ブルターニュ最後の日
暖かい人情の地、ブルターニュでのレコーディング最終日になりました。音楽収録は大成功。ホテルとスタジオの行き来に追われた数日間が終わります。 このブログを書いているとすべての場所に私が行っていると思われがちですが、行程の半分はいつもスタジオの中にいます。先回のブログでご紹介したようにその間は撮影隊が地元の風景を求めてロケを行っています。帰ってきた撮影隊の話を聞きながら、写真を集めて書いています。そういう意味では風景を見たり、珍しい料理を食べたりする機会は少ないのですが、その分素晴らしい音楽が生まれる瞬間に立ち会える幸せがあります。
その土地その土地で出会う、ミュージシャンやスタジオのスタッフ。場所や人種は違いますがどこの土地でも同じような会話と空気が流れていることが、とても不思議に思うことがあります。音楽を作っているのですから当たり前と言えば当たり前なのかもしれません。さまざまな場所で出会う音楽関係者がとなり近所の知り合いや、古くからの友人のような印象を与えるのは、音楽好きという共通点と伝統音楽の持つ優しさなのかも知れません。
レコーディングのご褒美
YUTAKAはずっとレコーディングだったから、ブレストの料理は食べていないだろうとレコーディングの最終日に今回のサウンド・プロデューサーのエリックさんが食事に招待してくださいました。スタジオからほど近い1件のパブに案内されると、まったく地元の方々しか来ないだろうと思えるほどディープなブリトンでした。たぶん今まで日本人は誰も来ていないと思えるほど常連客に注視される中を抜け、レストランスペースに陣取りました。「ここは自分が良く来る気のおけない店なんだ。YUTAKAは仲間だからここに連れて来た」と彼の言葉を聞いた時にはとても感動しました。
興味深くに店内を眺めている私にエリックさんが笑いながら、いつも食べている料理でいいかと聞くので、勿論その料理を食べたいと答えました。1番目に出てきたのがこのタルタル・ステーキ・ブリトン風とでもいうような生牛肉のミンチです。肉の周りに盛られているケッパーやハーブをすべて皿の上で混ぜ、添えられているソースをかけて食べます。肉はあっさりしていてサラダを食べているようでワインにとても合いました。
次に出てきたのはホタテ貝が沢山入ったグラタンです。ぱりっと焼いたガレットのようなものが添えられています。さすがに海辺の町、新鮮で磯の香りがして美味しい一品でした。
写真がぶれていますがおきまりのムール貝のボールです。
少し遅れてエンジニアでミュージシャンのパトリックさんの奥さんがお子さんを連れて登場しました。奥さんは灯台の事務をしているようで、仕事が終わってから駆けつけたみたいです。挨拶したとたんに、今日は大きなカメラを持った女性と何人かの人達が灯台に来たから、無料で入れてあげたわ。あなた達のお仲間かしらと笑いながら話してくれました。どうやら撮影隊が先に奥さんに会っているようでした。お礼をいうと、なんの問題もない、ブリトンの音楽を遠くの国から紹介しに来てくれたのだから当然よとにこにこしながら答えてくれました。
顔ぶれがそろい世間話からレコーディングの話まで和気藹々としたパーティーが始まりました。今回のレコーディングが今までと少し違う気がしたのはミュージシャン同士の仲の良さです。他の国のミュージシャンの仲が悪いというのではないのですが、ブリトンのミュージシャンは特に町内会のような親しさでした。我々に対して気さくに自分達の店に案内してくれたのはスペインアンダルシアのロマだけだったと記憶しています。レコーディング前の撮影に付き合ってくださったトーマスさんもそうですが外から来る者に分け隔てのないつきあい方にとても感動しました。ブリトン気質とはこんなところにあるのかも知れません。
あっという間に深夜になり楽しい時間もそろそろと、お礼を述べお暇をすることにしました。なごり惜しく、車が来るまでと全員で外まで見送ってくださり、良い仕事だったと皆さんからお礼をいただき、私は預かった音源は東京で確実に仕上げるから楽しみにしていてくださいとお礼を述べるなど外でも和気藹々と立ち話が続きました。空を見上げると美しい三日月が出ていて沢山の船が並ぶ湾処(わんど)を照らしていました。優しい方達との別れには最高の風景です。車が着いて乗り込み出発しても我々が見えなくなるまで店の前で見送ってくれました。また会おうという挨拶が1年をまたずして今回無印良品音楽会として6月に東京と大阪で実現する事になり、とてもうれしい思いがしています。
今回は私の行きつけのディープな日本、新橋当たりの焼き鳥屋にご案内したいと思っています。