連載ブログ 音をたずねて

ダナの息子達の巨石文化

2012年11月07日

キング・アーサーゆかりのティンタジェル城を取材した翌日。私たちは宿泊地パドストウから東に40kmほど離れたミニオンズのストーン・サークル群を訪ねることにしました。

ストーン・サークルの一つ

ボドミン・ムーアに位置するミニオンズの町の西側は広大なストーン・サークル群になっています。今回、我々が取材したのはその中の一つ著名なハーラー・サークル群です。ヒースの荒野に通じる放牧地には背丈を超える巨石が規則正しく並んでいました。周りを羊が遊ぶ芝地のような牧草地に太古の巨石が並ぶ景観はとても奇妙でその場の空気が他とは違うような印象を持ちました。日本の神社やご神体とされる石の置かれているところも、同じように、陽の気のようなものが流れているハレの場所に感じるときがあります。

ハーラーのサークル群で遊ぶ羊と屋根の落ちた建物

スコットランドやアイルランド、ブルターニュ、ウエールズと並びコーンウォールにも多くのドルメンやストーン・サークル、メンヒルが残されています。今から約5千年以上前の新石器時代から青銅器時代までにつくられたとされるこれらの巨石文化は不思議なことにケルトの地とされる場所に集中しています。
アイルランドのケルト神話の中では、ケルトに滅ぼされた先住民ダナの遺跡とされています。ケルトに破れ、地下と夜を支配することになったダナは夕暮れになると妖精になってメンヒルやドルメンの場所に現れると伝えられています。
日本でいう夕方と夜の間の「魔界のどき」ととても良く似ている事柄をさしていることに驚きます。詳しくは専門書に譲りここでは割愛しますがとてもロマチックな不思議なお話です。

廃屋と思った立てものはビジターセンターでした

ストーン・サークルから廃屋らしき石造りの建物が見えたので近づいてみると扉がついて、現在も使用されている建物でした。中に入ってみると、どなたもいらっしゃらなかったのですがどうやらビジターセンターのようになっているようでした。外には看板も何もなかったのでまだ準備中だったのかも知れません。

古いケルティック・クロス

石造りの建物の最上階に屋根はなく、一階と二階だけを使ってこのエリアの史跡の案内展示をしているようでした。このへんの素っ気ないところもスコットランドと良く似ているなと思いながら、一通り見学させていただきました。朝から降っている雨がいっそう強くなってきたので拝観もそこそこに次の場所セント・メリー・マグダーレン教会に急ぐことにしました。

セント・メリー・マグダーレン教会

古い時代の教会の建物部分側面には多くの装飾が施されています

この教会は、今回のサウンド・プロデューサー、マイク・オコーナーさんが推薦するコーンウォール音楽に関わりの深い教会です。この教会のあるローンセストンの町はイングランドのセクターから30号線を走り、イングランドとの境、タマル川を渡り、西に1マイルほどのところにある、コーンウォールの玄関のような町です。人が住み始めたのは古く、町として形成されたのは西暦1000年頃のようでした。昔から音楽が盛んな都市であったようで、今ではロック音楽祭を毎年主催しています。

1500年代に増築された部分。壁面にレリーフはありません。

この教会は1300年代につくられ1500年代に改修されています。コーンウォールは西暦930年頃サクソン系のアセルスタン王によって滅ばされましたが、コーンウォール語の文化は繁栄を続け、13世紀には3万9000人ほどの人々がコーンウォール語を話していたとされています。現在の話者は約2000人程度とされていますので、コーンウォール文化の隆盛期に建てられた教会のようです。1500年の改修は新しい時代の流れの中で建設されたようです。この改修の少し後にコーンウォール語の禁止と英語の使用が進められました。1549年には市民による祈祷書反乱が勃発するほどで大きな転換期であったようです。そのようなことを反映してか、古い教会の壁面は多くの装飾的レリーフに飾られていますが、新しい増築部分の壁面には装飾はまったくありませんでした。

古い建物のほうは壁面がレリーフで飾られています

最初はそのことも知らず、通りに面した増築部分から入りましたので、マイクさんに見せていただいた教会のレリーフが見つからず、全員で手分けして教会の壁面を探索しました。横に回ると古い建物になり、紋章や飾りなど様々なレリーフが施された壁面現れましたが、目当てのレリーフはなかなか見つからない状態でした。

壁面に演奏家のレリーフ

そんな中カメラマンの藤岡さんが教会裏手で目的のレリーフをやっと発見しました。さっそく皆でその場所に行くと上の写真のようにヴァイオリンを弾く人とギターのような楽器、ハープ奏者が見て取れる壁面にたどり着きました。なんともうれしいレリーフです。

前の写真の右部分のアップです

こちらは笛を吹いています。マイクさんのお話しだと、コーンウォールの中世の貴族は四人の恒久的な楽団を有していた。編成は二つの管楽器と他の楽器を持つ吟遊詩人。また古い時代にはハープと管楽器、パイプ、フィドルなど様々な楽器の編成があったことが資料から考えられると言うお話しをうかがいました。教会の壁面に残る演奏風景。古くから音楽が盛んだったことがわかります。日本の寺もエンターテイメントの場であったそうです。日本と同じように集落には必ずある教会。教会は寺と同じように集落の人々の楽しみの場であったのかも知れません。

グレートブリテン島では珍しい豪雨です。コーンウォールが西に位置しているからかもしれません。

撮影が終わったとたん、やんでいた雨がまた激しくなってきました。9月の中だというのに、この時のコーンウォールはとても寒く、濡れたままでは風邪をひく可能性があったので、早々に宿に引き返すことにしました。この二日でコーンウォールは想像以上にケルト関連の史跡が多いことを実感しました。撮影で移動する間も多くのケルティック・クロスや神聖な場所とされるような史跡を数多く見かけました。これほど良い状態で残っているのも珍しくこれからの取材がとても楽しみになってきました。次回はケルトから少し離れて、ロウィーナ・ケイドさんという一人の女性が中心となって、50年もの歳月をかけ断崖絶壁の岩を切り崩して造った劇場、ミナック・シアターなどをご紹介します。

  • プロフィール くらしの良品研究所所員
    Y.Iさん

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