連載ブログ 音をたずねて

地の果てランズエンド

2012年11月28日

地の果てと呼ばれるコーンウォール最西端ランズエンド岬に着きました。帰国するまで、グレートブリテン島の西の端と思っていましたが、調べてみるとスコットランドの最西端Corrachadh Mòrの方が若干西になります。ランズエンドが西経5°42′Corrachadh Mòrが西経6°13′ちょうどランズエンドから見えるシリー諸島がほぼCorrachadh Mòrと同じ経度になります。そういう意味ではランズエンドはイングランドの西の果てといった方が正しいようです。

コーンウォールのランズエンド岬。切り立った海岸線が続きます

同じケルト文化圏フランス、ブルターニュにもランズエンドと呼ばれるラ岬(Point du Raz)あります。こちらは西経4°44′に位置し、こちらも海に突き出た岬は切り立った地形をしており、突然大地が海に飲み込まれている印象を受ける場所です。

フランスブルターニュのラ岬Point du Raz

またスコットランドにもやはりランズエンドと呼ばれる場所、ジョン・オ・グローツがあります。こちらは最北端に位置していますが、こちらも荒々しい地形で突然大地が終わり、海が始まります。ケルトの人々なぜ大地が終わり、海が始まるところにすべからくランズエンドと名付けたのか、とても興味が湧いてきました。

岬の双眼鏡

今回行ったコーンウォールのランズエンド岬はとても環境整備がされていて、観光地のようになっていました。天気が良かったせいか、テーマパークのような様相で、期待した地の果てランズエンドという印象の写真を撮影することが出来ませんでした。ただ周辺の管理事務所や商業施設を取り払い、何もない状態を想像すると、他の場所と同じように厳しく神秘的な場所だと思います。

大地が終わり、青く輝く海は大西洋です

大西洋にはケルトの海と呼ばれる区域があります。アイルランドの南西のコークから北東のウエクスフォード、対岸イギリスに移り、ウエールズのセント・デビッズを結び、そのまま南下してデール、南西のコーンウォールのランズエンド岬、南の対岸のフランスのブルターニュのラ岬、そこから北西に大陸棚に沿ってコークに戻る区域がケルト海と呼ばれている海域です。このエリアにランズエンドと呼ばれる場所が集中します。

Google Mapより

ケルト神話の中には「常若の国/ Tir-nan-Og /ティル・ナ ・ノグ」と呼ばれる理想郷があります。西の海の彼方に存在する光かがやく世界、老いることなく、苦しみも、飢餓も無い世界が様々な神話の中に登場します。キングアーサーは傷を癒すために「アヴァロン」に行ったとされていますが、このアヴァロンも「常若の国」とされています。ちょうど日本の浦島太郎の民話にも似た話がケルト神話にはあります。竜宮城とケルトのアヴァロンは描写内容がとても良く似ています。私はこの「常若の国」とは日本で言う「黄泉の国」ではないかと思っています。この西の海の彼方の黄泉の国と現世との架け橋、結界の場所をケルトの人々はランズエンドと名付けたのではないかと思いました。

フランスブルターニュのラ岬Point du Raz

前出のフランスブルターニュのラ岬の海にはケルト神話に出てくる伝説都市イス(Is)が沈んでいるとされています。とても美しい街だったイスは5世紀頃大洪水によって一夜にして海に沈んだとされています。水没した今も地上にあった頃と変わらぬ美しい姿で海底に眠っていて、いつの日か復活すると伝えられている街です。あまりにも美しいイスの街に憧れ、パリの街に名前を付けるとき、イス(Is)のようになりたいとPar-Is(パリ)と名付けたという逸話も残っています。すべて伝説の中の話ですが、見果てぬ夢を異界に求め、地の果て(ランズエンド)に特別な思いを寄せてきたケルトの人々の文化。ケルト海に面した各地にランズエンドと呼ばれる「常若の国」への入り口があること。日本の能に象徴される幽玄の世界と共通する感覚を感じました。次回はいよいよレコーディングのお話しをいたします。どうぞお楽しみに。

  • プロフィール くらしの良品研究所所員
    Y.Iさん

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