とびきりを、惜しみなく
「白いご飯を持って来てくださいね」。電話口から聞こえて来たのは、ゆったりとした心地よいテンポの話しぶり。この声を聞くといつも、「また、島に来たんだな」って、なんだかほっとするのです。電話で確認を取り、10時半頃に作業場を訪れると、佃煮がちょうど煮上がるところに立ち会うことができます。そして、できたてほやほやの佃煮を、持参した白ご飯とともに食べさせてくれる贅沢な場所が、小豆島にありました。今回は、癒しオーラ満点の久留島さんに会いに、そしてできたての佃煮を味わいに、何度も通いたくなるこだわりの佃煮屋さん『小豆島食品』のお話。
小豆島と佃煮
調味料の宝庫である小豆島。塩がよく作られたために醤油作りが発展し、以前ご紹介したヤマロクさんをはじめ、今でも木桶で醤油を造る蔵がいくつも残っています。昭和20年ころの食料難の時代、その醤油をたっぷり使い芋の蔓を煮込んで食べたのが佃煮の始まりなのだとか。小豆島の質のいい佃煮は全国で評判となり、今でも「醤の郷」と呼ばれるあたりにはたくさんの佃煮屋さんが並んでいます。
「うちはちょっと特殊でしてね、佃煮屋が家業だったわけでは無いんですよ」と優しい口調で話し始めたのは、『小豆島食品』の久留島さん。「実は、母方の祖父がこの小豆島食品という佃煮屋さんの社長だったのですが、工場長をやっていた弟が亡くなったこともあり廃業の話が出ていたんです。当時私は大阪の大学で勉強していましたが、やっぱり島に戻って仕事がしたいなと思うようになって 。『廃業するならば自分が引き継ごう』と決心したんです」。
工場を引き継ぎ、以前のレシピをもとに自ら味を調整していく作業を何ヶ月も続けました。そして、時代はバブル景気に突入。大きな窯を新調し大量に作り、佃煮は作れば作っただけ飛ぶように売れました。「佃煮はたくさん売れたのですが、何か心に引っかかるものがあって 」。バブルが弾けたのを機に、「やはり量産するのではなく、素材の味を大切にした無添加の佃煮を、一つひとつ丁寧に作ろう」。そう決心したと言います。
ここでしか味わえない、贅沢な朝食
現在久留島さんが作る佃煮は、常時30種類。無くなりそうになったら、必要な分だけ小さな釜でぐつぐつ。素材は天然・国産にこだわり、日本全国から美味しいと言われる素材を探し、自分で食してみて決めます。味付けはダシと醤油と砂糖のみ。ダシは利尻昆布と九州枕崎産の鰹節、そして醤油は小豆島のなかでもこだわりと歴史を持つヤマロク醤油の鶴醤を贅沢に使用しています。
「小さい窯で、足りなくなった分だけつくる。混ぜる回数やスピード、時間によって味が変わってくるのです」。その日の天候や湿気にも左右されるため、味や煮込み時間の絶妙な調整は久留島さんにしか出来ない職人技。そうして生まれた佃煮は、しょっぱすぎず甘すぎず、キラキラほくほくと輝いて見えます。
「白いご飯、持ってきましたか?」久留島さんが言い、できたての佃煮が並ぶ。「真空パックにする時には、もう少し柔らかくなっているんですがね」。できたてほやほやの佃煮は、あったかくてほんのちょっぴり歯ごたえもあって、これまた絶品。前もって電話で確認し、タイミングが合えば味わうことの出来るそれは、最高に贅沢な朝食です。
自分だけの、カスタマイズ佃煮
小さい窯だからこそ出来ることも、たくさんありました。「いつも大口で注文して下さるお客さまには、もう少し甘めとかしょっぱめとか、好みに合わせて味を少し調整することも、小さい窯だからできることですね」。他にも 、と久留島さんは続けます。「お歳暮の時期にいつも大量に注文して下さる方がいるんですが、あるとき、牛タンが送られて来て、『これで佃煮が作れないか』と相談されました。素材に合わせて調味料を調整し、そのお客さんだけのオリジナル佃煮を作りました」。小回りのきく小さい窯で、なるべくお客さんに合わせた佃煮づくりもしたいという、久留島さんの思いが詰まったカスタマイズ。
「小豆島は環境がいいからね。海の幸も山の幸もある。山へ歩きに行ったり、海に泳ぎにいったり。そんな生活が、やっぱりいいんですよね」。佃煮を味わいながら、島の豊かな暮らしに思いを馳せる。春の山菜の時期には山菜を採りに行って、ご近所の高橋さんにお裾分け。実は、高橋さんのカメラの先生やパソコンの先生も久留島さんだったのです。それぞれの得意が有機的に繋がり合い、暮らしがさらに豊かに彩られる。久留島さんを見ていると、自分の得意なことや100%納得できるプロダクトを惜しみなく届けていけることの素晴らしさを改めて感じるのです。
瀬戸内のとびきりが詰まった久留島さんの佃煮、ぜひ一度ご賞味ください。
お知らせ
Found MUJI Marketにて今回ご紹介した「佃煮」3種類を10月10日に販売の予定です。