研究テーマ

お下がり

「お下がり」というと、私たちがまず思い浮かべるのは「人の着古した衣類」。モノのあふれる現代、兄弟姉妹の間ですら「お下がり」の衣類を着せることにためらう人が多いのは、どこかに新品崇拝があるからなのかもしれませんね。でもその一方で、「この着物は、母からのお下がりなの」と大切に着ている人を見ると、その奥ゆかしい暮らしぶりに感心してしまうのも私たち。今回は、そんな「お下がり」のいろいろについて、考えてみましょう。

お年玉も、お下がり

地域にもよりますが、関東では11日、関西では15日が鏡開き。お正月の間、神さまにお供えしていた鏡餅を割り、その「お下がり」をいただく日です。そもそも鏡餅は、新しい年をつかさどる神さまの依り代(よりしろ)とされ、年神さまの御魂(みたま)が宿るところ。神さまのお下がりとして鏡餅をいただくことで、年神さまの霊力を授けられて平穏無事な新年を送ることができるとされてきました。この鏡餅の餅玉が、年神さまの御魂であり、その年の魂となる「年魂」。そして、年神さまの代理人である年長者や一族の長老などが家族に「御年魂」「御年玉」として分け与えたのが、お年玉のルーツなのだとか。つまり、鏡餅は飾るだけではなく、いただいてこそ意味があるものなのです。

神仏のお下がり

かつて多くの家に仏壇や神棚があった時代、そこには三度のごはんやお茶、いただきもののお菓子やフルーツなどをお供えするのが常でした。いただきものなどがある場合には、家族が食べる前に「まず、お仏壇(神棚)へ」という躾も、ごく当たり前になされていました。そうすることで、いま生きている人だけではない縦のつながりというものを、無意識に教え込まれていたのかもしれません。そして、「お下がり」をいただくことで健康に育つともいわれていて、日々のお下がりをいただくのは、もっぱら子どもの役割。よそったばかりのアツアツのごはんに比べて、少々冷えたそれは子ども心においしいものではありませんでしたが、お供えのお下がりにはご先祖を身近に感じさせるだけの力はあったように思います。

「お下がり」は可哀そう?

育ち盛りの子どもは、服を買ってもすぐに着られなくなってしまうことが多いものです。実際、『子ども服にまつわるお金の悩み』を尋ねたある調査によると、1位は「服を買っても子どもの成長が早くてすぐ着られなくなるので、お金がかかる(64.3%)」で、2位は「子ども服ばかり買って、自分の服にお金をかけられない(52.3%)」というもの。それだけに、かつてはお下がりを上手に回すという方法が根付いていたのですが、同じ調査によると「おさがりは7割以上が迷惑」という本音の答えも見えたとか。「友人や親せきなどからもらう"おさがり"をどう思いますか?」という質問をしたところ、圧倒的に多かった意見は「服の状態やブランドによる(65.9%)」で、約7割の人が服の状態やブランド次第では、お下がりを「迷惑」と考えていることがわかりました。 とはいえ、年に何回かしか使うことのない学校指定の柔道着などは、早くから「お下がりの予約」が殺到するといいますから、時と場合によるのかもしれませんね。

必要なところへ、お下がりを

とはいえ、現実には「お下がりを必要としている人」がいて、送れば感謝される場所があることはあまり知られていないようです。それは、ホームレスの人たち。こざっぱりとした服装は、偏見や排除から身を護り、仕事を続けるためにも重要なものだといえるでしょう。でも、家を持たないホームレスの人たちは、服を収納しておく場所がありません。その意味で、「もう自分では着なくなったけど、じゅうぶん使える」という「お下がり」は、命綱ともなるものなのです。
特に寒い冬は気温の変化が体を直撃しやすく、プライベートスペースを持たないため、寒さに備える衣類を収納しておくこともむずかしいのが現実。中には冬の野宿で凍死する人もあるといいます。
こうした厳しい現実に対応するため、ホームレスの人たちが自立し、再び社会に復帰できるように多面的なサポート事業を行っているところも。たとえばビッグイシュー基金では、洗い替えが必要な夏季や、かさのある防寒着・小物が必要な冬季に秋冬衣類や防寒着、防寒小物を、「もう着ない・使わなくなった」という人から募集し、必要な人々へ渡しています。寄付された服や小物は、種類ごとにラベルを貼ったボックスに仕分けされ、その日の天気予報に合わせて気温対策の判断をしながら必要な服をピックアップできるという仕組み。この冬物の衣料募集は昨年11月半ば過ぎに終わったようですが、衣料の寄付は季節ごとに募集しているといいますから、こまめに情報をチェックしてお下がりを送るのも賢い方法でしょう。

このほか、子ども服のお下がりも、お客さんから買い取ったけど販売できないコートを発展途上国の恵まれない子供たちに寄付する活動も始まっているようです。皆さんは、「お下がり」にどんな気持ちを託し、どんなふうに活用していらっしゃいますか?

※参考情報:BIG ISSUE ONLINE「秋冬衣料や防寒着を捨てる前に…服たちが最大限に感謝される場所へ送りませんか」

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