旬を味わう ―春の野草―
立春を過ぎて強い寒波に覆われた今年でしたが、それでも、東京では2月半ばに蕗の薹(ふきのとう)が顔を出しました。ハウス栽培の野菜と異なり、季節を正直に映して萌え出る野草たち。今回は、春の野草を例にしながら、「旬」の意味を考えてみたいと思います。
「旬」とは何でしょう?
国語辞書では、旬(しゅん)を「魚介・野菜・果物などがよくとれて味の最もよい時」と説明しています。旬と書いて「じゅん」と読めば、1ヶ月を10日ずつ三分したときの呼び名。「筍(たけのこ)の字は、生え始めて10日以内の竹を意味する」と言われれば、旬(しゅん)の中身がわかるような気がしますね。
味がよいだけでなく、旬の食材は栄養面でもすぐれているとか。冬が旬のほうれん草を例にとると、冬採りのものは夏採りに比べて3倍のビタミンCがあるそうです。また、よくとれる時期は、市場に出回る出盛り期。当然、他の時期に比べて値段も安くなります。
旬のものは、カラダにやさしい
春に萌え出る野草や山菜には、老廃物を排出して、消化や血行・新陳代謝を促す作用があると言われます。冬の間、代謝が落ちて老廃物が溜まってしまった体をすっきりデトックスできる、自然の恵みというわけですね。
夏には、キュウリやスイカなど水分の多いものが出回り、カラダの熱を取ってくれます。秋には冬の寒さに備えて脂肪の多い木の実や魚が盛りとなり、冬にはカラダを温める根菜類が多くなる。
私たちのカラダは、季節季節の食べ物によっても支えられているのがわかります。
旬の恵みを食卓へ
野草なんてよくわからない、という方でも、おそらくヨモギはご存知でしょう。古くから漢方薬として使われ、都会の空き地でも普通に見かける多年草です。お灸のモグサは、この葉の裏の白い繊維を取り出したもの。食用では草餅や草団子が有名ですが、若芽をてんぷらにしてもおいしく食べられます。
ヨモギの他にも、蕗の薹(ふきのとう)、タンポポの花と若葉、オオバコの若葉、イタドリの若芽など、てんぷらに適した野草はたくさん。野草ではありませんが、初夏の柿の若葉もてんぷらにするとなかなかです。
また、タンポポは花から根までのすべてが食用になり、花と葉はてんぷらに、根はキンピラやコーヒーにも。クローバーも、てんぷら、和え物、油炒め、酢の物などに使えるそうです。
いかがでしょう?
「野草を食べる」というとなんだか大変なことのように思えますが、ふだん何気なく見過ごしてきた道端の野草たちも、食材のひとつであることに気づきます。食べられる野草は、人の手をかけずに育った「自生の野菜」と考えてもいいかもしれません。ただ、中には毒草もありますので、図鑑などで調べてから食卓にのせることをお勧めします。
1年中欲しいものが手に入り、真冬のトマトやキュウリに慣れてしまった私たち。たしかに便利ではありますが、旬の食材から季節を感じ取る豊かさはもっと大きな心の贅沢かもしれません。また、季節外れの野菜を育てるためには温度管理のエネルギーが使われ、環境へ負荷をかけていることもたしかです。旬を考えることは、そのまま自然へ思いを寄せることにもつながりそうです。