連載ブログ 音をたずねて

チェスキー・クルムロフ

2012年03月14日

プラハから直線で140kmほど南に下りオーストリアとドイツの国境近くに南ボヘミヤの街チェスキー・クルムロフはあります。1992年にユネスコの世界文化遺産に登録され世界でもっとも美しい街として知られています。

市街地を見下ろす崖の上に建つクロムロフ城(外観)

紀元前四千年頃と思われる石器や紀元前1500年頃の土器が城の中庭から発掘されるなど、古くから人が住むのに適した場所だったようです。街を見下ろす高台にはクロムロフ城が建っています。

クロムロフ城中庭

チェコ建築様式のブログのところでロココ様式を代表する城として紹介しましたが、初めは1250年頃にゴシック様式の城として建築されたようです。その後1600年頃、当時の主によって、中庭にバロック様式の劇場が建てられました。そして1700年代中頃、内外装がロココ様式に改造され現在に至っています。様々な変遷を経て、その都度改修された城はこの地の長い歴史の変遷をそのまま物語っています。

川に囲まれた小さな街

ヴァルタヴァ川に囲まれる街の中心部

この街でとても印象的なのは街の中心部を取り巻くように蛇行しているヴァルタヴァ川の形状です。川に取り巻かれた市街地はまるでテニスラケットのような形をしています。周囲から4つの橋が架かる市街地はそのまま自然の要塞のようでした。

中世の景観をそのまま残す街

狭い道が走り迷路のような市街地

バロックやロココ様式が並ぶ街

手工芸や貿易の文化の街として栄えたチェスキー・クルムロフですが、第二次世界大戦後のドイツ系住民の追放と"共産主義時代の歴史的建造物は封建時代の遺構"との価値の否定は、チェスキー・クルムロフの街に荒廃を招きました。

力強い復興

ボヘミアンガラスのアート・ギャラリー

辛い歴史を持つチェスキー・クルムロフもビロード革命以降の意識変化と世界遺産指定によって、観光の町として蘇り、徐々に活気を取り戻しているようです。もともと手工芸品生産が盛んであった土地らしく、優れた作品の並ぶ素敵なギャラリーが数多く軒を連ねていました。

かわいらしい工芸品の店

川辺のベンチも意匠が凝らされている

チェスキー・クルムロフを歩いていて、観光客とイタリア料理を出すレストランの数の多さには驚ろきました。イタリアンやピザの看板が随所に見られ、郷土料理のレストランが影を潜めていました。チェコボヘミアに来てイタリアンでもないと思いましたが、同行してくれたイジーさんの子供達はどうやらイタリアンが食べたい様子でしたので昼食はイタリアンにしてみました。

なぜかカプレーゼ

プラハでは郷土料理ばかり食べていました。特に安くて美味しい仔牛のカツレツとポテトの取り合わせが気に入って、なんども食べていたせいかも知れませんが、出てきたチェコ・カプレーゼが盛りつけは大胆ですがとても本格的で驚いてしまいました。モッツァレラ・チーズが美味しく、たぶん水牛のチーズを使っていたと思います。こだわりを持たない意欲的な姿勢がこの街の観光を発展させているのだと思いました。

城の城壁に咲いていたスミレ

紀元前から人の住む場所として続きながら時代のうねりと共に荒廃し、そして再び活気を取り戻し始めているチェスキー・クルムロフの街。歴史を受け入れ、また新しい歴史を作り始めるこの街はチェコそのものではないかと思いました。プラハの春やビロード革命を成し遂げたチェコの人々の不屈の精神と行動力がこの街を生き返らせたようにも思えました。
子供達と一緒に賑わう街を巡り歩き、城壁に咲いた小さなスミレを見た時、突然バロック音楽が聞こえたような錯覚を覚えました。音楽は土地の風景かも知れないと思える気持ちの良い午後でした。

  • プロフィール くらしの良品研究所所員
    Y.Iさん

スライドショー

最新の記事一覧