各国・各地で「瀬戸内・小豆島 ─日本の中の、ラテン─」

瀬戸内の、クリエイティブキッチン

2014年09月03日

昔から交易の拠点として栄えた小豆島。瀬戸内海は古代から大陸文化が伝わるルートとして、近世には北前船が往来する航路としてとても重要な役割を果たして来ました。それが原因か否かは定かではありませんが、島生まれ島育ちで、新しきものを柔軟に取り入れてたくさんの実験を繰り返し豊かな食卓を築いて来たおばあちゃんたちによく出会います。今回は、小豆島と、すぐお隣豊島に住むクリエイティブで美しいおばあちゃんたちの、キッチンからのお話。

苦いはっさくを、おいしく食べやすく

「山菜だってキノコだって、高橋さんに料理してもらったものが格別なんです」と、近所で絶品佃煮をつくる『小豆島食品』の久留島さんが、山で採れたものをいつも高橋さんの元へ持って行くと言う。いつだって、おいしいものを作る人のリコメンドははずれないので、それはそれは格別なのでしょう。どうしても会いたくなってしまい、早速ご紹介して頂きました。

「あら、いらっしゃい」と迎えてくれたのは、若々しく上品な雰囲気を身にまとった高橋清子さん、なんと83歳。彼女のような方に出会うと、人は年齢を重ねるにつれ性格や生き方がより顔に現れてくるのだと、いつもまぶしく思います。毎年この時期に漬けると言うホームメイド紫蘇ジュースを頂きながらお話していると、「たいしたお話できませんよ」。うふふと上品に笑う高橋さんは、iPadをサクサク使いこなし、「ニューヨークの孫と、よくLINEをするんですよ」とさらりと言う。

「私は畑仕事がどうも苦手なようで、何をやってもうまく育てられなくて……。でも、庭にある1本のはっさくの木だけは、毎年よく実ってくれるんですよ」。毎年実るはっさくは、しかしそのまま食べるには少し苦く、同じくはっさくがたくさん実るご近所さんたちもいつも持て余していたのだと言います。なんとかおいしく食べられないかとご近所さんからも相談を受け、デザートを考案。はっさくの果実の部分を取り出し、重曹をふりかけ少し苦みを取る。毎年漬けている自家製の梅酒と、少量の砂糖を加えて半日置いておくのだそう。「ご近所さんにもお裾分けすると、みなさん気に入って下さってね、この食べ方が一番おいしいと言って下さるの」と嬉しそうに、ちょっぴり誇らしげに話してくれます。

実はお料理教室も主催しており、自身で撮った写真とタイプしたレシピを見せて頂く。またも、「たいしたこと無いんですけどね」と言いながら見せて頂いたたいしたことあるレシピには、定番和食から目新しい創作料理までが惜しみなく載っていました。「以前ハワイで食べた、『丸ごとトマトのサラダ』のドレッシングが初めて頂くお味で、とってもおいしかったの。だからなんとか色と味から考えて、トマトのおいしいこの時期に再現してメニューにしてみたのよ」。

自分が訪れた場所の良いものを取り入れて持ち帰り、土地のものと合わせてみる。「私がお野菜作ってないのを知っているから、近所の方々がいつもお裾分け下さるんです。食べきれないので、料理した一部をお返しするんですけどね」。先日もニューヨークの孫のもとへ1ヶ月半行ってきたという高橋さんのキッチンでは、今日も新たな刺激をもとに実験が行われていることでしょう。

懐かしくて、新しい味

小豆島と同じくオリーブを育て、どこを切り取っても絵になるお隣の島、豊島。1947年、賀川豊彦氏のお弟子さんである藤崎盛一氏が、日本を救うには農民を救わなければならないという信念のもと、民衆のための大学である「農民福音学校」を豊島に開校しました。

農薬が広く普及し身近になっていた当時でも自然農法で野菜を育て、田畑などの平面だけでは無く、山地で樹木や家畜を育てたりと豊かな土地利用を提案する「農業の立体化」を普及しました。同時に、農業を通じて生活を豊かに楽しもうと、「生活の立体化」を目指していたのだそう。

循環型社会というような概念が無かった頃に、いち早くそれに取り組み豊かな食卓を作り上げていたと言う様子を、一部垣間見させて頂く。ジブリ映画に出てきそうな、光がきらきらと差し込むキッチンには、ベーコンなどを加工する箪笥のような薫製機とパンを焼く大きな窯。「今日はスコッチエッグと、焼きたてのパンとピザね」。藤崎氏のご息女たちが、てきぱき、きゃっきゃと準備中。

パンには米粉が使われていたり、柑橘類でつくるマーマレードや、とり肉と味噌やみりんを入れた「肉味噌バター」などのスプレッドだって、なんだか懐かしくて新しい。ここでも柔軟にカルチャーを取り入れた、このクリエイティブキッチンには、"AUSSIE"のエプロンがよく似合う。

今日は何を作ろうか。よりも、この素材をどう食べようか。瀬戸内のキッチンでは、そこにある素材をいかに料理していくか、おいしく食べるかと考え実験が繰り返されている。変わらぬものと変わり続けるものが同居したクリエイティブキッチンに魅了され、今日も生活を豊かにするヒントを頂くのです。

  • プロフィール 中村優
    台所研究家。料理は国籍や年齢を超えて人を笑顔にするとの信念のもと、家庭料理を学びながら世界を放浪旅した後、料理・編集の素敵な師匠たちに弟子入り。最近は、ロックなおばあちゃんたちのクリエイティブレシピを世界中で集めている。

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