連載ブログ 音をたずねて

ケルト渦巻き文様の門扉

2011年11月02日

ウイックロー国立公園の中には多くの遺跡が点在しています。我々が泊まったホテルは、6世紀頃建てられた初期のキリスト教修道院聖ケヴィン教会やラウンドタワーの遺跡の隣にありました。ケルト文化は紀元前1500年頃(青銅器時代後期)に誕生し紀元前400年頃(鉄器時代初期)にはウクライナ、ポーランドの一部からほぼヨーロッパ全域に広がった古代文化です。すぐれた文様や音楽、神話を残しギリシャ、ローマと共にヨーロッパ全体に大きな影響を与えました。独特な文様や音楽、神話などの豊かな文化は映画や音楽、ゲームなど広い分野で使われ、静かなブームを作っています。皆さんも映画タイタニックやエンヤなどでおなじみのケルト音楽やキングアーサー伝説などで目にされたことがあると思います。アイルランドやイギリス西部のコーンウオール、ウエールズ、スコットランド、フランスのブルターニュなどは今でもケルト文化が色濃く残る地域として有名です。なぜ、太古の文化、ケルト文化が今世界中で興味を持たれるのか。新しい価値観に向かって模索する現代、ケルト的なものに魅力を感じるのはなぜでしょう。今回の旅は音の制作ともう一つ、そのヒントを見つけられればと思っています。

高さ33mのランドタワーと呼ばれる石造りの棟

聖ケヴィン教会

グレンダーロッホは学問の場だった

入り口を入ると石造りの修道院跡が見えます。大きな塔と屋根まで石で作られた小屋、そして壁しか残っていない大きな建物と沢山の墓標。今のグレンダーロッホです。
グレンダーロッホは7世紀から12世紀に栄えた初期キリスト教の聖者ケビンによって修道院として建てられました。ヨーロッパ混乱のこの時期にアイルランドだけは平和が続きました。宗教や文芸に対して高い能力を持つケルト人達は修道院を中心に何世紀にもわたって創造的な活動をしました。ケルト人の文化であるラ・ティーヌ様式はさらに発展し、ケルズの書やアーダの聖餐杯、タラのブローチなどケルト文化の秀作を数多く生みだしたのもこの時期です。またケルト人聖職者達はキリスト教やケルトの文化に対しても多くの研究を行い素晴らしい成果を書き残しました。この活動は国外においても行われ、アイルランドは「聖者と学者の島」と呼ばれ多くの聖職者を集める聖地になりました。

ケルティック・クロス

アイルランドのキリスト教は西暦431年キリスト教の布教に来た聖パトリックによって広まりました。聖パトリックはケルトの信仰や民族性を尊重し、それらを排除するのではなく融合させる形で布教をしました。7世紀頃に生まれたとされるケルト独特の十字架は、キリスト教のシンボルであるラテン十字と太陽のシンボルである円を組み合わせたケルティック・クロス(ハイ・クロス)と呼ばれる石造りで非常に背が高いクロスです。信仰の融合によって生まれたケルト文化の象徴として今でも親しまれています。このケルトの文化は日本の神仏混淆とも似ており、また輪廻転生の思想を持つことも似ています。

宿り木を探して

実は今回、無印良品有楽町のアトリエでクリスマス時期の催事を担当することになりました。私の子供の頃はクリスマスとは父親がプレゼントをくれる日程度の認識しかありませんでした。大人になるにしたがってクリスマスはプレゼントや食事をする日になってその意味も考える事はありませんでした。たぶん、友人や家族に感謝の気持ちを伝える口実なのだと自分では思っていました。

野生の柊のベリー。まだ真っ赤にはなっていない

クリスマスを調べてみると、ヨーロッパの冬至の祭が形を変えたものだとわかりました。寒く暗いヨーロッパの冬。冬至から昼が長くなり、待ち焦がれた光の世界が始まる。家族や友人が集まり、モミの木にプレゼントを置き、皆で持ちよった食べ物を分け合う。お互いの健康とまもなく来る光の季節の豊穣を祈って過ごす。これが冬至の祭であり、プレゼントはお互いに対しての感謝であることを読んだ時、とても感動し、また納得しました。

神様の涙と呼ばれる花

3月11日の大災害によって多くの方々がお亡くなりになりました。原発の事故では家に帰れない方々が数多くいらっしゃいます。その中ですべき催事はなにか、一様のクリスマスではないように思いました。そんな事を考えていましたら、またケルトが頭に浮かんできました。ケルトの冬にベリーのなる木は豊穣の証。赤い柊の実と同様に白い宿り木の実も同じように扱う考え方は、形や色ではなく途切れなく続く自然再生、循環への願い、厳しい環境においての継続への願い。そう気がついた時、アイルランドの文化をもっと知りたくなってここに再び来ました。そのような考えをスタッフに話し、全員でベリー探しが始まりました。

一位の赤い実

周辺の森

深い森の中を2時間近く探し回わりましたが宿り木だけは見つかりませんでした。落葉樹が葉を落とせば見つけやすいのかも知れませんが、6人で懸命に探しましたが一つも見つけることはできませんでした。もっとも妖精が現れるという宿り木がそんなに沢山あるはずもないのですが。その日はレコーディングの準備があるのでダブリンに戻らなければならない。残念ですが、まだ日にちもあるので他の場所を探すことにして、車に戻り一路ダブリンを目指すことになりました。昨晩は暗くてなにも見えませんでしたが、グレンダーロッホには海沿いに来たようです。今日はウイックロー山麓を抜けてヒースの原野を通って帰る事になりました。次回のブログはエメラルドの島と言われるアイルランドの自然をご紹介したいと思います。

  • プロフィール くらしの良品研究所所員
    Y.Iさん

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