バルセロナのヌエヴァ・コシーナ
バルセロナのあるカタルーニャ地方は歴史的にもフランスを始め、諸外国との交流も盛んなところです。新しい事を積極的に取り入れる、新進的な精神はアントニオ・ガウディ、ジョアン・ミロ、サルバドール・ダリなど個性的な芸術家を生んでいます。カタルーニャ地方は良質なブドウが採れるワインの名産地でもあり、海や山の豊かな食材のそろう食の都としても名高い場所です。そんなバルセロナの魅力の1つに、新しいキッチン"Nueva Cocina"と呼ばれる、スペイン料理があります。
レストラン・ラ・アルケリアの額装
この当時、コーディネーターをお願いしていた方がイタリア人のグルメで、仕事の度に特徴のあるレストランを探してきます。私はどちらかというと美味しければなんでも良い方で、ドレスコードのある堅苦しいレストランはあまり得意ではないのでいつも困っていました。今回もバルセロナ郊外の3つ星レストラン、エルブジの話が出たのですが、あそこは簡単に予約がとれないのを知っていたので安心していましたら、2星だけどエルブジの料理を出すラ・アルケリアという店があるので行かないかと持ちかけてきました。書き出しの文章が彼の話を纏めたものです。少し高いけど全体で調整できるから、こんな機会でもないとなかなかいけないなどなど、結局説得され全員でいくことになりました。
レストラン・ラ・アルケリア入り口、写真真ん中に,出迎えの給仕の女性が立っています。
第二次世界大戦後フランスで起こったヌーベルキュイジーヌ(新しい料理)は古くからあるフランス料理の基本とされる方法から、自由な料理、新しい料理を目指してポール・ボキューズらによって起こった運動です。1)型にはまらない料理を創造。2)市場の素材を元に考える。3)濃くて重いソースはつくらない。4)郷土料理を見直す。5)健康に良い料理を研究する。など10箇条に及ぶ定義をもうけ、時代が要求する料理へと向かう改革運動だったようです。日本の懐石料理からも多くのヒントを学んだとされています。
料理の出し方も懐石料理のようでした
最初に出てきた料理、ウニをシャーベット状にした一品です
最初のひと品です。大きなお皿に小さなスプーン、その上になにかのっていました。食べてみるとウニでした。なにかと混ぜてあるのか、コンソメのような味もしました。懐石でいう「先付」のような感じでした。
まるで懐石の盛りつけです。
様々な品がテーブルに揃いました
次の料理が何種類かの小皿で運ばれて来ました。流れから察すると「お凌ぎ(おしのぎ)」の役割にも見えました。言葉の問題もあり、良く解釈できませんでしたが、どれもうまみの強い品でした。
次に出てきた品
テリーヌのような素材にジンジャーと思われる花が添えられ、泡のスープ(コンソメ味)がかかっているような料理です。スープの代わりだとすると懐石の「お椀」の役割です。この泡と海老のテリーヌのような素材が口の中でとても良い具合に混ざって美味しい料理でした。
その次の品
いやはや、出てくるモノに驚かされていると極めつけが出てきました。なんとキャビアの缶詰でした。食べてみると、オレンジとなにかタンパク質系のうまみが混ざったフェイク・キャビア。爽やかでとても美味しいのですが、なにを食べているのか皆で相談してしまいました。本来だとコースのこの分は鮨が出るそうですが、我々が日本人だとわかったので替えたとウエーターが教えてくれました。
次の品
季節を表す「八寸」という事になるのですが、海老と貝の料理です。ソースはあっさりしているのですが、横にあるソースのゼリーのような品とサワークリームとを混ぜて口に入れると、なんとも初めて経験するうまみでした。
次の品
「焼き物」です。鹿肉かと思いましたが仔牛のヒレ肉でした。ベリーソースがとても爽やかでこくがありました。
その次の品
懐石では「炊き合わせ」となるのですが、トマトを4種類盛りつけた料理です。どれもトマトの味なのですが、トマトはこんなにいろんな味があったのかと驚かされました。さすがに「ご飯」は無かったのですが、下の写真のようなパンが無くなるとサーブしてくださいましたのでお腹は一杯でした。
料理と対照的に無装飾なパン
最後のデザート。
そして最後のデザート(懐石では「果物」)です。このデザートも5種類のチョコレートで構成されています。まわりに飾りのようにたらしてあるチョコレートが一番美味しかったです。今回は大当たりのレストランでした。店の緊張感と料理への細やかな配慮は、参考にしたと言われる日本料理に通ずる奥の深さでした。良く懐石風に料理を少なめに、飾りに気を遣った見た目ばかりのまねたレストランが多い中、フランス料理と日本料理の芯を捉えていることがとても新鮮でした。気になるお値段ですが、日本の高級レストランよりもだいぶお得でした。明日からのセビリアで大好きな発泡ワイン、エスプモーソとハモンセラーノそして美味しいパンで2回ほど過ごせば十分に予算内で収まる値段でした。