時をこえ受け継がれる、木のぬくもりを感じる器
木を曲げる方法をみなさんご存知ですか?
しかも、機械を使うのではなく人間の手で曲げる方法です。
この技術は「曲げ」と呼ばれ、秋田県大館市では400年以上前から脈々と受け継がれています。全国12カ所で受け継がれている曲げ物の中で唯一、伝産品として認められている大館市の「曲げわっぱ」。今回はそんな曲げわっぱづくりにおいて最も重要な"曲げ"の工程を担う若き職人、大館工芸社の高清水勲さんにお話を聞きました。
「地元の産業を守りたい」、という高清水さんの熱い想いと木のぬくもりを感じる曲げわっぱの魅力についてご紹介します。
変わらない形と技術
曲げわっぱの原料となる木材は、日本三大美林としても有名な秋田杉です。
どれくらい美しいかというとあの豊臣秀吉が築城する際にわざわざ取り寄せたほどだそうです。特徴は年輪幅が細く、節のない美しい柾目と光沢で、弾力性もあり凄く軽いことから古くから人々は曲げ物を作ってきました。
大館市で発見された最古の曲げ物は、平安時代のものと見られ、1300年以上前から人々が曲げ物を作ってきた証とされています。その形は今のものとほとんど差がなく、技術も当時から確立されていたのだということに驚かされます。
昭和34年創業の大館工芸社は、25人の職人を束ね、日々曲げわっぱを作り続けています。驚くのはそこで働く職人たちの若さです。なんと、職人の4分の1は20代なのです。伝統産業といえば、高齢化なイメージがある中、大館工芸社の工房ではどこを見ても若い人の顔を見ることができます。
曲げわっぱ作りの行程は大きく分けると14に分業されており、その一つひとつが手作業で行われるため、工程ごとに部屋が分かれています。
各部屋には必ず若者がいて生き生きと働いている姿を見ることができるので、工房の中は常に活気に溢れています。「曲げわっぱ1つを作るのにどれくらい時間がかかると思いますか?」と、職人さんに質問された時、正直想像もつきませんでした。
正解はなんと3週間だそう。1本の太い木材から1つの器になるまで、全てに人の手がかかっているところを見るとその値段にも納得です。
木を曲げるということ
工房の部屋の中には1つだけ特別な場所があります。それは曲げわっぱ作りにおいて最も大切な場所、「曲げ」の工程の部屋です。部屋の隅には大きなかまどが備え付けられ、火を絶やさぬよう常に薪がくべられます。その赤々と燃える炎の上にはたっぷりのお湯に浸かる木々たち。まるで温泉に入っているかのように見えますが、その温度を聞いて驚きました。
「このお湯は80~100度あるんですよ」と、笑いながら語る高清水さんは慣れた手つきでそのお湯の中から素手で木材を取り出し始めました。試しに私もお湯に手を入れてみようと思いましたが手を近づけただけでもとても熱く、素人ではお湯から木材を取るだけで火傷してしまうなと感じました。
取り出された熱々の木材を丸い木の型にくくりつけ、手で素早く曲げていく高清水さん。
「まっすぐの板が、自分の手によって形が変わっていくのがやりがいなんです。将来は自分の作品を作ってみたい」と、熱い想いを語ってくれました。
12年間、曲げわっぱを作り続けたものだけが受けることができる"伝統工芸士"という資格を取得するため、高清水さんは日々技を極めています。
世代を超えて愛される理由
曲げわっぱがその魅力を100%発揮するのは、何と言っても中に食材が盛り付けられた時です。米どころ秋田に生まれた木の器ということもあり、ご飯との相性は抜群です。
秋田杉の心地いい香りと、お米から出る水分をほどよく吸収してくれるため、長時間持ち歩いて冷めてしまっても、美味しく食べることができます。
その美味しさだけでなく、その見栄えの良さからもお弁当箱としての利用にピッタリなのです。
「不思議なもので、世の中が不景気であればあるほど曲げわっぱが売れるそうです」と語る高清水さん。外食を控えて節約をしようと手作り弁当需要が増え、弁当箱に曲げわっぱを選ぶ若者が増えてきているそうです。
「bento」という言葉が海外でも当たり前のように使われるようになり、従来の伝統工芸品という枠を超え、世界的に幅広い世代の人々から曲げわっぱが注目されるようになっています。
お手入れが簡単という点も、若い人への広がりにつながっている理由の1つだそう。「昔は手入れが難しそうというイメージから曲げわっぱは嫌厭されがちでしたが、洗剤で普通に洗うことができたり、洗った後は乾拭きしてあげるだけなど実はお手入れが簡単なんです」と高清水さんは人気の理由について語ってくれました。
「でも実は、軽いし、落としても割れないし、お年寄りにピッタリなんですけどね」と最後に一言付け足して笑う高清水さん。
とは言うものの、巷で見かける曲げわっぱは高価でなかなか手が出せないという人も多いと思います。
そんな皆様に朗報です! 曲げわっぱを格安で手に入れることができる日があるという驚きの情報を教えていただきました。大館工芸社では1年に1度、毎年3月の第3日曜日に売り出しをするそうです。その日は曲げわっぱを買おうと工房の前に朝から長蛇の列になるそう。今年は3/15が販売会の日です。ぜひみなさま秋田に足を運んで購入してみてはいかがでしょうか。
大館工芸社ではメンテナンスも受けています。一度購入したら、孫の代まで末長く使うことができます。ぜひ時を超えて受け継がれる、木のぬくもりを感じる器"曲げわっぱ"で美味しいご飯をお召し上がり下さい。