繕いと裁縫道具
昭和の中ごろまで、針仕事は、炊事・洗濯・掃除と並んで、重要な家事のひとつでした。家族の衣類を縫ったり、繕ったり、洗い張りして仕立て直したり、さらには古着をふとんや座布団に作り替えたり 主婦の針仕事は際限がなかったといいます。裁縫箱が花嫁道具に欠かせなかったのも、そんな理由からでしょう。
現代の針仕事
今では衣類も寝具も既成品が安く手に入るようになって、主婦は針仕事から解放されました。では、家の中から裁縫道具が消えたかというと、そうでもなさそうです。当研究所で行った「繕う」のアンケートで、現代の針仕事について訊いたところ、「裁縫道具を持っていない」と答えた人はわずか3%でした。裁縫道具を「よく使う」「たまに使う」人はともに4割強で、ほとんどの人が日常的に針仕事をしています。とはいえ、その内容は昔と同じではありません。子どものレッスンバッグや学用品、自分の服を縫うという場合もあるでしょうが、裁縫道具の出番の多くは、ボタン付け、穴かがり、裾上げ、ぬいぐるみのほつれ直しといった繕いもののようです。
こうした針仕事に欠かせないのが、裁縫道具をひとまとめに収納できる裁縫箱や裁縫ポーチ。救急箱のようにひとつにまとめて居間などに置いておくと、すぐに取り出せて便利です。アンケートには、「洗濯物を畳む場所に置いておくと、ほころびやボタンのゆるみなどを見つけたときにすぐ繕える」といった知恵も寄せられました。日常のこまめな繕いは、ものを長く大切に使うことにつながるでしょう。
変わらぬ裁縫道具
縫い針、マチバリ、針山、糸、糸切りばさみ、裁ちばさみ、指ぬき、チャコペン、メジャー。小学校5年生で習う家庭課の裁縫箱に入っているものです。昔に比べると中身はずっとシンプルになっていますが、裁縫道具自体は、お母さんやおばあさん、ひいおばあさんが使っていたものと変わりません。
中でも糸切りばさみは、「和ばさみ」の別名があるように、日本独特の道具。握ればワンタッチで切れるU字型の小さな握りばさみは、ボタンが取れた、裾上げがほつれたといった繕いものには、裁ちばさみよりずっと出番が多いはずです。
裁縫用の糸切りばさみは全長105㎜のものが標準で、150㎜まで数種類。一見どれも同じようですが、用途に応じて、長さや腰のバネの調子を違えてあります。そして最も大切なところは刃先。ここがピッタリと合わさってこそ、細かい針目も糸だけ引っ掛けて切ることができるのです。買うときは「手に取って握ってみて、使い心地のよいものを選んでほしい」と、刃物の専門家は言います。最近はパック入りで売られているものも多いのですが、刃物専門店などでは布を切ってみて、切れ味や握りやすさを確かめることもできます。また、ハガネをつけてたたいて作ったものなら、研ぎ直すことができるので「一生もの」として使えるでしょう。
針も小さな刃物です。針穴をつぶさないようにメッキ加工をせず、布の通りがよいように縦研磨加工しているものもあります。はさみや針など裁縫の基本の道具は、ちょっとこだわって選びたいもの。よい道具を使うことで、日常の繕いも気持ちよくできることでしょう。
みなさんはどんな裁縫道具を、どんな場面でお使いですか? そして、それをどこに置いていらっしゃいますか?