各国・各地で「日南海岸 ─美しい神話の国から─」

日南市北郷町の「出汁まで味わいつくす原木椎茸」を求めて

2014年07月02日

標高300メートル。南国情緒溢れる日南海岸を通り、少し山あいに進むと見えてくるのが、日南市北郷町(きたごうちょう)。川のせせらぎ、鳥のさえずりがこだまする「癒しの森」と呼ばれる山々に囲まれた地域に、「原木椎茸に恋をした男」がいると聞き、お話を伺ってきました。

「こんなに美味しい椎茸の出汁文化がなくなったらいかんやろ!」。そう話すのは、日南市北郷町で原木椎茸の生産・販売を家族で手がける『原木しいたけ 茸蔵(たけぞう)』代表の黒木慎吾さん。かつて、関東方面で15年ほど八百屋に勤めてきたと言う慎吾さん。ある日、木の栄養分だけで育つ「原木椎茸」とおがくず等の人工培地で育つ「菌床椎茸」の食べ比べをする機会があり、原木椎茸が、味、風味、食感、すべてにおいて豊かだということに衝撃を受けました。
「その瞬間、椎茸に恋をしちゃったとよね」
慎吾さんは、からっとした笑顔で話してくれました。

東京の一流シェフも認める、茸蔵さんのこだわり椎茸

「国産の原木乾燥椎茸は、出汁のうまみが良く出るとよ!」原木椎茸を口にした時の衝撃と感動を原体験に、会社を辞めて宮崎にUターンし、椎茸農家に転身する事に決めた慎吾さん。日本の伝統的な出汁文化を守る事を使命に、椎茸栽培の指導員や東京の一流シェフ、そしてお客さんの声を取り入れつつ、椎茸を味わってくれるお客さんの笑顔を想像し日々、試行錯誤しながら商品開発に取り組んでいます。

茸蔵さんの椎茸が美味しいワケ

まず、慎吾さんは、たくさんある椎茸の菌種の中から、味、香りが際立ってよい菌種を選びました。この菌種は、木、栄養、水、そして木漏れ日の具合など、条件が整うと大きくて立派な椎茸が収穫出来るのだと言います。

原木栽培の椎茸は、樹齢18~20年程のコナラ・クヌギ等の木の栄養を受け大きく育っていきます。慎吾さんは自ら北郷の山に入り、特に椎茸の栄養であり主成分である糖質やセルロースが多く含まれる時期、10月の下旬から11月にかけて原木を伐採します。

椎茸の約90%は水分。だからこそ、慎吾さんは作業場を「ホダ場」と呼ばれる山あいに構え、夏には蛍が出るほど澄んだ山水を使い、余計な栄養剤や農薬を一切使わず愛情を込めて育てるのです。

収穫は12月ころ。原木椎茸に使用する「原木」の切り出し作業から、原木に椎茸の菌を打ち込む「菌打ち」作業、ほだ木への散水、そして収穫。椎茸栽培は、意外と重労働なのです。原木栽培は、最低でも椎茸が発生するまでに1年はかかり、自然の中で菌が熟成されます。これにより、食感・風味・栄養価がさらに増すと言います。

純日本産椎茸の「本物の味」を伝えたい

「国内の乾燥椎茸の需要は少し前の資料だと12000トンくらい。そのうち、国産の乾燥椎茸は4000トンくらいしかない。後はほぼ中国産や、菌床の椎茸やとよね」。生産者の高齢化や、震災による風評被害、椎茸農家の減少。頭を抱える事はたくさんあります。

だからこそ、宮崎が誇る「安心・安全」の原木椎茸の美味しさを幅広く知ってもらおうと、百貨店やスーパーにも積極的に出店するなど切磋琢磨の毎日です。

試食してくれるお客さんは、慎吾さんがつくる愛情たっぷりの椎茸を食べると、いくら椎茸が苦手な小さい子どもや壮年のご夫婦でも、口に入れた途端、「これは美味しい!」と口を揃えて言ってくれるそう。

「うちの原木椎茸は、出汁も良く出るし、なにより一番美味いよ!」。そう胸を張って話してくれた慎吾さん。「本物の」原木椎茸を、子どもたちにも食べて欲しい。慎吾さんはそう願います。

お知らせ

Found MUJI Marketにて今回ご紹介した「原木椎茸のセット」を7月に販売の予定です。

  • プロフィール 久志尚太郎
    音楽やアート、旅や食が好きです。
    高校時代のアメリカ留学を経て、20代前半に世界25カ国放浪。
    25歳から宮崎県串間市で人口1000人高齢化50%の村での田舎暮らしを経験し、現在は東京を拠点に都会と田舎、世界と日本を行ったり来たりしています。

最新の記事一覧