研究テーマ

旬を味わう ―火と鍋―

風が冷たくなってくると、温かい鍋物が恋しくなります。団欒とは、もともと、まるくなって座ること。お鍋を囲んでまるくなると心まで温まるのは、そこになごやかな空気が生まれるからでしょう。今回は、旬の鍋物を中心に「火を囲む」食事についてのお話です。

鍋物の歴史

人間は、火を使い始めたことで、他の動物とは異なる進化を遂げたと言われます。遠い昔の人は、みんなで火を取り巻いて、その日の獲物を分け合って食べたことでしょう。火を囲んでまるくなることは、食事のルーツと言えるかもしれません。
やがて、野外の火が屋内に入って、「炉」という形に。炉は竪穴式住居の跡にも見られるほどの古い歴史を持ち、この炉端での食事が鍋物の原形と言われています。
近代以前の日本の住居には、台所のかまどとは別に、調理や照明、暖房を兼ねた「いろり」がありました。その上に鍋を吊るして煮炊きし、炉端で食事するのは、農村でのごく日常的な風景。一方、町家では煤や煙が嫌われ、台所と食事をする場が切り離されていったといいます。
江戸時代に入ると、いろりのない町家や料理屋で火鉢や七輪などを使用した「小鍋仕立て」という少人数用の鍋が出てきて、鍋ブームに。農村のいろり端での食事と町で始まった鍋物の流行がクロスして、日本は鍋物大国になっていきました。

鍋物を、おいしく

日本の鍋料理は、「水鍋」「すき鍋」「煮汁鍋」と大きく3つのグループに分けられます。「水鍋」は、鶏の水炊き、しゃぶしゃぶ、ちり鍋などのように、だしを使わず真水で炊き、具材から出る旨みで仕立てるもの。「煮汁鍋」は、おでんや寄せ鍋、石狩鍋などのように、味付けしただし汁でつくる鍋。「すき鍋」は、鉄鍋を使って濃い味に作ったり、割り下や味噌だれで煮たりするタイプで、すき焼き、牛鍋のほか、牡蠣の土手鍋もこのグループに入ります。
鍋料理をおいしく楽しむコツは、つくりたい鍋の性質を知り、それに適した鍋を選ぶこと。たっぷりの汁を使う水煮や煮汁鍋には、保温力があり化学変化の少ない土鍋を。濃厚な煮汁やすき焼きには、底が平らな鉄鍋が適しています。また煮汁鍋は、最後までおいしく食べられるよう、薄味に仕立てるのがよいでしょう。

主婦の座は、鍋の座

いろりで煮炊きをしていた時代、鍋の前で火加減や煮え具合、味付けを司る主婦は、その座をゆるぎないものにしていきました。いろり端の主婦の座は「鍋座」「嬶座(かかざ)」「女座(おんなざ)」などと呼ばれ、家長の席の左右の一方にあったとか。今で言う「鍋奉行」という言葉を彷彿とさせます。
ちなみに現代では、奉行よりも厳しい仕切り役を「鍋将軍」、鍋のアクを取る作業をする人を「あく代官」、ほとんど手を出さずにひたすら食べる人は「待ち奉行・待ち娘」と呼ぶそうです。

食卓で火を囲む

湯気の向こうに親しい人の顔を見ながら、ひとつのお鍋をつつく──火には、人の心をほぐす不思議なチカラがあるようです。
キッチンでつくったものをテーブルに運ぶというスタイルが普通になっている現代ですが、たまにはテーブルのまん中に火を持ち出してみませんか。鍋物に飽きたら、鉄板での焼き肉なども楽しそう。人と人がまるくなって火を囲むことで、食事の時間をより温かいものにすることができるでしょう。

みなさんは、鍋物や卓上の火を、どんなふうに楽しんでいらっしゃいますか?
ご意見、ご感想をお聞かせください。

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食品

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