日本の布づくりの旅(後編)
「伝統的な布づくりが現代の布にどんな影響を与えているかを現地で実感できたら、新しい日本の布のあり方が見えてくるのでは。Found MUJIで、日本の布を見つめ直すことができたら、素晴らしいのでは」
良品計画のアドバイザリーボードメンバーでテキスタイルデザイナーの須藤玲子さんのこの思いから、Found MUJIの「日本の布」プロジェクトは2011年8月にスタートしました。
ちょっとだけ頑張れば
最初に訪れた産地は、福岡県の久留米でした。日本の三大絣の産地のひとつと言われ、そのなかでいまなお伝統的な絣の産地としてのこっている場所です。
「久留米絣は、手作業の部分を完全に機械化したり、本藍だけでなく化学染料も取り入れるなど、柔軟性を持つことで、伝統的な絣を守ってきました。かつては男の子の普段着や野良着といった日常着に用いられていて、いわゆる土着性を感じる図柄が多いんです。実際に訪れてみると、それ以外にも膨大な量の図柄があることがわかりました。無印良品のスタッフと一緒に夜通しその図柄に目を通して、現代でも魅力的な柄を選びました。丸と、縞と、三角と四角の4種です」
伝統工芸としての布は値の張るものも多いなか、久留米絣ならちょっとだけ頑張れば手が出せるというのも魅力でした。
「着物を買うのは大変でも、無印良品で小物に仕立てれば手に取りやすい。たくさんいる『MUJIファン』が買い求めてくれたら、それは産地にとってはこれまでにない大きなボリュームとなります。日本の布文化を継承・発展させていくきっかけになれるかもしれない。反物は幅が約38センチと決まっていますから、そのサイズのなかでなにがつくれるかを考えるのは、無印良品のスタッフと私の知恵の出しどころ。久留米絣は小さな手提げとクッションカバー、そしてスローにしました」
つくる人から使う人へ
布づくりに携わり続けている須藤さんにとって、産地に焦点を当てるのと同様、生産者に直接会ってやりとりすることも、「日本の布」プロジェクトでは大きな意味を持っています。
「日本の繊維業界は、布ができたあとにどのように仕立てられて、どんなふうに使われるのかということが見えにくいという現状があります。『日本の布』では、生産者がつくった布が、どんな売られ方をして、生活者にどんな使われ方をして、どういう関係を結べるのか。すべてが見えるようにしたかったんです。青山のFound MUJIで展示している期間中、生産者のみなさんがお店に来て、 お客さんの様子をじーっと見ているんですよ。そしてとても喜んでくださいました。買っていく人の姿に「よかった!」って。それは私たちにとっても大きな喜びなんです」
須藤さんは自身のブランド「NUNO」でも、この「つくる人から使う人へ」というつながりを大切にしています。
「生産者も、売る人も、そしてデザイナーも、同じ気持ちで布に関わっているということがわかると、どんどん前進していけます。そして布という素材の魅力を伝えるのも、デザイナーの役割だと思っています」
日本の産地へ行こう
須藤さんはいまも、無印良品のスタッフと共に産地を巡る旅を続けています。
「若いデザイナーに日本の産地の魅力を知ってもらうことも、このプロジェクトの大きなミッションだと感じています。無印良品のファブリックチームのデザイナーは、布について学校で学んでいますし、知識もあります。でも、日本の産地に行く機会はそれまでほとんどありませんでした。海外の産地に赴くことはあっても、国内の方が縁遠かったんですね。だから実際に訪れて、どんな機械が使われていて、どんな技術を駆使していて、そしてどんな人たちが布をつくりあげているかを目の当たりにして、もうみんな大興奮なんです。現場で会うからこそ聞ける話もたくさんあります」
現場を訪れて布づくりを自分の目で見て、どうやってつくられているのかがわかったからこそ、どんな商品に仕立てるといいかというアイデアもわいてくるもの。生産者からはそのアイデアは新鮮なものに映り、実際に多くの人が手に取り、日本の布の魅力を多くの人が知ることに。そういう、嬉しい循環が生まれています。
「やっぱり人なんです。人と人が出会い、話し、やりとりすることで、気持ちが動き、手も動く。このプロジェクトの初期に携わったファブリックチームのデザイナーの布への愛情の強さと深さは格別で、それは産地の人にも確実に伝わる。そういう体験を目の当たりにするのも、このプロジェクトの醍醐味です。
もちろん、消費者のみなさんに日本の布の魅力を伝えられているのも、とっても嬉しい。2016年に群馬県立近代美術館で、日本の布についてのレクチャーをしたのですが、終了後に若い女性ふたりが駆け寄ってきて、『日本の布が、こんなにたくさんの職人さんたちの手が関わってつくられていることを知りませんでした』って、目に涙をためながら話してくれたんです。このプロジェクトを無印良品がおこなっていることの大きな意義を実感した瞬間でした」
これまでにFound MUJIでの展示に加えて、ワークショップも開催してきました。今年4月には、初めて海外でワークショップをおこないました。
「シンガポールに、裁断した布の切れ端などをたっぷり持っていって、パッチワークでスローをつくったんです。とても好評でした。これからも、日本の布の魅力をより多くの人に知ってもらうために、このプロジェクトを続けていければと願っています」
参考情報:MUJI BOOKS「日本の布1」
[関連コラム]日本の布づくりの旅(前編)