アンダルシアの大地
ヨーロッパの街はほとんど同じような風景が多く、街の特徴を出そうとすると、どうしても観光写真になってしまいます。無印BGMの写真作品は、「音楽の背景が見える」「出来るだけ生活を感じられる」「無印良品らしい」の三つがコンセプトになっています。担当になったカメラマンにとってはとても難しい注文だと思います。そこでいつも街から出る方法を撮ることにしています。今回はセビリアの街を出てジブラルタルまでアンダルシアの大地を南下することにしました。
アンダルシアの大地
予想の通りセビリアの街をでたとたんに風景が一変しました。赤茶けた大地が広がり、ほとんどが畑のようでした。9月だというのにまだ気温は高く40℃近くあるように思えました。アンダルシアの平均気温は7月、8月が35℃、9月で32℃です。雨はほとんど降らず、この3ヶ月の平均降水日数は0~2日です。6月の降水量は13mm、7月、8月はほとんどありません。少し前なら一面ひまわり畑だったようですが、このときは収穫が終わったばかりでした。地平線までのひまわり畑を見てみたかったとカメラマンと話をしながら、乾燥して赤茶けた大地を眺めていました。雲は全くなく、強烈な太陽の日差しが照りつけますが湿度が少ない分、気温ほどの暑さを感じませんでした。夜は19℃くらいに気温が下がります。
焼けた大地の所々に散在するドングリとオリーブの木
車で南に移動していくと焼けた広大な大地の所々に大きな木が見えました。なんだろうと近寄ってみるとドングリの木でした。アンダルシアの原野に生えている木はほとんどがオリーブとドングリの木だとコーディネーター氏に聞きました。ただあまりにも暑いので収穫する人が集まらず、ほとんどがそのまま放置されているとのことでした。スペインで良く食されているハモンセラーノという生ハムはイベリコ豚(ドングリ豚)というドングリを飼料として育てられた豚から作るそうです。わざわざドングリを食べさせていると聞き驚きましたが、これほど何十キロにも渡ってドングリの木が繁殖しているのを見ると、ドングリが一番安く、安定供給できる飼料ではないかと思いました。
街道沿いのバル
ハモンセラーノの話をコーディネーター氏としていたところ、ちょうど食事時になったので通り道のバルで食事をすることになりました。
バルの店内
車を止め中に入ると沢山の方達も気楽な雰囲気で食事をしていました。皆さんワインとタパス(小皿料理)で簡単に済ませておられるので、我々も同じスタイルで注文することにしました。
ハモンセラーノという生ハム
さっそく話題のハモンセラーノとスプマンテとパンを頼むことにしました。出てきたハモンセラーノを食べてみるとバルセロナで食べたものより少し油臭さが気になりました。そこでコーディネーター氏に聞いたところ、ハモンセラーノは豚の足1本丸ごと販売され、その足を家の中に吊し、常温で中の油を出しながら熟成させるとのことでした。コーディネーター氏は、この店は環境が良くないから熟成の間に少し油が傷んだので味が悪いと小さな声で教えてくれました。常温? この気温の高い場所で? と質問をするとコーディネーター氏が店の隅を指さしました。
天井から下がった熟成中のハモンセラーノのブロック
目をやると、本当に豚の足1本分が天井から数本ぶら下がっています。そして下に傘を逆さにしたような物が刺さっていました。コーディネーター氏曰く、こうやって吊しておくと室温で油が下におりてくるそうです。それをこの傘で受けながら熟成させていくとの事でした。ハモンセラーノの材料になる豚はドングリで育てられた水分の少ない肉質の豚で、生後12ヶ月以上飼育した物でなければならないそうです。日本では通常8ヶ月程度の幼豚が食肉用に出荷されるそうですがスペインのハモンセラーノ用の材料は12ヶ月以上飼育した成豚でなければならないそうです。
違う部位の生ハムです
理由を聞いてみると、ハモンセラーノを作るときに相当量の塩を使うそうです。そして出荷されたハモンセラーノを室内に吊り下げ、常温保存する間に熟成し、中から大量に油が出るそうです。その油と一緒に肉の中に入った塩が流れ出し食べるのに適した状態になるとの事でした。その時に水分の多い幼豚を使うと塩が油と共に出ないで塩辛いまま熟成してしまうので水分の少ない成豚を使うと説明されました。
枯れてパリパリに乾燥している野草
このハモンセラーノ日本で食べるととても塩辛いですが、現地の高温、乾燥した気候の中では体が塩分を欲しているせいかとても良い塩加減に感じました。 乾燥した空気と高い気温、有り余るドングリ、地元の環境を最大限に活用して生まれたとても合理的な調理方法だと感心しました。郷土食のもつ役割と意味を再認識したすばらしい旅でした。代々続く生活の知恵が生きている美味しい食材でした。次回はアンダルシアの小さな街ロンダを紹介いたします。