ケルト的な歌声
最後の曲のレコーディングが終わったとき、マイクさんの娘ミッシェルが、すこしはにかみながら、ケルト文様の銀のピンズを僕にプレゼントしてくれた。彼女もボーカルで今回のレコーディングに参加してくれていた。ケルト文様の意匠はコーンウォールやアイルランドなどケルト文化圏で数多く見かけるし、お土産物屋で買うことも出来ます。ただ今回マイクさんのお嬢さんからこのピンズを頂いた時にはとても感激しました。
女性コーラス高音部を担当のヘレン・レイノルズ
実は企画立案の段階では、妖精のような美しい声のパートを探していました。今回サウンドプロデューサーをお願いしたマイクさんから女性デュエットのデモ音源が送られてきたとき、高い音域のボーカリストはイメージ通りでしたが低い方は音程も不確かで声質もイメージとは異なるタイプでした。さっそくマイクさんに別の候補を挙げて欲しいと連絡をとりましたが、マイクさんからは「要望は理解できるが、このデュエットでやらせてみてほしい」との返事を貰いました。その低い声の主がマイクさんの娘ミッシェルだったのです。
ミッシェル・オコーナー
最終的にもしもイメージに合わなければ、その曲は残念ですが没にするつもりでレコーディングに臨みました。すべてのレコーディングが終わったとき、マイクさんの選択が正しかったことを理解しました。ミッシェルの低い声の存在感が全体を引き締めていたのです。
また安定感のない歌唱も逆に素朴さとなって、コーンウォール・ケルトの世界を広げる役目をしていました。私が要求した透明感がでるボーカルでは美しい世界を作る事が出来ますが、リアリティのないものになっていただろうと思いました。
ミッシェル
レコーディング初日に、マイクさんからミッシェルを紹介されました。彼女を見たとき、映画『キング・アーサー』の王妃グウィネヴィアが、目の前に立っている気がしました。強さと優しさ、気高さ、素朴さなどケルトの本質が彼女の中にあるように感じました。
歌い出すと、まさにケルティック・ウーマンである。デモテープではわかりにくい微妙なニュアンスが伝わってきました。マイクさんから渡されたデュオ曲のコーンウォール・ケルトの印象を強くしているのが、低い声のミッシェルだったのです。
コーンウォールのランズエンド
キャラクターは違っても、ヒラリーにもミッシェルにも、そしてサマンサにも、強いケルティック・アイデンティティを感じました。コーンウォールはアイルランドやスコットランドに比べるとケルト的の印象の少ない場所に思っていましたが、コーンウォール・ケルトは、人の心の中にあったように思います。時代は変化しても、ケルト的なものがより純粋さを増して人の中に昇華されている。厳しい自然と対峙してきた素朴さと日々の生活を丁寧に過ごす強さ、目の前の現実に向かう母性が基になった健やかな生活はまさにケルトでした。ミッシェルがケルティックのピンズを私にくれたのは、この数日で私が感じた事への優しい感謝と抱擁の気持ちだったのかもしれないと思いました。
コーンウォールの風景
ぎすぎすした現代社会においてケルト文化が好まれるのは、そんな暮らし方と優しさへのあこがれなのかもしれないと思いました。ますますケルト文化が興味深くなってきました。次回は来年お目見えする島ケルト4番目の最終地、フランスはブルターニュをご紹介します。どうぞお楽しみに。