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現代に息づく「喜之助」スピリット

2014年11月05日

室内での作業が多いはずのそうめん屋さんから出て来たのは、こんがりと日焼けをした、アスリートのような爽やかな男性。およそ100年続くそうめん屋4代目の真砂淳さんは、朝4時から始まる仕込みにも関わらず、今日は少年野球の監督明日はお祭りの準備と、地域の活動にも大忙し。今回は、先代・喜之助の味とスピリットを受け継ぎ現代に届け続ける『真砂喜之助製麺所』のお話。

カラッと晴れた冬の風物詩

夏に食べることが多く、「夏の風物詩」なイメージが強いおそうめんですが、実は生産するのはほとんど冬。カラッとした空気の中で、太陽をたっぷり浴びてできる小豆島の手延べそうめんは、小豆島の「冬の風物詩」です。レトロでかわいらしい建物に入ると、ふわっと香るごま油の香り。ごま油の産地としても有名な小豆島だからこそ、そうめんを伸ばす際に贅沢にもごま油を使用します。今回お邪魔したのは、そうめんの生産地である小豆島のなかでも、約100年と長い歴史を持つ『真砂喜之助製麺所』。

真砂家に代々伝わるそうめんづくりに現在携わるのは、3代目博明さんと4代目淳さん、そしてそれぞれの奥さんの4名。家族みんなでそうめんづくりに携わる姿は、どうやら今も昔も変わらぬよう。そうめんを干している最中にみんなで食べるお昼ご飯は、必ずそうめん。「色んな食べ方があるようですけど、私たちはやっぱりそのままおつゆで頂くのが一番ね」と、お母さんがにっこり。

「親から継げとは言われんかったな」。そう話す淳さんは、スポーツ万能だったこともあり、一度スポーツトレーナーを目指し大阪の学校へ行きました。「島を離れてみると、家族のありがたみや島の魅力がわかるんよね」。そうして、いつの間にか心の底には島に戻って家業を継ぐという選択肢が生まれていたのだと言います。

4代目の革新

淳さんが奥さんと一緒に島に戻り、そうめんづくりに携わるようになって15年。それでも、未だにお父さんにしか分からない塩の配合があるのだそう。「基本の配合はあるんやけど、塩の量は気温や湿度に合わせて毎日変わる。今まではすべて勘で伝承していたのを、最近は少しずつ書き記して行くようにしています」。冬の寒い時期には麺が伸びやすいから塩は少なめ。暖かい時期には伸びにくいので塩を多めに含ませるのです。

長い歴史を持ち、昔からのファンも多い真砂さんのそうめん。「パッケージがとてもスタイリッシュでおしゃれですね」と言うと、どうやら3年前にリニューアルしたよう。淳さんは、「親父は、『おいしいものを作っていたらお客さんは買ってくれる』と言っていたけれど、やっぱりこのご時世それだけじゃだめですよね」。また、当時流行り始めたSNSを使ってそうめんを干しているところをアップしたところ、とても反響があったのを受け、「そうか、僕らにとっての日常は普通の人にとっては非日常なのか」と、そこで気づいたのだと続けます。中身は昔と変わらぬスペシャルなもの、でももっと若い人にも手に取ってもらいたいとの思いで一新されたパッケージ。素敵だからと手に取って実際に食べてみると、驚きのコシの強さと絶妙な塩加減が癖になります。

2代目喜之助伝説

ところで、店名の「喜之助」は2代目の真砂喜之助さんの名からきているのですが、この喜之助レジェンドがまたいい。現在の味も、喜之助さんが島中を歩いておいしい小麦を探し、研究を重ねて確立したもの。トレードマークの帽子をかぶり、そうめんを小脇に抱えて出かける姿は近所でも有名だったとか。喜之助さんが島内を巡る最中に家々の門戸をくぐっては杯を酌み交し、そうめんをふるまい、その味も格別だったことから島中の評判となったと言います。「中山という地区がここからちょっと離れた場所にあるんやけど、そこの農家さんから『お前のじいちゃんはこの辺りにもたくさん足を運んでくれたから良く知っているよ』。と言われたときには、さすがに驚いたけどな」。と淳さんは嬉しそうに話します。

「こよりっていうのがあってね」。そう言いながら、淳さんは伸ばす前の行程のそうめんを持って来てくれました。それをねじって油で揚げ、お好みで砂糖をふって頂くというスナックができあがり。サクッとした外側に内側はもちっ。パンともまた違う食感で、おそうめんに含まれた塩味がなんとも言えずおいしい。「これは、塩分が少ない寒い時期、12月~2月がベストやね」と笑顔で話す淳さん。

保存も出来なければ買うことだってもちろんできない、プレシャスなスナックを、タイミングよく見学にきたお客さんや島の仲間たちとのご飯会のときに楽しそうに振る舞う。朝が早いため、普通はなかなか地元の人たちとお酒の場をともにしたりすることが難しいそうめん屋さん。しかし淳さんは、野球の監督にお祭り、そして同じように熱い思いを持って活躍する島の生産者たちと顔を合わせては島の未来について話して……、大忙し。島内外の人たちと丁寧に関係を築いている姿、一番おいしいものを食べて欲しい、喜んで欲しいと爽やかに語る笑顔からは、これが現代に受け継いでいる「喜之助スピリット」なのだと、なんだか感慨深く思うのです。

お知らせ

Found MUJI Marketにて今回ご紹介した「手延べそうめん」を11月7日から販売の予定です。

  • プロフィール 中村優
    台所研究家。料理は国籍や年齢を超えて人を笑顔にするとの信念のもと、家庭料理を学びながら世界を放浪旅した後、料理・編集の素敵な師匠たちに弟子入り。最近は、ロックなおばあちゃんたちのクリエイティブレシピを世界中で集めている。

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