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僕のライフスタイルそのものが商品

2014年12月17日

「職業:お父さん」の仕事の中には、日曜大工のほかにも様々なカテゴリーがあります。代名詞ともいえる「天然塩の製造」も、そんな中に入ってしまうのだと真顔で語るネジさん。「自給自足って言うカテゴリーかな。畑で野菜も作っています。さつまいもとかも穫れたけど、今だと米ですね。」

傍目にはビジネスとして成功している天然塩製造を、自給自足の一環と言い切るネジさん。企業につとめる多くの人は、売上やスキルが上がること、人から褒められたり、お客さんが喜ぶとかそういうのが色々あったりするものです。仕事によってモチベーションや大切にしていることが違うと思うのですが、「塩を作るライフスタイルそのものが商品で、暮らしをマネしてもらうよう発信することが仕事」。との思いを教えてくれました。

ネジさんが塩を作り始めたのは3年前。まず大前提として、お金を儲ける手段としてやっているわけではない、ということがあります。「結局、自分が必要な物なんだよ、塩って」。と本当に自給自足の一環ではじめて余った分を自分の大切な人に届けるという枠で販売。それで出来がいいものだから、塩職人じゃなかったけど注文が増えていった経緯があったのだと言います。

4年目を迎える今年、色々考え方も変わってきたと振り返るネジさん。塩を炊いているとき、待っていてくれる人の顔がいっぱい浮かんでくるようになったと照れ笑い。会ったことも無い人が、自分の塩じゃなきゃだめだと連絡をくれたり、「去年よりもすごくキラキラしていて美味しい」などというメッセージをもらうたび、「上手くなってんだな~」なんて思い、顔がほころんでしまうそうです。塩って生きるために必要なもので、そのなかでも自分のものを欲しがってくれる人がいる。だから品物が足りなくなると、「これじゃなきゃって言ってくれてる人を待たせるってのは、なんか死ねって言ってるようなもんだな、と思ってさ」。だからネジさんは、この支えてくれている仲間が欲しいと言ったときに、常に出せるくらいはやはり持っておくべきだなと、心境が変化してきたそうです。

安心感が、暮らしの財産へ。培ったスキルは、消えない貯金になる。

なんでも作ってなんでも直してしまうネジさん。なぜそんなことが出来るのかと尋ねると、「覚悟があるからだね」。と、ひとこと。これは、人ひとりの力でどこまでできるのか? ということへの挑戦なのだ、とニヤリ。挑戦のきっかけは、自分が生きるために必要な要素を、他者に頼りきっていたことに気づいたから。なんでも自分でやってみて理解するうち、人の苦労が分かることで、自分の安心感につながっていったのだとネジさんは言います。

「やってきたこと全部が、消えない貯金になるんです。永遠に残るスキルだと思います。その安心感は、この暮らしの財産ですよ」

まだまだ出来ないことがあるという前提でも、これからの人生で消えることのない、世界のどこでも使えるスキルを身につけたネジさん。やっていてよかったと思える1番のことは、「瞬間的に変わってしまう子どもの一喜一憂が見られることです。それは大きいですね」。と、さまざまな成果を体感する中で子煩悩な一面も。

何でも自分でやってみて、世界中で通用するスキルを持ち、子どもと過ごす時間も大切にしているネジさん。普段は「かっこつけずに、飾らずに、嘘をつかずに、そのまんま」でいられることを考えているそう。虚勢やプライド、色々なものを捨てて、世界のどこでも裸の自分で安心して暮らせる。この状況を作り出すのは、すごく特別なことだと思います。

ネジさんは「自分とちゃんとコミュニケーションがとれていれば、他者とのコミュニケーションも上手にいく。」と言っています。人はすぐ他人を批判したり比較したりしがちです。ときには普通や常識みたいなものを装ってみたりもします。「自分自身と向き合うことを怠っているから、自分に自信がない人が多い。だから、他人を見たときに受け入れられないんだろうなって思っているんです」。例えると、初めての料理を食べたときに、知らない味だから美味しくないで終わらせないこと。こういう味もあるんだな、また今度食べてもいいかな。と、フラットに受け止められるかどうか? 人の人生も、これが大切なのだとネジさんは教えてくれました。

昔の人が悟りを得たみたいに、もっと自分のレベルを精進して上げていくような話です。賢者になるというか、豊かな人生を目指していくと、精進し続けることが重要になってくると感じさせます。そこにテクニックやスキルは意味がなく、自分の内面とじっくり向き合わないといけません。ネジさんが話すのを聞いていて、そうなのだと感じてしまうのです。また、それをまったく違う角度から確立しているネジさんは、本当に素晴らしいなと思います。

楽しい暮らしを見せることで、真の豊かな暮らしを提案する。

身の回りのものは自分で作って、自給自足もして、私生活をつくって発信しているネジさん。まさにライフスタイルそのものが商品。「この生活を、一部でもマネしてもらえるように発信するのが仕事かな」。まるで発信すること以外は仕事でないかのような、本当にそう思っているような自然な口ぶりでした。
「僕のニックネームの『ネジ』って、なにかを繋ぐきっかけなんだと思います」。いつの間にか定着していた素敵なあだ名。お米を作るのが好きな人と工場を繋いだりとか、家族5人で年収100万以下でもハッピーライフって掲げたら、そこに目を向ける人はいっぱいいるだろうと目を輝かせます。「暮らしのカテゴリーがいっぱいあると知ってほしい。メディアじゃないけど、自分自身がそういうものでありたいですね」。

テレビやSNSの効果か、最近はどこに行っても声をかけられるようになったというネジさん。塩作ってる人でしょ? と好感触の傍ら、明らかな先入観で「あなたのこと嫌いですオーラ」を出す人に遭遇することも。「最近やっと、会った事もないのに僕の事が嫌いな人が出てきました」。困惑するような事態にも、そこにコミュニケーションが存在するならいいと、どっしり構えていました。

この暮らしの安心感は、結果としてついてきたものだとネジさんは繰り返しました。実践した時に感じた、これ以上の安心感は無いんだという感覚。反対や強制で何かを変えるのは不可能だと感じたとも言い、いま自分がそれに気づけているというのが、発信の後押しになっているのだそうです。
「こんなに楽しくてかっこいい暮らしがあるんだよ! って自分がやって、それを見た数人が面白そう、やべえじゃん! ってマネしてくれたらいい。これはその提案なんだよね」。この小さな反応を繰り返して、世の中は変わると断言するネジさん。
ネジさんの考えやライフスタイルは、万人に当てはまるものではありません。しかし、もう少し、「ネジさんのような暮らしもいいな」。そう感じる人たちの割合が増えてもいいんじゃないか? そう思わずにいられない、やばい魅力にすっかり魅せられてしまうのでした。

  • プロフィール 久志尚太郎
    音楽やアート、旅や食が好きです。
    高校時代のアメリカ留学を経て、20代前半に世界25カ国放浪。
    25歳から宮崎県串間市で人口1000人高齢化50%の村での田舎暮らしを経験し、現在は東京を拠点に都会と田舎、世界と日本を行ったり来たりしています。

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