研究テーマ

人と自然 ―直線裁ちの服―

布の文化と衣服

古代の人々は、気候風土に合った衣服をつくるため、原料を見いだし、織物にしました。いろいろな植物を試したことでしょう。その地方に豊富にあったということもあるかもしれませんが、麻の織物は、エジプト地方、綿はインド、絹は中国、そして、ウールは、メソポタミア(イラン・イラク地方)で、紀元前4千年前~3千年前にはじまりました。
当然ながら、すべての工程は、人の手によってつくられました。植物や動物の毛から繊維を集め、つむぎ、糸にする。汚れを洗い流し、糸を染め、織る。織るには、経糸(たていと)を機織り機に整え、緯糸(よこいと)を右から左、左から右へと、一本ずつ通していきます。道具(糸車、機織り機など)を使いながらも、手間と時間をかけて織り上がった布は、大変貴重なものでした。大事に使い、そして、使い尽くしていたことも、容易に想像がつくことです。
こうして織られた布による衣服の形は、非常にシンプルでした。今でも目にすることができるサリーのように、布を身体に巻き付けて肩に懸けたもの、ポンチョのような貫頭衣、カフタンなどです。
なぜ、現代の服のように身体に沿った服をつくらなかったのでしょうか。そういう発想がなかったのでしょうか。この辺になると、古代のことですから、さらに想像をたくましくしなければなりません。
苦労して造った布を裁断することは、考えもしなかったのではないでしょうか。自ら手織りを経験したことのある方は、おわかりになると思います。手をかけたものは、愛着も生まれます。切り刻むなんてことは、思いつきもしません。
他方、古代ギリシアのローマの彫像からもうかがえますが、身体の2~3倍はある布をまとった時に生まれる襞(ひだ)の美しさや、分量のある布の平面が醸し出す威厳に、価値を見いだしたということもあるでしょう。しかし、極端に言えば、身体ではなく、貴重な布の方を主体として衣服を身にまとい、気候風土にあった一枚の布の着方が、各地で生まれていったと推測するのです。
ちなみに、現代の洋服の基になった裁断は、13世紀になってからと言われています。

民族服と直線裁ち

ひるがえって、アジアや南米の多くの民族服をみてみますと、多くが直線裁ちでつくられています。身頃は長方形、袖もかすかに傾斜のある長方形、スカートも長方形の布にドレープを寄せたり、生地に無駄がないような形状です。暑さの厳しい地方では、身体にフィットしているよりは、身体と衣服の間に空気の流れが生まれる形のほうが、涼しいということも一因でしょう。しかし、可能なかぎり布を大事にするという精神は貫かれています。加えて、袖や、身頃にもパッチワークもよく見られます。それも、ほとんどが長方形。端切れでしょうか。あるいは、着古した衣服の一部かもしれませんが、それがまた"味"となっているのです。

直線裁ち、つまり、長方形の布を基本とした民族服は、外形の変化より、人が身につける「布」を尊重した衣服といえます。知恵と美の融合した布と形の中には、衣服デザインにおける布の重要性、布と人間の関係性を問い直す機会も与えてくれます。

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衣服