各国・各地で「日南海岸 ─美しい神話の国から─」

海と生きる ─地域の未来を担う28歳の『漁師』という新たな挑戦─

2014年09月17日

宮崎県の最南端に位置する串間市の都井(とい)地区には、都井岬という岬があります。そこには御崎馬(みさきうま)と呼ばれ愛される、特別天然記念物に指定された野生馬が生息しています。人口18000人で過疎化が叫ばれている串間市。御崎のふもとには「立宇津漁港(たちうずぎょこう)」という小さな漁港があります。地域活性化のために観光船の船長をしている傍ら、漁もしていると地域の未来を担う28歳、川崎弘貴さんに話を伺ってきました。

本気で挑む定置網漁

観光船をメインに活動していますが、過疎化の進む地域ということもあってなかなかお客さんが来ない。そこで、生活するお金を安定して稼ぐために定置網漁に出るという弘貴さん。漁に行って帰って、観光船の船長の仕事をして1日を終えます。

お父さんも伯父さんも昔から漁師だったこともあり、小さい頃から手伝っていた弘貴さんは「生まれてからこれまでずっと海の仕事ばっかりやな」と笑います。マギリ(カツオの引き縄漁)や、ジギング(疑似餌釣り)等の漁にも親しんでいたうえ、プライベートでも釣りに出かけていたというから筋金入りです。

現在行っている定置網漁は、弘貴さんも始めてまだ4ヶ月ほど。沖にしかけてある網を毎朝船で確認しに行き、設置した網を引っ張って魚をとるという手法です。昔はものすごく力が必要で大変な漁でしたが、最近は専用の機械なども導入して、そこまで力は要らなくなりました。パワーよりスタミナが必要な仕事だと言います。

大漁時には船の大きなタンクが3つも満杯になるという定置網漁船「海心(かいしん)」の乗組員は総勢5名。そのうち3人が親子で、1人が宮城から帰って来た方です。「僕にとっては家族のような存在ですね。飲み会もよくやりますよ!(笑)」日曜日は市場が休みということで漁も休業。土曜日の夜はお酒とともに盛り上がるのだそう。そんな明るいメンバーの集まる海心、今回は漁のお供をさせてくれると言うので、まだ夜も明けぬうちの支度からお邪魔しました。

午前3時半。周りが寝静まる中、ひっそりと漁の支度を行う海心のメンバー。5人のうち、最年少が弘貴さんです。作業は真剣勝負。2カ所に仕掛けた定置網を、じっくり3時間程かけてたぐりよせます。気を抜くと網がからまったり、魚を逃がしたりと大きなミスに繋がるのです。ベテラン揃いの海心のメンバーに、会話は必要ありません。各自が淡々と、自らの持ち場の作業をこなします。

訪ねた時期(9月)は全く穫れないと聞いていましたが、素人目には、上がる魚がなんとも豪華に写ります。これまでには、体長が2メートルを超えるサメがかかったこともあるのだとか。「今日は少ないですけど、大漁に魚が上がった時はワァーッとなります」。

大自然はやはり気まぐれで、魚の穫れる日と穫れない日があり、どちらかといえば穫れない日が多いと言います。漁師のあるべき姿を尋ねると、精神的にもそうやけど、負けない事ですね! と笑う弘貴さん。「それに負けずに続けて行けば、たまに良い日もあるんじゃないかな」。

筆舌に尽くし難い鮮魚の味

串間特有の魚料理といえば、トビウオ料理ははずせません。刺身やフライ、そして丸揚げ。弘貴さんのお父さんが経営している旅館「海洋荘」では、ブダイ等も並ぶそうで、特に鍋が絶品なのだとか。その日穫れた魚を使った「なんでんかんでん丼」も自慢の一品。その日によって穫れるものが変わってくるので、バリエーションもある上、常に新鮮なので自信を持っておすすめできるそうです。

他にも弘貴さんを伺ってみると、刺身にすればフグのように歯ごたえがある「ウスバハギ」。宮崎の人はそれを鍋に入れていて、鍋といえばハギ! さらに「マトウダイ」や「はがつお」も美味で、その刺身はカツオより美味しいというのです。さらに地域色が強いのが、サメのフカを食べるというもの。すこし癖があるもののタンパク質がおいしく、酢みそで食べたりするようです。弘貴さんはすこし苦手なようでしたが、「外食先で魚を食べるより、地穫れを頂くのが一番ですよ!」と地元の味に胸を張ります。

都井の魚のおいしさは、とにかく新鮮の一言につきます。その日穫れたものしか基本的に食べません。ブリのように1日置いた方が美味しい魚もいますが、新鮮なイカはコリコリして歯ごたえが最高。最近は水イカが入りだしたとのことで、さらに楽しみです。

みんなに見てほしい大好きな海

弘貴さんが観光船をはじめたきっかけは2つ。1つは、都井岬の観光業が一過性のものになっている現状で、観るだけの観光客が多い事を懸念していたこと。そしてもう1つは、お父さんのお店にもっと人が来てほしいという願いからでした。何かアトラクションがあれば、串間に来てくれるお客さんも増えるのではないか? という気持ちがあったと言います。

自分が住んでいる都井を盛り上げたいという気持ちが強い弘貴さん。串間だけでなく、宮崎県自体に県外からたくさんお客さんが来てくれれば、まずはそれで十分といいます。北から南まで繋がるのが一番良いとのことで、日南と串間が盛り上がってきているのをうけて「串間に遊びに行こうよ!といってもらえるくらいに頑張りたい」。と鼻息も荒い様子です。

都井の見所といえば、やはり海。都井岬沖には、九州最大規模のテーブルサンゴの群生地。沖に出れば都井岬の灯台が見えるのですが、そこがまた絶景です。「やっぱり、なにも用事が無くても海の様子を見に来てしまう自分がいますね(笑)」。海が日常そのものになっている弘貴さん。1日に1回は海を見ないと落ち着かなくて、なにかしら来てしまうとテレ笑い。生まれも育ちも、ずっと都井。弘貴さんの暮らしには、いつでも海が身近にありました。

助けてもらっているから、恩返しをしたい。

過疎化の進む地域の例に漏れず、都井の漁師たちも高齢化が進んでいて、後継者不足が問題になりつつあります。「若い人もいないからね。この都井地区で若い人というと、僕の乗っている海心(かいしん)のメンバーくらいですね」。今回ご紹介頂いた5人のメンバー。あとはおじいちゃんばっかりで、弘貴さんがこの地区では一番若い。ご年配の方は対立も多いと聞く弘貴さんは、若い漁師にぜひ来て欲しいと考えているそう。「若い漁師がいたら、まとまりが出てくると思います。同時に地域の盛り上げだったり、なにかイベントをやる時に一緒に盛り上がって、協力できる仲間が欲しいですね」。

これは難しいですが、と前置きした上で、それでも地域活性化をやり遂げたいと考える弘貴さん。今はみんなに助けられてばかりいるけど、さらにしっかりがんばりたいと話します。「仲間の手助けがあるから毎日頑張れている」と実感しているからこそ、新たな仲間も探しています。漁業だけでなく、地域活動が出来る仲間を探し、まずは自力での地域活性化を目指して。「串間市に貢献できれば、それでいいかなと思っています。それしか考えつかないですね」。

  • プロフィール 久志尚太郎
    音楽やアート、旅や食が好きです。
    高校時代のアメリカ留学を経て、20代前半に世界25カ国放浪。
    25歳から宮崎県串間市で人口1000人高齢化50%の村での田舎暮らしを経験し、現在は東京を拠点に都会と田舎、世界と日本を行ったり来たりしています。

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