リネン ─世界の中から、良い素材を。─
リネン(亜麻)は、アマ科の一年草、フラックスの茎の繊維から作られた織物です。「麻=リネン」と思われることも多いのですが、日本で言う「麻」は、木や草に含まれている繊維の総称。リネン(亜麻)、ラミー(苧麻)、ヘンプ(大麻草)、ジュート(黄麻)などその仲間は約20種類近くにもなり、原料となる植物によって繊維の性質も大きく異なります。
ランジェリー(装飾的な女性用下着)の語源にもなっているリネンは、素肌にふれて最もやさしい繊維のひとつ。農薬や肥料をほとんど必要としない野草の強靭性に加え、使い込むほどに柔らかくしなやかになり、製品となっても生き続ける素材なのです。
リネンの産地
良質なリネン素材の産地を世界中から探し出すために、私たちは現状を知るところから始めました。まず訪れたのは、パリにあるヨーロッパリネン連盟(以下、CELC)。1951年に設立されて以来、リネンや麻の生産調査をおこない品質を守る活動をしているところです。
CELC調査によると、現在世界のリネン生産高はヨーロッパが90%以上を占めています。その中でもフランスが約80%、次いでベルギーが約15%。そして大きく数量を減らしてオランダ、ポーランド、チェコと続きます。
リネン製品の原産国表記に「中国」と書かれていることが多いのは、素材を最終的に製品化しているため。濡らすと強度が増すリネンは、紡糸の最後に糸を湿らせる湿式紡績という方法で糸を紡ぎますが、その工場が集中しているのが中国なのです。
フランダース地方のリネン
ヨーロッパのリネン産地を一巡した私たちは、良質なリネン生産地が集中している「フランダース(フランドル)地方」に注目しました。フランス北部からベルギー西部、オランダ南部まで3つの国境を越えたこの一帯は、かつてフランドル伯爵の領地として栄えたところ。リネン栽培に適した涼しい気候と、川の流れる自然環境でつながっています。こうしてみると、同じフランダース地方の風土で、「フランス産」「ベルギー産」と生産国名で分けてもリネンの特徴は同じ。自然には国境はないのです。
亜麻(あま)は、植物の状態がフラックス、収穫されて糸に紡がれると呼び名がリネンに替わります。フランスからベルギーを流れるレイエ川(フランス語名はリス川)沿いでは、かつてフラックスを川に浸して腐食(発酵)させ、茎を柔らかくして繊維をとっていました。古くからのリネン産地が川でつながっているのも、そうした理由から。今では、川の汚染に配慮して天日干しにし、刈り取った後のフラックスを畑の上で約3週間寝かせて発酵させ、繊維をとっています。
生産工程で川を必要としなくなったことに加え、機械化が進んだことで、フランダース地方のなかでもフランスとベルギーは大型農業が主流に。無印良品は最高レベルの品質規格を守り続けるため、フランスとベルギーのスカッチングミル(リネン加工を行う会社)と手を結びました。スカッチングミルは、現地にあって顔の見える関係を築きながらリネン農家と直接契約し、畑までトレーサビリティが取れるよう厳正な管理をしています。
リネンは農産物
リネンはワインや米と同じように、農産物のひとつです。色ツヤ、強度など、出来具合は収穫した年の雨量や気候によって異なります。雨が少なく気候に恵まれなかった年のものは、ゴワゴワと固く黄色に日焼けしたようで、収穫年ごとに比較してみると一目瞭然。出来の悪い年のものを他の年のものとブレンドすることでコストを抑えているところもありますが、無印良品では一切ブレンドせず、収穫年の単位で仕入れています。私たちが農家のもとへ直接足を運ぶのは、粗悪なものとの混合がないよう、出来具合を確認するためでもあるのです。
また、フラックスは連作が難しい植物です。1回採ると土が痩せてしまうため、7年は別の作物をつくり地力の低下を防がなければなりません。常に良質なリネンを仕入れるためには、7年もの輪作年数を考慮した広大な農地と、不安定な品質結果に左右されないよう複数の仕入れ産地を確保する必要があるのです。
品質は信頼関係から
リネンの色や強度などの品質を保つために、無印良品では、リネン農家の人たちが安心して栽培できるように、同じところから継続的に買い付けをしています。家業として代々リネン生産を受継ぐ農家は、リネンを知りつくしたスペシャリスト。リネン畑で働く血筋を尊敬し、素材へのこだわりを語りあうことで、誇りのあるものづくりの意識が高まり、信頼も深まります。収穫の喜びを分かちあえる信頼関係があって、はじめて、品質を守りながら低コストを実現できるのです。
信頼関係を築き安定した発注をすることでコストを下げ、さらには製品段階で知恵を出してコストを下げる。こうした取組みを地道に積み重ねることで、無印良品は、上質なリネンを適正な価格でお届けしています。