連載ブログ 音をたずねて

巨石文化とケルト文化

2013年02月27日

コーンウォールのドルメン

ケルト音楽(文化)を追いかけてヨーロッパ各地を旅していると、不思議なことに巨石遺跡とケルト遺跡が交わることに気づきます。アイルランド、スコットランド、イングランド、ウェールズなど島ケルト文化地といわれる各地で巨石遺跡を見ることが出来ます。島ケルトの地とされる今回のブルターニュにも巨石遺跡はありました。フランスの巨石遺跡はブルターニュ地方 、ポワトゥー・シャラント地方、ペイ・ド・ラ・ロワール地方とフランス西部ケルティック海に近いエリアに集中しているという面白い現象が見られます。

アイルランド、ブルーナ・ボインの5000年以上前に造られた墓と巨石

ドルメン、メンヒル、ストーン・サークルなどと呼ばれる巨石遺跡は紀元前2000年~5000年前に造られたとされ、この巨石文化を創った人々のことはケルト神話『アイルランド来寇の書(Lebor Gabála Érenn)』などの中に壮大な神話ロマンの登場種族ダナとして語られています。上の写真は巨石文化とケルト文化の融合かと思えるアイルランド、ブルーナ・ボインの遺跡です。巨石の表面にケルト文様が一面に施されています。今回は巨石文化とケルト文化が大きく重なり合うエリアとしてブルターニュ・カルナック周辺のケルト遺跡を訪ねました。時間の関係で有名なカルナック周辺の巨石遺跡は撮影を見送ったのが残念でした。

聖カド(Cado)島のケルティック・クロス

カド島の聖カド教会

カンペールから東南、塩湖で有名なゲランドに向かって車を走らせ、80kmほど行ったところにエテル川があります。その河口の口ヴォシュランと呼ばれる大きな湖状の吃水域があり、そこに浮かぶ小島が聖カド島です。この聖カド島の教会には海に面してケルティック・クロスを冠した祠があると聞き訪れてみる事にしました。駐車場に車を停め、石造りの橋を徒歩で島に渡ると小さなカド教会が建っていました。

聖カド教会の内部

この教会はウェールズの王子とされる聖人カド(Cado)によって6世紀に築かれました。聖人カドは耳の不自由な方の守護神とされ、教会に置いてある石造りの彼のベットに触れると症状が改善されると言い伝えられています。人々の暮らしに信仰が密着していたことが忍ばれました。とげ抜き地蔵など日本の民間信仰に良く似ています。

教会裏手ケルティック・クロスを冠する祠

トーマスさんの案内で教会の裏手に回ると小さな石作りの祠が水の際に建っていました。祠からは水が湧いているのですが干満の差が激しいこの場所では引き潮の時にしか、湧水を見ることが出来ないそうです。ケルト文化は日本の神道と同じで湧水や滝、巨木や森などを神の宿るところとする自然崇拝の精神が息づきそれらを聖地とする信仰があります。

祠の屋根にケルティック・クロスが据えられていました

気がつくと祠の屋根にはケルティック・クロスが据えられています。ケルト文化圏各地で多くのケルティック・クロスやハイクロスに出会いましたが、海に面した場所に据えられたケルティック・クロスを見たのは初めてでした。

キリスト教以前の太陽信仰

コーンウォールで最も初期の石の十字架とされる聖ピランのクロス(約7世紀頃)

このケルティック・クロスと呼ばれる十字架は5世紀頃アイルランドやスコットランド、ウェールズなどのケルト文化圏にキリスト教が伝えられるとかつての信仰と融合しそのシンボルになりました。太陽信仰の円環や太陽十字と呼ばれるシンボルはキリスト教以前、先史時代からケルト文化圏では使用されていました。写真コーンウォールの聖ピランの十字架には初期の面影が色濃く残っています。この太陽信仰のシンボルとキリスト教のクロスが合わさって現在の形になったようです。

コーンウォール、セント・メリー教会の墓標としてのケルティック・クロス

写真はコーンウォール、セント・メリー教会の墓標としてのケルティック・クロスです。わりとどこでも見られるタイプですが、ケルト文化圏ではこの十字架のように石で造り「ケルズの書」や「ダロウの書」に描かれているようなケルティック文様を表面に配している十字架を数多く見かけます。キリスト教のクロスには見られない意匠です。この融合は神仏混合の日本文化にも似ている気がします。

東西の自然観のつながり

カド教会の中のクロスです

ケルト文化は中央アジアの草原からヨーロッパに渡来したインド・ヨーロッパ語族ケルト語派の文化で紀元前400年にはイベリア半島南部とイタリア半島を除くヨーロッパ全土に分布した多くの部族による文化といわれています。このケルティック・クロスに見られる、太陽信仰の円環や太陽十字は東洋でも様々な形に使われています。九州薩摩藩の紋とまったく同じ形が、ケルト文化太陽十字の文様のひとつに残っています。とても面白い現象で自然崇拝と輪廻転生を軸とするドルイド教はインド、日本にも通じる宗教観ですのでユーラシア大陸共通の信仰や文様のようにも思えてきます。

日本にもありそうな古い石舟のような遺跡(教会敷地内)

自然共生を大切にした自然崇拝思想。民族の多様性を尊重しながら共有、共存する文化。ケルト文化を追っていくと日本の文化しいてはインドやアジアに通ずる哲学や信仰の共通性が見えてくるような気がします。その共通な意識が形として今に残っているようなロマンを感じます。多摩美術大学芸術人類学研究所所長でもあり、ケルト/ユーロ=アジア芸術文明研究家としても著名な鶴岡真弓さんが提唱されておられる「ヒューマン・スケール(Human scale)からマンカインド・スケール(Mankind scale)への視点の転換」という「鬨の声(War cry)」の意図が理解出来るような素敵な旅でした。次回は現代の街をご案内いたします。どうぞお楽しみに。

  • プロフィール くらしの良品研究所所員
    Y.Iさん

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