連載ブログ 音をたずねて

レイとアロハはハワイアンの民族衣装

2011年08月24日

六本木でお会いした時アンクル・ジョージ氏は鳥の羽で作られた帽子飾りをしていた。打ち合わせの合間に拝見するとフェザントのブレストフェザーのような羽がびっしり編み込まれたものだった。
今回ハワイでお会いしたときもピーコックの帽子飾りをしておられた。アンクル・ジョージ氏はいつも花や鳥の羽で作ったレイを首から提げたり、帽子に付けたりしている。フラを踊るものは必ず何らかのレイを身に付けていると後から聞いた。ジョージ・ナオペ氏はマスター・クムフラ(フラの指導者の頂点)である。高貴なレイ・フル(鳥の羽で出来たレイ)を身につけている意味がやっとわかった。レコーディングの合間に鳥の羽のレイの事をアンクル・ジョージ氏にうかがったら、なんとキャッチアンド・リリース。鳥を捕まえても殺しはしない。鳥が困らない程度の羽を採りまた逃がすとおっしゃっていた。


ハワイアン・ハニークリッパー(ミツスイ)

アンクル・ジョージ氏が付けていたフェザントのブレストフェザーはカンムリウズラ(英名カリフォルニア・クエイル)キジ科の鳥の羽であった。クジャクはインド・クジャク、共に外来種の鳥でハワイ名は付いていない比較的新しい外来のようである。ハワイは主な大陸から4000~6000キロメートルも離れた島群なので古くから独自の生態系が営まれ、現在37種類の固有種が生息している。その代表であるハワイアン・ハニークリッパー(ミツスイ)はこの200年の間に三分の一に減り絶滅の危機に瀕しているらしい。自然と共生を大切にしたハワイ文化がいかに変化したかがわかるような気がした。そんなお話しの端々から自然を敬い共生してきたハワイ文化、人と人の関係を大切にしてきたハワイ文化が伝わってくる。アンクル・ジョージ氏はアロハの心の中身は「愛」だとなんどもおっしゃっていた。自然を理解したらフラはうまくなるともおっしゃっていた。

正装の意味

「最近の若い者はハワイアンを演奏するということをなんと考えているのか。我々の頃はアロハにレイそして腰に飾りを付けて演奏したものだ。」レコーディング初日の朝のことアンクル・ジョージ氏の雷が落ちた。

アンクル・ジョージは人前に出るとき、いつもレイやアロハを身に着ている。それどころかベストドレッサー賞がとれるほどおしゃれである。彼の自宅でうち合わせの時T・シャツを着ておられたことがあったので不思議に感じたら、なんとメリー・モナークの今年の真新しいT・シャツであった。私たちを迎えるためと自宅ということもあってわざわざT・シャツを着てくださったようだった。アンクル・ジョージ氏が怒った日はちょうどジャケット用の写真撮影の日でもあった。ところが皆、普段着のT・シャツやポロシャツにジーン姿で演奏を始めた。今回のレコーディングはアメリカ人によるパパ(半分)・ハオレ(白人)音楽ではなく、オリ、カヒコに始まる、ネイティブ・ハワイアンの収録である。


レコーディング風景

アンクル・ジョージの考えるハワイの生活は歴史と伝統を継承しながら発展しなければならず、またアイデンティティ継承が民族にとって重要な役割と考えている。民族主義や懐古主義が良いわけではない。スコットランドでミュージシャンが常にキルトをまとっているわけでもなく、セビリアの女性がいつもフリルのついたスカートをはいているわけでもないが今回はその必要があった。彼らはさっそく皆自宅に帰り正装をして集まってくれた。

(フライの雑誌拙著より一部転載)


いかがだろう。前の写真のイバラニさんとベンさんである。

ネイティブ・ハワイアンが着るアロハとレイはとても素敵である。ポリネシア系の顔立ちがそうさせるのかきわめてよく似合う。レコーディングの当日敬意をはらって私もアロハを着たがなんと似合わないことか。アンクル・ジョージ氏は褒めてくださったが自分でよくわかる。レイもそうである。アロハとレイはハワイアンでなければ似合わないと私は思う。
生まれてまだ半世紀しかたっていないアロハだが作られるべきして作られた民族衣装的なものになっている。ハワイアン以外が身につけたときハワイアンではないことを証明するかのようである。外人が着た和服のようなものかと一人で納得した。この二人の写真はアロハとムウムウどちらもハワイでは正式な席にも着ていける。レコーディング時の写真と上記の写真を見比べていただきたい。同じ人とは思えないくらいの印象です

音楽を収録しながら、料理や住居、気候、自然を見て歩いていると、様々な土地の文化の多様性に驚くばかりである。それぞれに接することがとても楽しい。形が異なっても生活がある。自然界の種の多様性が叫ばれているが人間社会にこそ、文化の多様性を認めあうことが必要なのではないだろうか。伝統、歴史というと古くさい邪魔者のように思われるが、それぞれのアイデンティティを認めないことの方がよほど古くさい話のように私は思う。

  • プロフィール くらしの良品研究所所員
    Y.Iさん

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