜられてしまい自分たちの想いやお米の味を直接お客さんに届けることができない」。

そう考えた若手農家達が集い、トラクターに乗る男前たち、略して『トラ男』を結成しました。

インターネットを使って単一農家100%の純米をお客さんに届けようとtorao.jpというサイトを立ち上げたり、首都圏で毎月お米を食べるイベントを開催して直接お客さんと触れ合う場づくりをしています。

トラ男のメンバーとして活躍する豊さんはfacebookなどのSNSを活用し、お客さんとのコミュニケーションや自分たちの農業について情報を発信しています。
「まだまだ美味い米を追求していける。自分が作った米をもっと多くの人たちに食べてもらうためにも積極的に外に出て行きたいし、多くの人たちにこの北秋田にも来てもらって実際に棚田を見てもらいたい」と、これからについて熱く語る豊さんのつくる棚田の新米はふっくら旨味の詰まったお米です。ぜひお試しください。

お知らせ

Found MUJI Marketにて今回ご紹介した「棚田米」を11月7日から販売の予定です。

  • プロフィール 武田昌大
    新しいもの・面白いものが好きで大学卒業後、デジタルコンテンツクリエイティブ業界に携わる。25歳の頃からふるさとである秋田県北秋田市をベースに農業活性や古民家活性に取り組む。
    新しい田舎を作り世界にワクワクを発信していきます。

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