連載ブログ 音をたずねて

初めてのバルセロナ

2012年08月22日

目的地セビリアへの直行便が無いため、通過都市としてバルセロナに立ち寄りました。スタッフも皆初めてのスペインでしたので、いつもの時差調整とスペインの現地調査をかねて2日間バルセロナに滞在することにしました。

バルセロナの街並み

バルセロナはスペイン北東部に位置する人口160万人の大都市です。首都マドリッドに次ぐスペイン第二の都市、街の中は活気に溢れていました。フランスの国境まで100km、海を越えて800kmでローマ、フランスパリからも同じような距離にある地中海に面した海辺の都市です。我々が訪れた9月はまだ夏の終わりで、陽差しが強く太陽の国スペインに来たという印象を強く受けました。このバルセロナはカタルーニャ地方に属しています。カタルーニャ地方はスペイン最大の工業地帯でもあり、また観光を含め豊かな経済力を誇っています。

観光客で賑わう街区

今回の音楽収録もバカンス時期を外したスケジュールを組んだのですが、街の中には観光客と思われる人々で溢れていました。19世紀後半カタルーニャ地方の都として発展していたバルセロナでカタルーニャ語のラナシェンサ(ルネッサンス)と呼ばれる文化運動が起こりました。この文芸復興運動はカタルーニャの知識人が中心となって、当時ヨーロッパ諸国で流行していたアールヌーヴォと連動し、カタルーニャ語でモデルニスモ(アールヌーヴォ)と呼ばれるカタルーニャ独特の芸術・文化運動に発展していきました。そのようなことからバルセロナはモデルニスモ期に活躍したガウディを初めとする多くの建築家の建築作品や14才からバルセロナに移り住んだピカソの美術館、シュルレアリスムの巨匠ダリの美術館など多くの芸術作品を有する文化の街とも言えます。

ガウディの建築作品カサ・パトリョ前の風景

皆さんご存じのアントニオ・ガウディの他にもモデルニスモ運動を代表する建築家として、ドメニク・イ・モンタネル、プッチ・イ・カダファルク、ガウディの片腕として活躍したジョゼップ・マリア・ジュジョールなどがいます。その斬新でモダンな作風は今でもバルセロナの魅力になっています。今回は1日半という時間の関係からガウディの建築作品を見学することにしました。

カサ・パトリョの外壁デザイン

ガウディの文化遺産 カサ・パトリョ

ガウディはバルセロナ市内に10の建築作品を残しています。そのガウディの建築の中でユネスコの世界遺産に登録された作品はバルセロナ市内にグエル公園、グエル邸、カサ・ミラ、カサ・ヴィセンス、サグラダ・ファミリア、カサ・パトリョと6つあります。 我々は、初めにアシャンブラ区グラシア通りにあるカサ・パトリョを訪れました。この建築は1877年に建設された既存の建物を1904年から1906年にかけてガウディが改装を手がけたものだそうです。建築作品は基礎から新築をするものと私は認識しておりましたので、この話を聞いたときにはとても驚きました。

独特なバルコニーのデザインは仮面がモチーフではないかといわれています

エントランスの扉上部のデザイン

内部から外を見た状態です。モダンなステンドグラスが随所につかわれています

ガウディのカサ・パトリョはモデルニスモ(アールヌーヴォ)の代表的な作品とされています。大胆な光と色の使い方の曲線によって構成されたデザインは「海底洞窟をイメージしたのではないか」といわれています。その自由な作風には圧倒されました。

階段の意匠

以前仕事でガウディがデザインした、木製2人がけの椅子を日本で拝見する機会がありましたが、この階段の手摺りを拝見してとても親近感が湧きました。

同じように木製の扉、扉枠にまで曲線をつかっています

天井がガラス屋根になっているパティオの意匠

内部廊下。光の使い方が幻想的でとても美しい空間を構成しています

光の廊下を抜けたところに意匠

いくつかある部屋の1つです。極めてシンプルで居心地の良い空間でした。照明に曲線を使用

一番低い屋上に出る扉です

随所にセラミック・タイルがつかわれています。ヨーロッパとは思えない、この多色づかいがとても気になりました。セビリアに移動し、イスラムの影響が濃い文化に触れたとき、このセラミックのタイルの謎がとけたように思いました。

良く写真などで見る屋上の意匠

ガウディのカサ・パトリョには衝撃的な驚きがありました。それはこれほどまでに曲線と色をつかい、ハレーションを起こしそうな装飾が綺麗に纏まっていることでした。建築は構造的な強度が必要になると思われますが、構造計算をしたのかと疑問を持つほど、自由にそして大胆に表現されていました。そしてそのデザイン表現のための建築技術がとても素晴らしいことでした。

暖色、寒色が混ざり合ってグラデーション見せるタイル配色

その構図と色使いはまるで絵画を見ているような印象でした。そして無印良品在籍中にお世話になった田中一光先生の色使いを思いおこしました。色を沢山つかっても、曲線を多用しても、それらを合わせた総合的な表現物でも、その優れた作品構成力によって、最終的にはそぎ落とされたシンプルなデザインコンセプトだけが印象として残るというすばらしい表現力。このお二人に共通するそれらの才能を目の当たりにして、世には天の才というものがあることを今更ながら実感しました。
次回はガウディの最も有名な建築作品サグラダ・ファミリアをご紹介します。

  • プロフィール くらしの良品研究所所員
    Y.Iさん

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