連載ブログ 音をたずねて

ロンダから海辺の町へ

2012年10月10日

ロンダの町を後にして397号線をジブラルタルに向かいました。オアシスの町を一歩出るとまた灼熱の大地が待っていました。しばらく走ると今までより少し緑が多くなって来たような気がします。丘陵にもだいぶ木々増えてきました。よく見るとほとんどがドングリの木のようでした。

遠くにイスラム様式の塔を持つ街が突然あらわれました。赤茶けた大地の中に白い町が広がっています。さっそく撮影のために寄ってみることにしました。

町はほとんどの家々が白く塗られ、アンダルシアの陽差しの強さがわかります。スペインと言えば白い建物という印象そのままの町並みです。暑さのためか町には人通りはなく深閑としていました。もしくは農作業か何かで外出されているのかもしれないと思いながらもう少し町の中を車で走ってみることにしました。

工事をしている方を見かけたので車を止め付近を探索することにしました。

通りを少し探索していると数人の方達が集まって何かをしている場面に遭遇しました。時々笑い声がまざりとても楽しそうに、なにかに興じています。お邪魔にならないように近づいてみました。

どうやらドミノをしているようです。ドミノはヨーロッパで広く行われていてゲームです。トランプのように、ドミノを使って出来るゲームは沢山あるようです。スペインではマタドールというゲームが主で、一般的なドミノと少しことなり独特のルールがあるようです。皆さん笑いながらも真剣な面持ち、ひょっとするとビールくらい賭けていたのかも知れません。我々が近づくと少し顔を上げた程度で、全く気にしない風でした。この方達以外近くに人影がなかったので撮影のお礼を申し上げてまた移動することになりました。

少し走るとだいぶ景色が変わってきました。それまでのほとんど起伏のない地形から、少し起伏のある地形に変化してきているように思えました。走る車の台数も増え大きな町が近いようです。

巨大なオイルサーディン

突然、海岸線に出ました。どうやらジブラルタル海峡も近いようです。潮の香りと少ししめった空気、町の看板も海辺の雰囲気です。さてどこに行こうかとカメラマンの藤岡さんに相談し、漁港を捜すことにしました。

ロンダとはまた違う賑わいのある海辺の町です。

町の中をウロウロ捜してやっと漁港にたどり着きました。漁港の中を撮影ポイント探しでウロウロしていると倉庫のような建物から声が聞こえてきましたので、さっそく中を覗いてみると何人かの漁師さん達が道具の修繕をしていました。

我々が入り口に立って中を拝見していると、1人の男性がにこにこと声をかけてくれました。我々のことを説明し撮影をさせて頂きたいとお願いすると快く承諾してくださいました。声をかけてくださった方は日本で言う網元のようでした。

中は意外に狭く、網や糸などが置かれ、よく日に焼けた漁師さんと思われる方達が網の修繕や釣り鉤の付け替えをしています。しばらく作業を拝見していたのですが、その手際の良さと彫りの深い顔、鍛えられた体からは海の男の力強さが伝わってきました。

倉庫の端には大量な鰯が桶に入れられ塩漬けになっていました。話を伺うとアンチョビのようでしたが私の知っているものより数段大きく、日本では目刺しにするくらいの大きな鰯でした。こんな状態で放置して平気なのかと思いましたが、聞く事も出来ず、多分平気なのだろうと変に納得してしまいました。お忙しいところに急にお邪魔して申し訳ないのだが、最後にもし良かったら船の上で1枚だけ写真を撮らせて頂きたいとお願いをしたところ、皆さん快くご承諾してくださって、撮った写真がこれです。

突然にお邪魔した珍客にも関わらず、忙しい中こんなに素敵な笑顔で対応してくださいました。この写真が今回の旅のすべてを物語っているように思います。

漁師さん達にお礼を申し上げ、握手を交わし、最後にもう一つあつかましい質問をした結果がこのオイルサーディンです。先ほど大量に塩のふられた鰯、あれを食べられるところがないかとうかがって、教えていただいたレストランのオイルサーディンです。こんなに大きなオイルサーディンは見たことも食べたことがありませんでした。さっそく食べてみるとうまみの強い滋養に満ちた味がしました。大きさは先ほどの写真のサイズです。あれほど塩をふられていたのに少しも塩辛くありませんでした。パンとスプマンテとサーディンをいただきましたが、驚くほど手頃な値段でした。まったく行き当たりばったりでしたが最高の昼食をとることが出来ました。いつも思うのですが伝統の音楽と一緒で伝統の食はどこに行っても素晴らしい味がします。そのおいしさたるや毎回その場所に住みたくなるほどです。今回は時間の関係から写真を撮ることだけに集中し、お会いした皆さんのお話しをほとんど聞く事が出来ませんでしたが、撮影した写真とこの味がすべてを語っているように思える旅でした。

  • プロフィール くらしの良品研究所所員
    Y.Iさん

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