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手作りだからこそできる、ふわふわ、もちもち、きりたんぽ。

2014年12月10日

"きりたんぽ"、その可愛らしい響きを一度は耳にしたことがある方も多いはず。ちくわみたいなその形、実は秋田県産のお米"あきたこまち"で作られています。
そんなきりたんぽを作り続けて33年、昭和56年に山王食品を立ち上げた石井一男さんは社長でありながら現役できりたんぽを作り続ける職人でもあります。「いくつに見える? 来年で80歳になるんだよ」と語る石井さんの笑顔は、若さとやる気で満ち溢れています。今回はきりたんぽの伝統の味を守り、徹底的に手づくりにこだわっている山王食品のお話。

きりたんぽは家庭の味

きこりがご飯を枝に巻きつけ、囲炉裏で焼いて食べていたのが"たんぽ"の発祥と言われています。これを切って鍋に入れたことから、きりたんぽ鍋が生まれました。鍋に欠かせない比内地鶏で有名な秋田県大館市が本場とされ、世界最大の木造ドームである大館樹海ドームでは毎年きりたんぽ祭りが開かれ、たくさんの人で賑わいます。
「きりたんぽは昔からこの地域の年中行事で、新米が取れたら各々の家で手づくりして食べていたものだよ」と、石井さんは懐かしそうに語ってくれました。

秋田といえばきりたんぽと思われがちですが、実は家庭料理として今でも手づくりのきりたんぽを食べているのは秋田県の中でもごく少数の地域のみです。スーパーなどで販売されているきりたんぽの多くが機械生産・大量生産へと移り変わってきています。「食べれば違いが一目瞭然、本当に美味しいきりたんぽを届けたいんです」。と、石井さんは手作りへのこだわりを語ってくれました。

手作りだからできる味わい

お米で作られるきりたんぽ、驚きなのは最盛期だと1日で1トンのお米を使うということ。
機械生産であれば1日に20万本作ることも簡単ですが、手づくりでは多くても1日5000本作るのがやっとです。手づくりは時間がかかるため、忙しい時期は夜が明ける前から1人で作っているのだという石井さん、「全然早起きしたいわけじゃないんだよ。社員に1時2時に起きてこいなんて言えないから、社長の責任として早起きして作ってるんです」。と、優しい笑顔で語ります。

お米を炊いて、はんごろし(お米をすり潰したもの)にし、棒に巻きつけて焼くというのがきりたんぽが出来るまでの作業です。作業場の中は炊きたてのお米の香りでいっぱいです。炊きたて熱々のお米をすり潰し、1つ120g程度の団子状にしていきます。
そこから1つ1つ手作業で秋田杉の棒に巻きつけていきます。できたきりたんぽをさす板の穴の数は187個、5人の職人たちはさすがに慣れた手つきでどんどんきりたんぽを作りあげ、あっという間に穴を埋め尽くしていました。

きりたんぽつくりにおいて最も大切なのがこの棒に巻きつけ形を整えること。基準が決まっているため、長すぎても太すぎてもよくありません。「テクニックなんてないよ。慣れだね」という石井さんは、作業場にいっては若い職人さんたちの手つきをみて厳しく指導しています。
「良いきりたんぽができるかどうかは焼く前に見ればわかります。強く握りすぎるとお米がのり状になってしまって焼くと破裂してしまいます。だから力加減が大切なんです」。と、熟練の知恵と技について教えてくれました。

棒に刺したきりたんぽは冷蔵庫で1晩熟成させ温度を冷まします。そうすることで焼いた時に真っ黒に焦げてしまうのを防ぎます。コンベアで1列に並べられたきりたんぽたちはどこかひよこの行列のような可愛さがあります。ゆっくりと家の形のようなトンネルの中に入っていき焼かれ、一周してこんがりと綺麗な焼き目のついたきりたんぽたちはトンネルから出てきます。

焼きあがったら職人さんの手で1本1本袋詰めされます。袋詰めされたきりたんぽを横から覗いてみると、機械生産と手作りの違いが1目でわかります。
「職人によってやっぱり個性が出てしまうので穴の形も様々なんです。でも味があっていいでしょ?」。確かに1本1本の表情が違って面白いなと感じました。

冬の寒さにぴったりなあったかいきりたんぽ

話を聞いていると「まず食べてみれ」と、製造場の外へ連れ出されました。ついたのは、きりたんぽの製造場のすぐ横に併設された直売所。
中へ入ると出来たて熱々のきりたんぽ鍋がお椀に盛り付けられていました。箸できりたんぽを持ち上げてみて驚いたのが、その肉厚さ。「うちの手づくりのきりたんぽは何と言っても肉厚で煮くずれしないのが特徴なんです」。石井さんの言葉は確かで、しっかりもっちりしたきりたんぽの食感に味が染み込んでいて美味しかったです。

美味しいという僕の笑顔を見た石井さんは普段の笑顔の倍以上ににっこりと笑って、「そう言ってもらえるとこの上ない幸せなんだよ」。と、やりがいについて話してくれました。

きりたんぽ鍋の具材も秋田県内あちこちから山王食品へと届けられます。届いたセリや舞茸などはすべて袋から出され、再び人の手によって選別されます。
「本当にいいものだけを届けたいから徹底的にこだわっています。ただ手間暇がかかりすぎなんですけどね」。と笑う石井さんのこだわりは、職人ならではのものを感じました。

このこだわりの味を求めて、遠方からわざわざ来ているというお客さんにも出会いました。年に1回必ず訪れているそうで、購入したきりたんぽを片手に「また来年もよろしくね」。と笑顔で挨拶していました。根強いファンにも支えられ手作りを続ける石井さん、「お客さんの顔が見れて嬉しい。多くの人たちに気軽に味わってもらえるように頑張っていきたい」。そう、今後について語ってくれました。
これから寒い冬にぴったりな、あったかいきりたんぽ鍋をぜひお試しください。

お知らせ

Found MUJI Marketにて販売中です。

[Found MUJI Market]秋田県 きりたんぽセット(2人前)

  • プロフィール 武田昌大
    新しいもの・面白いものが好きで大学卒業後、デジタルコンテンツクリエイティブ業界に携わる。25歳の頃からふるさとである秋田県北秋田市をベースに農業活性や古民家活性に取り組む。
    新しい田舎を作り世界にワクワクを発信していきます。

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