旬を味わう ―果実酒―
6月といえば、梅雨。北海道と小笠原諸島を除いて、日本列島は雨の季節です。「梅雨」の語源には諸説ありますが、もっとも知られているのが、「梅の実が熟す頃に降る雨」というもの。そう言えば、八百屋さんやスーパーの店先に青梅が並ぶのも、この時季です。今回は、梅酒をはじめとする果実酒で、旬を味わってみましょう。
旬を漬け込む
真冬のトマトやキュウリがあたりまえのようになった今でも、日本で梅を収穫できるのは6月頃のおよそ1ヶ月間だけ。その間に収穫された青梅を、ホワイトリカーや焼酎などの蒸留酒に漬け込んでつくるのが梅酒です。
仕込んですぐに飲めるわけではないので、できあがった頃には季節感を忘れてしまいがちですが、原料の青梅は、まさにこれからが旬。梅酒をはじめ果実酒は、盛りの生命をお酒に移して、保存食にしたものといってよいでしょう。
果実酒向きの果実
これから旬を迎える果実には、青梅を筆頭にサクランボ、イチゴ、ユスラウメなどがあります。季節を追いかけていけば、枇杷、イチジク、桃、すもも、桑、夏みかん、スグリ、あけび、杏、金柑、りんごなどなど。珍しいところでは、渋柿や干し柿も果実酒の材料になるそうです。また、青森のりんご農家では、りんごを食べるときに取り除く芯の部分と種だけを漬け込んで、果実酒にすると聞いたことがあります。手塩にかけて育てたりんごの生命を、余すところなくいただく方法なのでしょう。
また、渋みや苦み、酸味が強くて生食には向かない果実も、果実酒になるとか。カラタチ、桜の実、花梨、ナナカマドなどがそれで、お酒に漬け込むことで、生のときのクセが消えておいしく味わえるそうです。
果実酒づくりの楽しみ
果実酒づくりは、一度はじめると病みつきになるといいます。果実によって仕上がりの味も香りも色も異なりますし、同じ樹から収穫した果実でもその年の気候によって味や香りが違ったりもするので、奥が深く興味が尽きないのでしょう。
また、自分で仕込めば、自分の好みを映せるのも楽しみのひとつ。たとえば梅酒なら、梅の品種や熟度にこだわる、漬け込むお酒にこだわる(ちなみに、ブランデーで漬けるのも、なかなかとか)、砂糖の種類や量にこだわる、寝かせる時間にこだわる......と、人それぞれです。
出来上がったお酒は、まさに世界にひとつだけの「マイ果実酒」。これほどの贅沢は、そうそう味わえるものではありません。
花を漬ける「花酒」
果実酒の親戚に、季節の花を漬け込む「花酒」というのもあるそうです。紫陽花(ただし、葉は有毒だそうですからご用心)、カーネーション、カモミール、金木犀、クローバー、たんぽぽ、スミレ、バラ、ラベンダー、藤、マリーゴールド、木蓮などなど、いろいろな花が花酒の材料になるとか。花の入った色鮮やかな瓶を想像するだけで、豊かな気持ちになれそうですね。
ただし、草花や果実の中には毒性を持ったものもありますので、十分に確かめた上でつくることが大切。安全性が確認できない場合は、止める勇気を持ちましょう。
いかがですか?
季節ごとのはちきれそうな生命をいただき、仕込んだあとは、ゆっくり時間に委ねる。果実酒づくりを「子育て」にたとえた人もいましたが、なんとなくわかるような気もしますね。